2004年2月に日本市場に導入されたアウディの旗艦モデル2代目D3型A8に、2005年春、ついにその最高峰であるA8 6.0 クワトロが追加された。デビュー以来、計画を上回る台数を販売するなど好調ぶりが伝えられていた2代目アウディA8のトップモデルとなる12気筒モデルは、当時どう評価されたのか、ライバルとなるメルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズにどう挑んだのか。当時の記事を振り返ってみたい。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より)

全長を大幅にコンパクト化したW12

メインフィーチャーは言うまでもなくエンジンだ。シングルフレームグリルを持つ専用のボディに搭載されているのは、W型12気筒6Lエンジンである。これは本国では、すでに先代A8から設定されており、さらに言えば、フォルクスワーゲン フェートンにも搭載されているものだ。

W型を簡単に説明すると、A3などに搭載される3.2Lのバンク角わずか15度のV6を、さらに72度の角度をつけてV字型に組み合わせたもので、V12と較べると全長を大幅にコンパクト化できるのが特徴。エンジンをフロントにほぼオーバーハングさせて搭載するA8にとって、12気筒を積むにはこのW型が必須のレイアウトだったというわけである。

最高出力450ps、最大トルク59.1kgmという申し分ないスペックを獲得したこのエンジンには6速ティプトロニックATが組み合わされる。駆動方式は言わずもがなのフルタイム4WD、クワトロだ。車重は2030kg、130mm長いホイールベースを持つA8 Lでも2100kgに収まる。A8 L 4.2クワトロが車重1950kgだから、エンジンその他で150kg増えていることになる。

ライバルとなるメルセデス・ベンツS600Lと車重は同じながら、こちらはクワトロである。この軽さは、言うまでもなくアウディが誇るASF(オールアルミニウムボディ)の恩恵だ。

画像: 超狭角モノブロックV6を2つ組み合わせたW型12気筒エンジン。6Rという大排気量から生み出される出力は、静粛性のために控えめにしたといいながら、実に450ps。しかも45kgmという大トルクをアイドリングから発生する。

超狭角モノブロックV6を2つ組み合わせたW型12気筒エンジン。6Rという大排気量から生み出される出力は、静粛性のために控えめにしたといいながら、実に450ps。しかも45kgmという大トルクをアイドリングから発生する。

V12とは異なるきめ細かなビート感

市街地を流すような領域では、W12ユニットはほとんどその存在を主張してはこない。十分なパワーとトルクのおかげで、アクセルを踏み込まなくても流れをリードすることができるし、また静粛性も高い。その息吹を堪能できるのは、4000rpm辺りから先の領域。いよいよ高まるパワー感とともに、一般的なV12の持つ滑らかさとは異なる、キメ細かなビート感のある独特の振動感やサウンドがもたらされる。

3.2L狭角V6にも通じるこの感触は、デッドスムーズなのを良しとする人にとっては12気筒らしくなく映るかもしれないが、その一方でA8 6.0 クワトロ独自の個性となっているのも確かだ。スポーティさを強調している今のアウディの旗艦には、なるほど相応しいフィーリングと言えるだろう。なお誤解なきよう記しておくが、静粛性が低いわけでは断じてない。高速巡航中も、間隔の空いた前後席間で普段通りの声で会話できるほど、その広い室内は静寂だ。

もちろん動力性能も十分以上。ティプトロニックのシフトパドルなど、どんな場面でも触る必要がないほどで、4速あたりでも、2速全開の時とほとんど遜色ないほどの猛烈な加速感を得ることができる。

この圧倒的な動力性能に対して、やや物足りなさがあるのがシャシだ。標準装備のアダプティブエアサスペンションは コンフォートモードでも、細かな起伏に車体が煽られ気味になる。ステアリングのゲインは高く反応もシャープだが、高速道路の導入路のような奥で回り込んだコーナーでは、どのみち大きな前輪荷重のせいでアンダーステア傾向が増しているのだし、それを逆手に、もっとリラックスできる直進性重視の方に振ってもいいはずだ。なにせこれはクワトロなのだし、その方が極上の品質で彩られた珠玉のインテリアには合っていると思う。

確かに、これがアウディ共通の味だと言えばそうだし、試乗したのが19インチタイヤを履いたスポーツだったせいもあるかもしれないが、このクラスらしい穏やかで包み込むような味わいをもっと意識してもいいのではないかと思う。

そうは言いつつも、シングルフレームグリルを持つオールアルミのボディ、W12気筒6Lエンジン、先進のクワトロ・システムなど、このA8 L 6.0 クワトロが「技術による前進」を標榜するアウディの旗艦に相応しい内容の持ち主であることは間違いない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年6月号より)

画像: クワトロシステムがありあまるパワーを無駄なく路面に伝える。スピードや路面状況を判断し瞬時に適切な硬さにダンパーを調節する電子制御アダプティブエアサスペンションも標準装備。

クワトロシステムがありあまるパワーを無駄なく路面に伝える。スピードや路面状況を判断し瞬時に適切な硬さにダンパーを調節する電子制御アダプティブエアサスペンションも標準装備。

ヒットの法則のバックナンバー

アウディ A8 6.0 クワトロ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:5055×1895×1450mm
●ホイールベース:2945mm
●車両重量:2030kg
●エンジン:W12DOHC
●排気量:5998cc
●最高出力:450ps/6200rpm
●最大トルク:580Nm/4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1480万円(2005年当時)

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