なにしろ2000万円オーバーである。特別な時間を与えて欲しくなるのは当然だ。運転する時にはやはり、ちょっとした緊張感が常につきまとうことだろう。それでもベントレー ベンテイガV8には、ハンドルを握り続けたくなる、ドライバーズカーとしての類い稀な資質が宿っている。もちろん、リアシートで寛いでもいい。(Motor Magazine 2019年11月号より)

熟練工の技が光る極上のインテリア

いつの頃からか、ベントレーのドライバーズシートに腰掛けると心のさざ波がすっと静まり、我が家に帰ってきたかのような安らぎを味わえるようになった。誤解のないように申し上げれば、どう控えめにいってもベントレーは私に分不相応なクルマだ。

それでも、何度かハンドルを握って初期の緊張感が解けると、キャビンで過ごす時間の快適さに次第に心を奪われるようになった。それは、クルマと乗る者の間に起きる、一種の共鳴現象のようなものかもしれない。

本誌の読者にはいまさらいうまでもないだろうが、ベントレーのキャビンは最上級のウッドとレザーに囲まれた世界である。もちろん、オーダー次第でカーボンコンポジットに代表されるハイテク素材を用いることもできるが、いずれにしてもこれ以上ないぜいたくな材料をもちいてインテリアは作り上げられている。

いや、素材だけではない。私は何度もクルー工場を訪れてその生産過程を見学したことがあるが、そこで行われているのはベルトコンベア式の流れ作業とは別次元の、高度な技を持った職人たちが1台1台のクルマをていねいに作り上げる仕事ぶりであった。

その様子は、自動車工場というよりも自動車工房といったほうが相応しい。ここで費やされる手間ひまを考えれば、最上級プレミアムカーをやや上回る程度に過ぎないベントレーの価格がむしろ割安に思えるはずだ(私にはとうてい手が出ないけれど・・・)。 

しかも、最高の素材と人手をかけて作り上げられたインテリアは、鼻持ちならない贅沢至上主義ではなく、なぜかわれわれを温かく迎え入れる安らぎの雰囲気を醸し出している。これがベントレーのなんとも不思議な点といえる。

画像: ACCやトラフィックアシスト、レーンアシスト、ナイトビジョンなどの安全装備はセットオプションだ。

ACCやトラフィックアシスト、レーンアシスト、ナイトビジョンなどの安全装備はセットオプションだ。

ベントレー流シャシの味付けを継承しているが・・・

思い起こしてみれば、ロンドンの5つ星ホテルがまさにそんな空気を生み出している。慣れないうちは、その格式張った様子に圧倒されて落ち着かないかもしれない。けれども何度か訪れてそこでの楽しみ方を身につけると、凝り固まった心がほぐれ、リラックスしたひとときを過ごせるようになる。

おそらく、イギリス人自身がそういう環境を愛して止まないのだろう。そうした想いが、彼らに独特なインテリア作りの技をもたらすことになったと考えると、合点がいくような気がする。もちろん、ベントレーはインテリアだけが魅力のクルマではない。イギリス人の匠の技は、その走りにも現れている。

ベンテイガはベントレー初のSUVである。ただし、そのシャシの味付けは典型的なベントレーだ。だから、その乗り心地も優しい手触りのなかに、どこか芯の強さが備わっている。ラグビー選手の強靱でしなやかな筋肉を連想させるような足回りといってもいいかもしれない。

そうした傾向はベンテイガも基本的に同じなのだけれど、SUVゆえに車重が増えて重心が高くなっている分、コンチネンタルGTやフライングスパーよりもエアサスペンションの設定などをもう1段硬くする必要がある。

ここに、SUVならではの魅力とも言える大径タイヤ(ベンテイガV8の場合はスタンダードで21インチ)が加わり、いくら48Vシステムを用いたアクティブアンチロールバー(ベンテイガV8ではオプション設定となる)を駆使しようとも、乗り心地の面での不利は否めない。

スポーツ、ベントレーお勧めの「B」、コンフォート、ドライバーが自由に組み合わせを設定できるカスタムの4段階から選べるドライビングモードのうち、コンチネンタルGTやフライングスパーだったらBモードを積極的に選びたくなるのに、ベンテイガだけはコンフォートにしばしばダイヤルをあわせてしまうのはそんな理由があったからだ。

画像: 巧みの技に彩られたキャビン。いつの間にかリラックスさせてくれる。

巧みの技に彩られたキャビン。いつの間にかリラックスさせてくれる。

W12エンジンを凌ぐ低速域からのパンチ感

ところが今回試乗した最新のベンテイガV8は足まわりからのゴツゴツ感がさらに薄れ、快適性を増していた。おかげでタウンスピードでもBモードを選びたくなる機会が大きく広がったのだ。

こうなると、ダンピングがよく効いたBモードの魅力がぐんと前面に押し出されてくる。コンフォートモードに比べてボディの無駄な動きが減る分、Bモードではまるでベンテイガの巨大なボディがひとまわり小さくなったかのような俊敏さが手に入り、ベントレー本来の軽快な走りが楽しめるようになるのだ。おかげでタイトコーナーでは挙動の遅れ分をあらかじめ見積もる必要がなくなり、ハンドルを握る手首の動きだけでクイッとノーズの向きを変える俊敏性を示してくれた。

画像: カイエンなどにも搭載される4L V8ツインターボだが、チューニングはもちろんベンテイガ専用となる。

カイエンなどにも搭載される4L V8ツインターボだが、チューニングはもちろんベンテイガ専用となる。

ベンテイガV8に搭載されるエンジンは、「オリジナルベンテイガ」の6L W12ツインターボではなく、車名のとおりV8ツインターボとなる。最高出力は550ps/6000rpm、最大トルクは770Nmを1900から4500rpmのワイドレンジで発生している。

W12が絞り出す608ps、900Nmというハイスペックには、もちろん及ばない。とはいえ、とろけるように滑らかな回転フィールを除けば、パフォーマンス的にはV8のそれで十分以上に満足することができるだろう。

それどころか、低速からの立ち上がりで発揮されるV8エンジンならではのパンチ感などは「ひょっとするとW12を上回るか?」と思われるくらい痛快。しかも、内外装の作りはほとんど変わらないのに、価格はV8のほうが800万円ほども安い。このけっして小さくはない価格差を、支払総額の差としてそのまま享受してもいいけれど、ベントレー自慢のビスポークプログラムを活用して自分好みに仕立てて見るのも面白い。

ちなみに試乗車のボディカラーは、優しいブルー(ジェットストリームⅡ。「澄み渡る空を流れる気流のようなスピード感と爽やかさを連想させる」と謳われている)なのに、リアスポイラーやカーボンフェイシアを追加してスポーティに仕上げていた。世界中でただ1台のクルマとなれば、愛着もいちだんと深まることだろう。(文:大谷達也)

試乗記一覧

■ベントレー ベンテイガV8主要諸元

●全長×全幅×全高=5150×1995×1755mm
●ホイールベース=2995mm
●車両重量=2395kg
●エンジン= V8DOHCツインターボ
●排気量=3966cc
●最高出力=550ps/6000rpm
●最大トルク=770Nm/1960-4500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=2041万6000円

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