実測240km/hでイタリアンスーパーカーを凌ぐ実力を持つ
ワークス活動を撤退したポルシェだが、1973年のフランクフルトショーに、明らかに911ベースだがカレラより123mmも幅広いワイドフェンダーと大型リアウイングを備えたプロトタイプを出品した。2.7Lフラット6はエーベルスペヒャー製ターボで過給され、280psを発生すると公表された。
翌1974年には「930ターボ」と名付けられてパリショーに登場。1975年からデリバリーを開始するとアナウンスされる。
リアに縦置き搭載される930/50型エンジンは911伝統の空冷フラット6。排気量は2994ccでKKK製ターボを装着し、ブースト圧0.77バール、圧縮比6.5:1とボッシュKジェトロニックによる燃料供給で、260ps/35.0kgmを発生。最高速度は250km/h以上と公表された。
これだけの高性能車にもかかわらず、トランスミッションは当初4速MTのみだった。これをポルシェは「4速で十分性能を発揮できるから」と説明したが、実はサーボシンクロ機構がターボのトルクに耐えられないため4速にしたとも言われている。
とは言え、930ターボは市販モデルでも実測で240km/hオーバーを確実にマークした。イタリアン・スーパーカーの多くが6個のツインチョークキャブレターの同期調整に手こずり、本来の性能が発揮できなかったのとは対照的で、この安定性がポルシェの真骨頂とも言えた。
1978年にはさらに戦闘力を高めるためエンジンを3.3Lにスケールアップする。リアウイング内には空冷インタークーラーを搭載し、圧縮比を7.0:1に上げた結果、最高出力は+40psの300psに、トルクは+5kgmの40kgmまでアップした。
クラッチ機構の改良でエンジン搭載位置が30mm後退し、インタークーラーをエンジンフードの真下に装着したため、リアウイングの形状が変わっているのが特徴だ。
1980年代以降もマイナーチェンジが繰り返されるが、中でも大きな変更が1989年のトランスミッション換装だろう。それまでのG930型4速MTに見切りをつけ、ボルグワーナー製G50型5速MTの採用に踏み切ったのだ。
熱したナイフでバターを切るような…と言われたポルシェシンクロの操作感を惜しむ人もいたが、節度感のあるボルグワーナーのシフト感を歓迎する声が多かったのも事実だ。
と同時に、1989年をもって930ターボは15年間にわたる歴史の幕を閉じる。圧倒的な高性能をいつでもどこでも引き出せるポルシェ911の頂点は、次世代の964型に移行した。
ポルシェ 930ターボ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4290×1775×1320mm
●ホイールベース:2270mm
●重量:1140kg
●エンジン:空冷・水平対向6 SOHCターボ
●排気量:2994cc
●最高出力:260ps/5550rpm
●最大トルク:35.0kgm/4000rpm
●トランスミッション:4速MT
●駆動方式:リア縦置きRWD