早くもBMW M3の次期4代目モデル登場の噂が流れ始めた2005年夏、Motor Magazine誌ではドイツ・ニュルブルクリンクであらためて3世代目E46型BMW M3クーペをテストしている。クルマはBMWドライバートレーニング仕様のM3クーペ。ニュルで感じた、その奥深き操る歓びとはどんなものだったのだろうか。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年9月号より)

E46型M3クーペは、シフトアップポイントを教えてくれるイエローランプ採用

2000年に登場したE46型M3は、まだまだ第一線の現役モデルとして愉しめる。ニュルブルクリンクを6日間ノントラブルで走行して、そう感じた。

エンジンは本国でS54B20型と呼ばれるBMW M社の作品で、直列6気筒3245ccから343ps/7900rpmの最高出力と365Nm/4900rpmの最大トルクを発揮する。

最新のBMW6気筒エンジンのシリンダーブロックは、アルミ合金からマグネシウム合金へと進化しているにもかかわらず、いまだにこのM3用6気筒エンジンは鋳鉄ブロックである。これは遅れているのではなくて、あえて「選んで」いるのである。高い温度に弱いアルミ合金よりも、ハードな走行に耐えられるというメリットがある。

それだけではない。ピストンが大きな力を発揮した時にもシリンダーブロックの剛性が高ければ歪むことなく、高回転域でも余計な振動や音が出る心配が少ない。そもそも振動が出にくい直列6気筒の素の味を、そのまま引き出そうと考えている「選択」なのだ。

直列6気筒は動的に完全バランスといわれているが、6気筒に合った排気量があるはずだ。2L以下ではフリクションロスが勝ってしまい、レスポンスの悪さが露呈してしまうから適さない。4L以上では1気筒あたりの排気量が大き過ぎて燃焼のロスが出る。

かつては3.5L、3.6L、3.8LというBMWの直列6気筒も存在したが、V型8気筒も進化した現在はこの3.2Lあたりがスイートスポットの上限だろう。他社が直列6気筒を見放してしまった感もある現代、ある意味でこのS54B32型エンジンは「ラスト・サムライ」のような存在である。

タコメーターは8000rpmからがレッドゾーンになっている。水温が通常になれば7500rpmからイエローゾーンになるが、低い時には4500rpmからイエローのランプが点灯する。最新のM5/M6とは違ってまだ水温計が付いているが、このランプは冬期などの冷間時、走り始めにどれくらいまで回転を上げてもいいのかというインフォメーションになる。

またこのタコメーターの周囲に500rpmごとに備わったイエローランプは、エンジン回転が上がっていってイエローゾーンに近づくと、水温が低い時のように徐々に下がっていき、レッドゾーンへ飛び込みそうな時には4000と4500rpmの間にある赤いランプが点滅してドライバーに知らせてくれる。

F1でドライバーにシフトアップポイントを知らせるランプと同じ役目を果たしている。全開加速でも直線でならタコメーターを見る余裕もあるだろうが、コーナリング状態ではなかなか難しい。その意味で派手に点灯する黄色と点滅する赤色の光はドライバーにうまくインフォメーションを伝えてくれるだけでなく、エンジンを守るための手段として素晴らしいシステムだと思う。

画像: ノルドシュライフ(ニュルブルクリンク北コース)は、まず入り口ゲートでチケットを差し込み周回料を支払ってからコースインする。1周するごとにこの手順が繰り返される。といっても全長20.8kmを回ってくるのには新型M5でも8分以上かかる。オートバイやバスも走れる。

ノルドシュライフ(ニュルブルクリンク北コース)は、まず入り口ゲートでチケットを差し込み周回料を支払ってからコースインする。1周するごとにこの手順が繰り返される。といっても全長20.8kmを回ってくるのには新型M5でも8分以上かかる。オートバイやバスも走れる。

安全面でも効果のあるE46型M3クーペのSMG。ここからもわかるMの思想

今回使用したM3トレーニングカーはSMG仕様である。これは、BMWドライバートレーニングで使われるM3が、すべてSMGモデルとなったからだ。

この新しいシステムでトレーニングを受けてもらいたいというBMWのスタンスもあるが、実はSMGになってから、トレーニング中のシフトミスによるトラブルが皆無になったことが大きい。

どんなにクラッチペダル付きのMTに慣れていても、ハイスピードドライビング中には、つい肩に力が入ってシフトミスをすることがある。これはシフトダウンの時だけでなく、コーナリング中に強い横Gが掛かったままシフトアップするときにもミスすることがある。

例えば3速から4速に入れる時、右コーナーだと身体が左に傾いているために3速から後方に引くと2速に入ってしまうこともあるのだ。こうなるとすぐにクラッチを切らなくてはならないが、それができない場合、エンジンを壊すだけでなくリアタイヤがロック状態になってクルマがスピンしてしまうことになる。スペースがあればよいが、ほとんどの場合はガードレールの餌食となってしまう。

SMGは、多くのドライバーにとって安全性を高めることになるわけで、それを受けてM5とM6のミッションはすべてSMG(7速)になった。しかしM3は、6速MTと6速SMGという2種類のラインナップを持つ。V8エンジンを搭載すると噂される次期型M3がSMGを採用することは間違いないが、クラッチペダル付きが好きだというユーザーは決して少なくない。その人たちを大事にするのならばMTが残る可能性は高い。

ニュルブルクリンクを走っていると、SMGのありがたみを感じることが多い。ドライ路面で他のクルマに邪魔されずに走行できる時には、シフトワークはルーティンな操作となるから、MTでもSMGでも差はないかもしれない。しかし遅いクルマに阻まれていつもとスピードが変わることもあるし、ラインを変えて抜いたためにシフトアップ/ダウンのポイントがずれてコーナリング中にシフトしなくてはならなくなった時などでも、SMGならばいつでも安全にシフトできる。

雨の場合には、レコードラインは油分が浮いて滑りやすく通りたくない。そのため、ますますこの要素が強くなる。「雨こそSMG」である。雨天時は、ドライブロジックのクラッチ接続が素速いと、シフトアップでもショックで滑りそうになるから、3番前後の中間くらいにしておくといい。

SMGもE46型M3からはSMG IIに進化した。エンジンもトランスミッションも電子制御になり、それらの協調制御もうまくなった。その効果もあって作動時間も短く、スムーズになっている。スピードが上がらない市街地走行では変速にややギクシャクする感もあるが、ある程度のスピードで走行している限りSMGのもどかしさはまったく感じない。ニュルブルクリンクのノルドシュライフではまったくデメリットを感じなかった。

パドルシフトは右手がシフトアップ、左手がシフトダウンである。これはE46型330iのSMGが備えるパドルシフトとは異なるシステムだ。330iでは押せばダウン、引けばアップだから、どちらの手でもアップとダウンができた。しかしM3はレーシングカーと同じシステムにこだわり、右手はアップのみ、左手はダウンのみにしてある。パドルはハンドルと一体になって動く。

BMWドライバートレーニングが推奨するステアリングワークなら、コーナリング中でもそのままの手の位置でパドルシフトできる。手を持ち替えない限り、最初の手の位置にパドルが備わっているからだ。特に高速サーキットの場合には操舵角が小さいから、これでまったく問題ない。

画像: M3用の6速SMGは第2世代へと進化したもの。渋滞路や街中をオートモードで走ると、さすがにまだギクシャク感がある。マニュアル感覚で操作すれば問題ない。

M3用の6速SMGは第2世代へと進化したもの。渋滞路や街中をオートモードで走ると、さすがにまだギクシャク感がある。マニュアル感覚で操作すれば問題ない。

操ることの奥深さを徹底して味わえるE46型M3クーペ

S54B32型直列6気筒は単にスムーズなエンジンというわけではない。バリバリとちょっと荒めのトルクを発揮するエンジンなのである。今回一緒に一般道を走ったM5、M6のV型10気筒の方が、力の出方としてきめが細かい感じがした。M3は排気音は大きめだし、そばに人がいるところでアクセルペダルを深く踏む気にはなれない。でも、ひとつひとつのシリンダーから力強いパンチが繰り出されている感じが伝わってきて、スポーツカーを操っているという気にさせてくれる。

そして、タコメーターを見ていないと、限りがないかのようにアクセルペダルを踏み込んだ分だけ回転がどんどん上昇していく。排気音や吸気音は、1オクターブ上がって普通ならもういっぱいかなと思ったところで、さらに踏み込むともう1オクターブ音が上がっていく。

やはりMモデルのエンジンは高回転こそが一番愉しめるところであるし、要の部分なのである。M3の魅力はエンジンとトランスミッションだけではない。そのサスペンションの奥深い能力は、エンジンパフォーマンスに合わせてチューニングされているようで、絶妙なバランスなのである。ドライバーの走り方次第で、アンダーステアにもオーバーステアにもコントロールできるのだ。操れる幅が広いから色々な走り方ができる。

