新型アウディQ3スポーツバックに試乗する機会を得た。 100km/h OK!のドイツの田舎道を駆け巡って感じたのは「首都高が楽しそう」だった。(Motor Magazine 2019年11月号より)

スポーツバックの歴史をひも解くと・・・

ドイツ本国での「もっとカッコいいアウディ2019」を探す旅は、韓流美形デザイナーと、彼女が精魂込めたスタイリッシュなクーペSUV「Q3スポーツバック」との出会いから始まった。

スポーツバックの名が冠されるのは、Qシリーズとしては初めて。まずはそのネーミングがつけられた背景から、知っておいたほうがわかりやすいだろう。

カテゴライズとしての「スポーツバック」の歴史は2004年に2代目A3に追加設定された5ドアハッチバックモデル。コンセプトはスポーティとユーティリティの両立だった。その2年後、市販前のコンセプトカーとしてA1スポーツバックが発表された。

コンパクト系に使われていた「スポーツバック」だったが、09年1月のNAIASで、大型の4ドアクーペのスタディを「スポーツバックコンセプト」として発表、後にA7スポーツバックとして市販された。09年9月にはA4ベースの2ドアクーペA5にもスポーツバックが追加されている。

どちらもヒエラルキーの中では、スポーティなプレミアムカーという位置付け。結果、スポーツバックは「美しいクーペフォルムを持ちながらも、上質なゆとりと快適性が息づいた居住空間を有し、実用性と機能性を兼ね備えたモデルにのみ付与される」と定義されている。

ちなみに最新のA5スポーツバックのコンセプトは「格式の高いパーソナルカーという欧州の伝統的なクーペの価値観に、日常的な使いやすさをクロスオーバー」で、Q3スポーツバックも基本的なロジックはこれと同じだ。

ただし、アプローチとしてはA5やA7とは逆。まずは、実用性に優れ力強さを感じさせるSUVスタイルありき。そこに、エレガントなクーペスタイルのエッセンスを加えているのだ。

どうしたって上下方向に大きさを強調しがちなSUVを、その名にふさわしい十分なユーティリティ性能や力強い存在感を失うことなく流麗なフォルムに磨き上げていくことは、なかなか至難の技だったにちがいない。

エクステリアデザインを担当したスーラン・パク氏も、いかに視覚的に低く見せるか、が課題だった、と語る。

ベースとなったQ3に比べ、ディメンジョンは全長が長く、全高は30mmほど低い。もともとのより伸びやかなシルエットに加えて、Dピラーの付け根を60mmほど後ろにオフセットすることで、長く流麗なルーフラインを生み出している。

ショルダーのラインも低められており、スポーティ感をさらに強く印象付けてくれるようだ。そこにストレートにつながる「クワトロブリスター」と呼ばれるホイールアーチのマッシブなアレンジが、強い存在感を加えている。

こうした「カッコいい」変更にもかかわらず室内の居住性は極力犠牲になっていない、とパク氏。

後席に座ってみると確かに、身長176cmの私なら肩口のゆとりは十分だった。ヘッドルームのクリアランスはもう少し欲しいところだけれど、長時間リアシートに座っていても不快さを感じることはない。足もとのゆとりがしっかり確保されていることもあるが、なにより乗り心地が良好なことが、好印象につながった。

優れた居住性と心踊る速さ感との「クロスオーバー」。なるほど確かに「スポーツバック」だ。

画像: Qシリーズ初のスポーツバック。若々しい感性が魅力だ。

Qシリーズ初のスポーツバック。若々しい感性が魅力だ。

オールラウンダーとして、道を選ばない走りの感性

デザイン面から巧みに演出された「速さ感」にふさわしく、ダイナミック性能もまた、Q3スポーツバックはスポーティな味わいを堪能させてくれる。ただし気をつけておきたいのが、このクルマが走行性能に関してもクロスオーバーであることにこだわり、さまざまな路面で安定した走りを実現するオールラウンダーとして熟成されている、という点だろう。

他を圧倒するような速さを極めるのではなく、どんなシーンでも扱いやすくストレスを感じさせないスマートなパフォーマンスを追求している印象があるのだ。

ドイツ本国でのエンジンラインナップとしては、2L直4ターボのTFSI(230ps/350Nm)を頂点に、2L直4ディーゼルターボが2種類(190ps/400Nm、150ps/340Nm)が設定され、それぞれにクワトロシステム&Sトロニックとの組み合わせを選ぶことができる(150ps仕様のTDIは6速MTのみクワトロ)。

さらにエントリーレンジにはシリンダーオンデマンド機能がついた1.5L直4ターボ(150ps/250Nm)が用意されている。日本に導入される仕様としてもっとも期待値が高いのが、この1.5LターボとSトロニックを組み合わせたTFSI(FF)だ。

