2005年に登場したアウディA6アバント(3代目C6型)は「アウディの勢い」を感じさせる自信に溢れたモデルだった。先進的でエモーションを掻き立てるブランドとして快進撃を続けるアウディの最新作A6アバントはどんなモデルだったのか。A6アバント3.2FSI クワトロとBMW 530iツーリングの比較試乗で検証してみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年9月号より)

プレミアムブランドにとってワゴンは豊かなライフスタイルの象徴

ステーションワゴンは、プレミアムと称するブランドのラインナップの中でも、とりわけスペシャル感の高い存在である。その姿は、まさに豊かなライフスタイルの象徴。あえて幾許かのエクストラコストを支払って、それを手にする意味を持った生活を送るオーナーを想像させる。

無論、それは単にイメージだけにとどまらず、実際に生活の充実度を高める効果ももちろん持っているのだが、いずれにせよ一般的なセダンとは明らかに違った、華やかな空気を持つ存在なのは間違いない。

そんなプレミアムブランドによるステーションワゴンの価値を体現する存在として、真っ先に思い浮かぶのがアウディのアバントだ。とくに1982年に登場した、あの思いきり寝かされたリアゲートを持つアウディ100アバントの姿が今も目に焼き付いているという人は少なくないはずだ。そして今、その後継車としてアウディのプレミアム性や艶めきといった部分をもっとも強くアピールするモデルであるA6アバントが新型へと生まれ変わった。

高い機能性をこそが最優先という普遍的なワゴンの価値観とは一線を画する独自のあり方が揺らいでいないということは、そのスタイリングを見れば一目瞭然だ。それが端的に表れているのは、ドライバーの頭の辺りを頂点に後端に向けてなだらかに下降していくルーフ形状。それを強調するサイドウインドウのグラフィックスやルーフにベタ付けされたルーフレールなどが相まって、大げさに言えばクーペのような地を這わんばかりのフォルムがそこには形づくられている。この大胆さは、まさにアウディのアバントだからこそ受け入れられることかもしれない。

一方、スタイリッシュなワゴンとしては、BMW5シリーズツーリングも忘れてはならない存在である。昨年登場した現行モデルも、その基本線は不変。スタイリングは美しさが際立った仕上がりだ。とは言っても、そのフォルムはきわめてオーソドックス。その姿は、セダンよりアクが薄まっているほどで、きわめて均整のとれた美しいプロファイルというBMWのツーリングの基本は以前から変わっていない。そもそもビジネスライクには陥らない、どこか伊達を感じさせるBMWブランドの、しかもワゴンなのだ。正攻法で攻めても、十分に艶めきを感じさせるということだろう。

こんな風にスタイルに徹底的なこだわりを見せる両車だが、興味深いのは、ともにユーティリティ性に従来以上の配慮が感じられること。

A6アバントのラゲッジスペースは、後席を立てた状態で565L、畳めば1660Lを確保。先代よりそれぞれ110L、70Lの大幅増を実現している。さらにラゲッジフロアの左右には、荷物固定用のフックや荷室を自由な位置で区切って使えるセパレーションバーなどを固定してスペースを有効活用できるガイドレールを装備。濡れたものも構わず放り込んでおける樹脂製のフロアアンダートレイも備わった。

とは言っても、その体躯からすれば、容量は依然特筆するほどではないのも事実。5シリーズツーリングの通常時500L、最大1615Lよりは若干大きいとは言え、80mmの全長の差からすれば、それも驚くほどではない。自慢のラゲッジスペース内の仕掛けにしても、ほとんどが他車で既に採用されているもの。しかも、可動部分の見た目や手触り、操作感は、実はそれほど高くない。

一方、5シリーズツーリングのラゲッジスペースには、テールゲートを開けると自動的に跳ね上げられるラゲッジエリアカバーや床下の小物入れを用意。何とその上のフロアボードにはダンパーが仕込まれていて、実にたおやかに開くという凝りようだ。またオプションで、A6アバントが日本導入を見送った電動開閉式のテールゲートも装備できる。

そして、これら機能性という項目以上に、おそらくはスタイリングと同じくらい両車が力を注ぎ込んでいるのが、走りっぷりである。とりわけA6アバントは、この面でもずいぶん攻めてきたという印象だ。

まず特筆すべきはV型8気筒モデルを用意したことである。5シリーズは本国にはある545iツーリングの日本導入を回避している。つまり、この価格帯ではメルセデス・ベンツEクラスが圧倒的に強いという現実があるのだが、そこに真正面から斬り込んできたアウディの姿勢には本気が感じられる。

しかしBMWも、このA6アバント導入にぶつけるかたちで、やっと車種ラインナップの充実を図ってきた。新たに追加されたのは530iツーリング。V型8気筒こそ用意されないが、それでもセダンの人気グレードのようやくの登場である。

注目は、そのエンジンが例のマグネシウム合金ブロックとバルブトロニックを採用した最新の直列6気筒だということだ。実はこのタイミングで5シリーズは、6気筒エンジンの新世代への移行と装備の充実が図られている。繊細な印象もあった従来ユニットから一変、力強いトルクを感じさせる新エンジンは、とくにツーリングにはぴったりと言える。