ノルドシュライフを走りながらそれを説明してみよう。俗に「ギャラリーコーナー」と呼ばれるビュリュンヘンでは、最初の右直角コーナーへ進入する時にブレーキングで少し前荷重にしておく。少しハンドルを右に切って待っていると、ノーズがインを向いたかと思うとすぐにリアが滑り出してクリッピングポイントである内側の縁石に向かう。そこでアクセルペダルをイーブンから少し深く踏み込むとクルマはその角度を保ったまま加速して、乗ると「ゲロゲロゲロッ」と音がする外側の縁石に向かって進入時の角度を保ちながら穏やかに膨らんでいく。前後重量配分が50:50の後輪駆動という性質を最大限に生かすことで、アクセル、ブレーキ、ハンドルの3つを手足を使って操れるから愉しい。

ビュリュンヘンの2つのコーナーを抜けた先には、深く回り込んだ左コーナーがある。ここでは奥から進入して深いところにクリッピングポイントを置き、先の右コーナーの低い縁石をめがけて立ち上がっていく。しかし遅いクルマをここで追い越すケースが少なくない。その場合には奥から進入することができないから、早めにクリッピングポイントに付かなくてはならなくなる。しかしその後にアクセルペダルを踏むのを我慢して、しばらくイーブンを保っているとM3はきれいに回り込んでくれて、元のレコードラインに戻ることができるのだ。ラインがずれた場合でもリカバリーが早くできれば、その後に影響を残さず走れる。

FFや4WD、あるいはRR、MRなど、さまざまな駆動方式のクルマがニュルブルクリンクを走っている。それぞれにメリットとデメリットがあると思う。ただM3の場合には、BMWが理想とする前後50:50の重量バランスとFRという駆動方式によって、セオリー通りのドライビングのままで幅広いコントロールを可能にしている。

日本車にも、ニュルブルクリンクのノルドシュライフを走れるクルマはあるだろう。しかし一般道を快適に普通に走れて、ニュルも全開で走れるクルマは、ないといってもいい。BMWは標準モデルでもMモデルでも、ニュルが中心ではなく「ニュルも」走れるクルマに仕上げてあるのだ。そこにある違いは、とても大きいと思う。

M3がいかにポテンシャルの高いクルマかは、6日間パブリック走行時間帯を走りきっても、ノントラブルだったことからもわかる。もちろんタイヤはそれなりに溝が浅くなっているし、ブレーキパッドも薄くなっていたはずだ。もちろん、ガンガンと痛めつけるような走りにはならないようにしていたが、エアコンを入れっぱなしでかなり速いペースの走りであった。そして6日間で、ニュルを合計1300km走破した。この耐久性の高さは他ではちょっと見ることができないだろう。

Mモデルの魅力はエンジンだけではない。8000rpmまで元気よく回るエンジンはもちろん、それに見合った「いい足」を持っている。一般道でもアウトバーンでもレベルの高い乗り心地を提供してくれているし、そのままニュルブルクリンクを走って200km/hオーバーでフルバンプするようなコーナリングを1周の間に何回かやっても、それをこなしてしまうバランスの取れた実力を備えているのだ。

1986年に登場したE30型初代M3、1992年にデビューした第2世代のE36型M3、そして2000年に誕生したこの第3世代E46型M3。さらに2006〜2007年に登場すると噂されている第4世代のM3。直列4気筒から始まったM3のエンジンは、第4世代ではV型8気筒になりそうだ。もし4LのM3になったとしても、やはりMモデルのエンジンだから高回転型のはずだ。初代M3と比べるとそのパフォーマンスは2倍以上になろう。それでもボディやサスペンション、またブレーキの性能はそのパワーとバランスが取れていると思う。これこそが、BMW M社が並のチューナーと一線を画するところだからだ。

新しいM3が出たとしても、ボクはこのE46型M3は名車として残るだろうと思う。今でも初代M3を大事に乗っている人がいるのも同じ理由だ。それは「乗る愉しさのバランス」が取れているからなのだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: ボディサイドの「ファーラートレーニング」とは、ドイツ語で「ドライバートレーニング」という意味。

ボディサイドの「ファーラートレーニング」とは、ドイツ語で「ドライバートレーニング」という意味。

ヒットの法則のバックナンバー

BMW M3 クーペ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4871×1855×1377mm
●ホイールベース:2781mm
●車両重量:1710kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3245cc
●最高出力:343ps/7900rpm
●最大トルク:365Nm/4900rpm
●トランスミッション:6速SMG
●駆動方式:FR
●車両価格:910万1500円(2005年当時)
※データは日本仕様

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