世界の自動車メーカーがこぞって開発車両のテストを行い、その実力を誇示するためにラップタイム競走が行なわれているドイツのニュルブルクリンク北コース。ここでまたFFモデルによる新たな記録が生まれた。
7分40秒10。このタイムはトロフィーRが記録したもので、それまでFF最速を誇っていたホンダ シビックタイプRの7分43秒80から3秒以上のタイム更新を実現している。
そして新型トロフィーRが、世界のどのサーキットを走っても速くなっていることを証明するために、こんどは鈴鹿サーキットへとやってきた。
鈴鹿サーキットで先代トロフィーRが2014年11月に記録したタイムは2分28秒465。このタイムを少しでも上回り、どのサーキットを走っても速く、新型トロフィーRが進化していることを証明したいという。すでにニュルブルクリンクの後にスパフランコルシャンでもタイムを更新しているというから、鈴鹿でのタイム更新は必須条件なのだ。
とくに昨年、ルノースポールモデルはフランス、ドイツについで日本が世界で3番目に売れているということで、日本市場というのはとても重視されているという。そんな背景もあって、日本でのさらなる知名度アップは欠かせないというわけだ。
トロフィーRはメガーヌR.S.トロフィーをベースに、130kgもの軽量化が図られた特別限定モデル。軽量化はまず4輪操舵システムである「4CONTROL(フォーコントロール)」を外すことで、35kgの軽量化を実現。そのほかにもカーボンボンネットの採用やリアシートを外して2座とすることで大幅な軽量化が図られている。
また、今回のアタック車両にはオプションで用意されている19インチカーボンホイールとフロントカーボンセラミックブレーキも装着されており、これで1本あたり2kg、トータルで8kgの軽量化を実現している。さらに細かいところではトロフィーでは8インチのモニターが標準装備となるが、トロフィーRでは7インチのモニターへと小型することで、150g軽くしているという。このように涙ぐましい努力を行って、トータル130kgものダイエットに成功したというわけだ。
装着しているタイヤは専用に開発したメガーヌR.S.トロフィーでも採用されているブリヂストンのポテンザS007 RS。街乗りでのウエット性能も考慮して、それなりに溝が刻んであるので、タイムアタックに最適なタイヤとは言えず、連続での周回ではタイムが出ないという。1周1発のアタックでミスなくきっちりタイムを刻んでくることが重要になりそうだ。
2019年11月26日、鈴鹿サーキットの占有時間は2時間。今回のタイムアタックにはルノースポールのテスト兼開発ドライバーであるロラン・ウルゴン氏と、日本のレーシングドライバーである谷口信輝氏の2名が担当。まず1stアタックはウルゴン氏がステアリングを握る。
ルノースタッフと取材に駆け付けたメディア陣はタイムモニターに釘付けとなる中、1周のアタックを終えて映し出されたタイムは2分25秒961。一発での目標クリアでピット内は歓声が上がった。しかし、戻ってきたウルゴン氏は喜んではいるものの、満足していないご様子。聞いてみると、どうもシフトミスがあったようで、完璧なアタックではなかったようだ。その後、再度ウルゴン氏のアタックで2分25秒749にタイムアップに成功する。
するとこんどは谷口氏にバトンタッチ、あっさり2分25秒656とウルゴン氏のタイムを更新してきた。これでウルゴン氏の闘志に火が付いた。タイヤを交換して最後にフレッシュなタイヤでアタックしたいと言ってきたのだ。時間もあとわずかな中、ピットスタッフも大慌てでタイヤ交換を行い、コースへと送り出す。すると少し重い標準ホイールでのアタックにもかからわず、最後の最後に2分25秒454というこの日のファーステストラップをたたき出したのだ。これにはピット内の誰もが祝福の拍手を送った。
谷口氏は「僕は完成されたクルマを確認しただけ。トロフィーは誰にでもオススメできるけど、トロフィーRは腕にある人にしかオススメできない。電子デバイスで速く走らせられるクルマは多いけど、トロフィーRは素性の良さでここまで走れることを証明できて良かった」とコメント。
ウルゴン氏は「クルマのパフォーマンスの高さは今回のタイムアタックで伝わったと思う。鈴鹿という名門のサーキットでタイム更新をできて本当に嬉しい。日本というマーケットはルノースポールにとって非常に重要で、今回の結果は大きな意義がある」とコメントしている。
メガーヌR.S.トロフィーRは世界で500台限定での発売となり、日本には50台程度しか導入されないという。さらにオプションのカーボンホイールとカーボンセラミックブレーキドリルドブレーキディスクは30セット限定ということだ。
すでに2020年1月に開催される東京オートサロンでの発表がアナウンスされており、気になる人はぜひ見に行ってみるといいだろう。(文:加藤 英昭)