W12エンジンのハイパフォーマンス仕様を搭載
ベントレーといえば今年創業100周年を迎えることが話題だが、これまで彼らが熱心に作り続けてきたのが贅を極めた作りのグランドツアラーであることはご存じのとおりだ。そんな背景を知る正統派エンスージャストからしてみれば、2015年にデビューした同ブランド初のSUVであるベンテイガなど亜流の存在に思えるかもしれない。
しかし、今やベンテイガはベントレーの全生産台数の52%を占めるまでに成長。それを示すようにベントレーのクルー工場では、コンチネンタルGTとフライングスパーが共通の生産ラインで並行して作られていたのに対し、ベンテイガには1本の独立した生産ラインが与えられており、強い存在感を放っていた。
そんな人気モデルのラインナップを強化するため、もともとW12のみだったベンテイガに昨年はV8モデルを追加。これに続く形で、W12モデルのハイパフォーマンス仕様であるベンテイガスピードがこのほどデビューした(最高速306km/h、0→100km/h加速3.9秒)。
もっとも、そのチューニング内容はライトなものだ。エンジンは過給圧の引き上げと燃料噴射マップの見直しで最高出力は27ps増の635psを達成。足まわりやハードウェアには手を加えず、電子制御式サスペンションとアクティブアンチロールバーのソフトウェアを一部変更することで、よりスポーティなコーナリングに対応できるようにした。
しかも巧妙なのが足まわりのソフトウェアチューニングで、コンフォートモードとベントレーが推奨するBモードに関しては従来の設定を踏襲するいっぽう、スポーツモードを選択したときのみ、これまでよりハードなセッティングが適用される。つまり、日常的な快適性は従来と変わらず、必要なときのみ「牙を剥く」設定になるというわけだ。
ベンテイガスピードは公道を重視した実用モデル
試乗会が行われたのはイギリス北ウェールズのアングルシィサーキット。これまで説明したように、ベンテイガスピードは決してサーキット用のSUVではなく、むしろ公道での実用性を重視したモデル。それでもサーキットを用いたのは、安全な環境でそのポテンシャルをフルに発揮して欲しかったからとの説明を受けた。
まずはこれまでと同じセッティングのBモードで走り始めると、さしものアクティブアンチロールバーをもってしてもロールが過大で、タイヤの限界性能を引き出すのを躊躇してしまう。そんな状態でもコーナーの入り口では軽いアンダーステアに終始し、コーナー立ち上がりでやや強引にアクセルペダルを踏み込んでもアンダーステアが極端に増えることなく、またオーバーステアに陥ることもない。ベンテイガのシャシはなかなかポテンシャルが高いと感じた。
ちなみに、試乗中同乗していたインストラクターが知らぬ間にスタビリティコントロールのスイッチをオフにしていたので、前述の印象は電気仕掛けの結果ではなく、あくまでもメカニズムの優位性に立脚したものであることを強調しておきたい。
続いて待望のスポーツモードで再びコースイン。足まわりの設定がBモードとはまるで異なるとまではいわないものの、そのわずかな違いでロール量がぐっと抑えられ、4輪にしっかり荷重がかかった状態でコーナリングできるようになったのがわかる。
おかげで、恐怖感を覚えることなくタイヤのグリップ力の限界に近いハードコーナリングを試せるようになり、いつもは静寂なベンテイガのキャビンにタイヤが立てるスキール音が聞こえるようになってきた。それでも、基本的なハンドリング特性は安定しきったままで、本当に限界に近づいたときのみ、アクセルペダルのオン/オフでコーナリングラインを調整できるという大人びた味付けは、さすがベントレーと言わざるを得ない仕上がりだった。(文:大谷達也)
■ベントレー ベンテイガ スピード主要諸元
●全長×全幅×全高=5141×1998×1742mm
●ホイールベース=2995mm
●車両重量=2422g
●エンジン= V12DOHCツインターボ
●排気量=5945cc
●最高出力=635ps/5000-5750rpm
●最大トルク=900Nm/1500-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT