2004年に登場した997型ポルシェ911は、ユーザーの要望に応えるように、歴代モデル同様、次々とバリエーションを追加していく。クーペで登場した後、4WDモデル、カブリオレモデルを設定、そして待望の4WD+カブリオレの「ポルシェ 911カレラ4/4S カブリオレ(Porsche 911 Carrera 4/4S Cabriolet)」誕生ということになる。このふたつの組み合わせはどんな個性を生み出すのか。ドイツ・ケルン郊外で行われたテストドライブの模様から、その魅力を探ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年9月号より)

RRの美点を際立たせる、ポルシェ911カレラ4/4Sカブリオレの4WDシステム

「今度の911はRRモデルと4WDモデルとでボディが違う」これはすでに報告している事柄だが、標準ボディのカレラ/カレラSに対し、それぞれを4WD化したカレラ4/4Sではよりファットなリアタイヤ装着を前提として、リアのフェンダー周りが44mmワイドな専用ボディを身に纏うことになる。

そもそも「911特有のRRレイアウトという稀有なデザインが持つ美点をさらに際立てるために」という目的から採用されるのが、このクルマの4WDシステム。言うなれば、そんなよりプレミアムなシャシの存在を見た目上からもハッキリと認識して貰おうというのが、新しい911シリーズにかけるポルシェ社の目論見と考えても良いだろう。

そしてもちろん、そんなバリエーション戦略はクーペモデルだけではなく、オープンモデルでも反復されている。すなわち、カレラ4/4Sクーペをベースとしたワイドボディを採用するのが、今回の題材であるカレラ4/4Sカブリオレである。

カレラ4/4Sクーペの国際試乗会がモナコで開催されてから、まだわずかに1カ月余り。それゆえ、「そこからルーフを取り去っただけ」のカブリオレの印象を詳しく述べるのは難しい作業になるのでは、とも感じていた。ところが、ポルシェ本社の広報チームはそんな懸念を読み透かしたかのように、今度はモナコとはまったく異なるテストフィールドを用意してくれていた。今回の舞台は、歴史あるドイツ第四の都市であるケルンの郊外。ポルシェは意外にもドイツ国内でイベントを行うことが少ないが、今回敢えて選択したということは、ワインディングロードが主体の前回のイベントでは不足気味となった高速シーン(しかも今回は速度無制限のアウトバーン)を思う存分に味わって貰おうという趣旨であるに違いない!?

というわけで、さっそくアウトバーンに躍り出てアクセルペダルを深く踏み込んでみる前に、今一度カレラ4/4Sカブリオレの詳細をチェックしておこう。

すでに述べたように、これらのベースとなったのはカレラ4/4Sのクーペモデル。カレラ/カレラSのクーペに対するそのカブリオレモデルの関係の場合と同様に、サイドシルには補強材が加えられ、各部のピラーやそのピラーとシルとの接続部には通常の2倍の板厚を持つ部材を用いるなどで、「42kgに過ぎない」というソフトトップシステムの重量を含めてクーペ比で85kgの重量増が報告されているのが「4WDのカブリオレ」となっている。

搭載エンジンやトランスミッション、そしてそこに採用される装備群は基本的にはいずれもクーペのそれに準じたもの。前述のごとき重量差が存在をするにもかかわらず、3.8Lエンジンを搭載するカレラ4Sで288km/h、3.6Lのカレラ4でも280km/h(いずれもMT仕様の場合)と発表される最高速のデータは、まったくの同一値という関係。加速のデータはさすがに前述重量差の分だけカブリオレが後塵を浴びる結果になるものの、それでも0→100km/hの区間で0.1〜0.2秒の差とごく僅かなものだ。

ルーフサイドに格納された一般的なカーテンエアバッグではなく、ドアトリム上部に納められて万一の際には下から上に向けて展開する側頭部保護用のエアバッグは、クーペ同様にカブリオレでも標準装備。横転の危険を感知すると自動的に立ち上がって生存空間を確保するリアシート背後の格納式ロールオーバーバーも、後輪駆動のカブリオレ同様に標準装備となる。

画像: ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ。4WDであり、かつカブリオレという贅沢な存在。テストドライブではアウトバーンの他に、高速コーナーが続くワインディングでも行なった。

ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ。4WDであり、かつカブリオレという贅沢な存在。テストドライブではアウトバーンの他に、高速コーナーが続くワインディングでも行なった。

オーバー200km/hでリラックス。ポルシェ911カレラ4/4Sカブリオレの安定性

というわけで、空いたアウトバーンに乗り込んでアクセルペダルを踏み込む。と、デジタル/アナログ併用のスピードメーターはこのクルマがたちまちオーバー200km/hの世界に突入したことを教えてくれる。

今回乗ったカレラ4カブリオレは、いずれもオプション設定の電子制御可変減衰力ダンパー「PASM」と19インチタイヤを採用し、すなわち脚の仕様はカレラ4Sと同様という状態。低速域でのしなやかさは「PASM」の威力によるところが大きいというのはモナコで確認済みだが、一方でこうしたオーバー200km/hの領域でもまったくリラックスした直進性を味わわせてくれるのは間違いなく4WDシステムの恩恵が大きいはず。途中何度か250km/hを超えるシーンまで踏み込むことになったが、同じ条件をRRモデルで走ったとしたら、その緊張感が今回のモデルよりもグンと大きいものになったであろうことは経験上確実だ。

一方で、特にタイトなターンでのノーズの動きの軽快感はやはりフロントセクションがより軽いRRモデルのそれには及ばない。150km/hを超えるシーンが日常のヨーロッパでは4WD化の恩恵が度々ある一方で、合法的な最高速度が100km/h少々に制限されるアメリカや日本のマーケットでは、いかに(超)高速域での走りのメリットが大きいとはいっても「これならば軽快感のより強いRRモデルに惹かれる」という声の存在を無視することが出来ないというのも現実だろう。

それにしても、爽快なオープンエアモータリングをものにしながらも、あらゆる走りのシチュエーションに適応する走りのポテンシャルを身につけたカレラ4/4Sカブリオレというモデルは、何と贅沢なスポーツカーなのだろう。ルーフを閉じ、エアコンの効いた快適なキャビンでオーバー200km/hのクルージングを続けながら、ぼくは改めて心底そう感心をすることになった。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: Aピラーには超高張力スチール製チューブが組み込まれ、リアシート背後にはオートマチックロールオーバーバーが装備されるポルシェ911 カレラ4/4S カブリオレ。

Aピラーには超高張力スチール製チューブが組み込まれ、リアシート背後にはオートマチックロールオーバーバーが装備されるポルシェ911 カレラ4/4S カブリオレ。

ヒットの法則のバックナンバー

ポルシェ 911カレラ4カブリオレ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4427×1852×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1535kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3596cc
●最高出力:325ps/6800rpm
●最大トルク:370Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●最高速:280km/h
※欧州仕様、ティプトロニックS(5速AT)もあり

ポルシェ 911カレラ4Sカブリオレ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4427×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1560kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3824cc
●最高出力:355ps/6600rpm
●最大トルク:400Nm/4600rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●最高速:288km/h
※欧州仕様、ティプトロニックS(5速AT)もあり

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