もう一点、アウディのA6に賭ける意気込みを感じさせるのが、アダプティブエアサスペンションの投入だ。従来もオールロードクワトロは主に車高調整の目的でエアサスペンションが採用されていたが、A6との組み合わせは初めてとなる。ワゴンは積載状況による荷重変化の幅が大きいだけに、車高やその前後バランスを常に最適に保てるエアサスペンションの意義は大きい。ちなみに4.2クワトロに標準装備。3.2クワトロにオプションとなる。

一方の5シリーズツーリングは、リアにのみ自動車高調整機能の付いたエアスプリング式のサスペンションを標準装備する。こちらは完全に縁の下の力持ちに徹していて、車高の手動調整や減衰力の調整機構などは持たず、動作はすべて特段の意識をさせることなく行われる。

画像: アウディ A6 アバント 3.2 FSI クワトロ。アバントの伝統と言える流麗で力強いデザインを採用し、プレミアム感を強調。

アウディ A6 アバント 3.2 FSI クワトロ。アバントの伝統と言える流麗で力強いデザインを採用し、プレミアム感を強調。

画像: BMW530i ツーリング。オーソドックスだが、均整のとれた美しいプロポーションがプレミアムワゴンらしい艶を見せる。

BMW530i ツーリング。オーソドックスだが、均整のとれた美しいプロポーションがプレミアムワゴンらしい艶を見せる。

2台に共通して感じたトータルの完成度の高さと時代に鋭敏な感性

さて、ではこの2台の実際の走りっぷりはどんなものか。ここではA6アバントの主力となるだろう3.2FSIクワトロと、それに真正面からぶつかるBMW530iツーリングを比較してみた。

A6アバントの3.2L FSIユニットは、上から下まであまりに澱みなく回り切るため、一瞬トルク感が希薄とも思えるのだが、実際は全域で十分なトルクを発生しており、軽く踏み込むだけで、滑らかに速度を高めていく。

シャシはアダプティブエアサスペンション付きが断然良かった。アウディの悪癖である常に上下に揺さぶり続けられるあの感じが払拭されて、実にフラットな乗り味を見せるのだ。プラス32万円の価値は、その乗り心地だけでも十分にある。

一方、新エンジンを得てこれまで以上に魅力を増したのが530iツーリングだ。従来のストレート6に較べて格段に高まった低中速域の力感は、ワゴンにとってはとくに嬉しいポイント。トップエンドのキレの良さと、その時に発する金属質の快音も走りの歓びを倍加させる。

フットワークの印象は従来とほとんど変わらない。乗り心地は若干マイルドになった気がするが、これはあるいはランフラットタイヤの改良の賜物か。いずれにせよ多くの人にとって歓迎すべき進化だろう。

新顔A6アバントと、迎え撃つ5シリーズツーリング。2台に共通して感じたのは、スタイルへのこだわりの深化と同時に、ユーティリティ性のプライオリティも明らかに高まっているということだ。

ただし、それは荷物をフルに積み込むというニーズが増えたからかと言えば、そうではない。これらは、実用性の高そうな雰囲気をわかりやすくアピールする演出の一環と見た方が、むしろしっくり来る。購買層の主力となるだろうニューリッチなどと称される人達にアピールするには、じっくり使って初めてわかる味わい以上に、より直接的に伝わる魅力、たとえばこれら2台なら、荷物の大きさに応じてラゲッジスペースを間仕切りをするのすらもちょっとスマートに行えるという雰囲気のようなものこそが求められるのだ。この辺り、とくに玄人好みの存在からエモーションを掻き立てるブランドへと脱皮しつつあるアウディは、はっきり認識しているはずである。

単に見た目が魅力的だというだけでなく、その時代ごとにユーザーが求めるものに対して敏感であること。それは本当の意味でスタイリッシュな存在として認知されるためには必須の条件であり、とくにこのクラスではそれがプレミアム性にも直結する。とりわけステーションワゴンというカテゴリーでは、フォーマルなセダン以上にそうした資質が浮き彫りにされやすい。

アウディとBMWは、ともに鋭敏な感性を持つブランドである。さすがステーションワゴン作りには、そうした面に長けたところがしかと表れており、そのコンセプトからデザイン、使い勝手まで含めたトータルの完成度は、まさに脱帽ものだ。

とくにA6アバントは、その積極的なアプローチによって、これまでこのカテゴリーを牽引してきた存在としての自信のほどを見せつけている。まだアッパーミドルセグメントを攻略しきれているとは言えないアウディだが、その状況を打ち破るのは、あるいはこの「これぞアウディ」新型A6アバントかもしれない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: アウディA6アバントの主力となるだろう3.2FSIクワトロ(左)と、それに真正面からぶつかるBMW530iツーリング。

アウディA6アバントの主力となるだろう3.2FSIクワトロ(左)と、それに真正面からぶつかるBMW530iツーリング。

ヒットの法則のバックナンバー

アウディ A6 アバント 3.2 FSI クワトロ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4935×1855×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1850kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3122cc
●最高出力:255ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:726万円(2005年当時)

BMW530i ツーリング(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1845×1490mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:755万円(2005年当時)

This article is a sponsored article by
''.