このエンジンはDCTと組み合わされる際に、48V電源システムを備えたマイルドハイブリッド(MHEV)化が施される。クランクシャフト部にベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)が配され、減速時の効率的なエネルギー回生を実現している。

BASを使うことで同時に、Q3スポーツバックはアイドリングストップからの素早いリスタートや、最大50Nmのトルク増および9kWのパワーアシストといった、ダイナミック面での緻密なエネルギーマネジメントまで行う。

テストドライブの舞台となったのは、ドイツの西南の端、スイスとフランスの国境にほど近いバーテン・ヴュルテンブルグ州にある「シュヴァルツヴァルト」と呼ばれるエリア。森と高原の合間を縫うように走る道はかなり狭苦しい片側1車線で、うねうねと緩急のあるコーナーが連続している。

イメージ的には伊豆スカイラインだろうか。ただしこちらは可能なら100km/hで走っても構わない。対向車線からビュンビュン飛ばしてくるクルマも多く、左ハンドルに慣れていない身には少々恐怖感すら覚える。

とはいえ、適度なアップダウンや荒れ気味の路面コンディションも含めて、試乗コースとしてはかなりタフで面白い。さらにドイツは速度制限が日本とは比べ物にならないほど厳格で、街中に入るといきなり50km/h、あるいは10~30km/hまで制限されることが珍しくない。

そのため、瞬時に速度を落とし、制限が解除されれば素早く加速するメリハリの効いた運転ができることが、非常に大切。裏返せば、そうしたドライビングに応えてくれるかどうかが、クルマのダイナミック性能を推し量る重要なメルクマールとなる。

そんなテストシーンで、CセグメントのQ3スポーツバックには少々パワー不足に思える1.5LエンジンとMHEVの組み合わせが、ハイスペックな2LユニットやTDIモデルにけっして引けを取らない、ゆとりのドライビングを楽しませてくれた。

画像: 傾斜がキツめのDピラーのおかげで、室内からもクーペライクなフォルムを感じ取ることができる。

傾斜がキツめのDピラーのおかげで、室内からもクーペライクなフォルムを感じ取ることができる。

スムーズかつスマートなドライビングを満喫

BASによるアシストやリスタートはナチュラルで、加速感や振動などを感じ取ることは難しい。ことさらトルクフルな印象も薄い。だがアクセルペダルを踏んだ瞬間からスムーズに立ち上がるトルク感は、とくに加減速が頻繁な今回のテストコースでは、妙な緊張感を覚えることなくリラックスして走り続けることができる。

2Lターボは回転が上がれば鋭い加速を体感させてくれるのだが、低速時に軽くトルクの谷間が感じられ、少し扱いづらい印象があった。ディーゼルもフラットなトルクが魅力だが、伸びやかさという点では少々物足りない。気持ちの良い高原地帯をひた走るツーリングには、TFSIのスマートな走り味がぴったりだ。

もうひとつ、気持ちの良さを支えてくれたのが、しなやかなフットワークだった。テストカーは比較的硬めのスプリングとダンパーを組み合わせたスポーツタイプのサスペンションに、オプションのダンピングコントロール機能が搭載されていたが、挙動は終始素すなお。カドのない優しい乗り心地はとくにロングランでは魅力だろう。

ダンピングはコンフォート、オート、ダイナミックの3つから選択できるが、オートがもっともバランスが良かった。ダイナミックでは乗り心地にヒョコヒョコとした落ち着きのなさが感じられるし、コンフォートではハンドリングが少し神経質になってしまう印象を受けた。オートなら、乗り味にも挙動にも淀みが少なくストレスを感じることはなさそうだ。

テストコースは伊豆スカイライン……と表現したけれど、速度域を考えればある意味、首都高速道路にも似ている。カタチはオシャレだしメリハリのきいたドラビングが楽しめるし、東京や横浜あたりでナイトドライブを楽しむシーンがぴったりだ。現実的には同じナイトドライブでも、深夜残業の帰宅シーンかもしれない。けれどQ3スポーツバックなら、シャキっと爽快な気分で家路につくことができそうな気がする。(文:神原 久)

画像: どんなシーンでも、どんな路面でも落ち着きのある走りを堪能できた。

どんなシーンでも、どんな路面でも落ち着きのある走りを堪能できた。

試乗記一覧

■アウディQ3スポーツバック35TFSI SラインSトロニック主要諸元

●全長×全幅×全高=4500×1843×1567mm
●ホイールベース=2680mm
●車両重量=1460kg
●エンジン= 直4DOHCターボ
●排気量=1498cc
●最高出力=150ps/5000-6000rpm
●最大トルク=250Nm/1500-3500rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=7速DCT

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