以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「スバル 360(1960年モデル)」だ。

スバル 360(1960年モデル・K-111型):昭和35年(1960年)5月発売

画像: 1963年にはコマーシャルよりも本格的な商用モデルとしてカスタムが発売された。

1963年にはコマーシャルよりも本格的な商用モデルとしてカスタムが発売された。

1958年(昭和33年)3月に発表されたスバル360は、360cc(正確には356cc)の軽自動車とは思えない動力性能と広いキャビンスペースが42万5000円で買えると大評判を呼び、一躍軽乗用車のトップセラーの座に着いた。その勢いをかって、1959年8月にコンバーチブル(キャンバストップ)を、同年12月には初の貨物車登録となるコマーシャル(タイトル写真)を追加していく。

だが、コストと軽量化を最優先した設計だったため、問題点も浮上してくる。ひとつはトランスミッションがノンシンクロの3速MTだったこと。さらに、リアにエンジンと一体で横置きされるミッションのシフトリンケージを簡素化するため、シフトパターンが特異な横H(工)型だったことも指摘されていた。もう1点はショックアブソーバが簡素なフリクションディスク式のため、未舗装路走行時のダンピング不足が避けられなかったことだ。

画像: スバル 360の透視図。コンパクトなボディに見事にパッケージングされたメカニズムがわかる。

スバル 360の透視図。コンパクトなボディに見事にパッケージングされたメカニズムがわかる。

こうしたモデル初期の未消化な部分を解消するためマイナーチェンジを実施し、同時に量産効果による39万8000円という低価格化も実現したのが1960年モデルだ。外観上は左右2分割型から1本になったフロントバンパーで、内装は厚くなった前後シートクッションと後席のベンチシート化で見分けられる。

2ストロークの直2エンジンは形式こそ変わらないが、メインベアリングを強化し、ピストン及び燃焼室形状を改良して耐久性を向上。最高出力も2psアップの18psとなった。組み合わされるトランスミッションは2-3速に懸案だったシンクロ機構が付き、シフトパターンも標準的なH型(左上が後退/左下が1速/右上が2速/右下が3速)に改良されている。

その結果、操作性が高まり加速性能の向上に繋がった。以前から360ccとは思えない加速性能の評価は高かったが、改良型は0→80km/hを21.0秒(2名乗車時のストップウオッチ計測)で走り、さらに常用域の0-60km/h加速では従来型より1.1秒も速い14.2秒を計測してシンクロ機構の威力を見せ付けている。

画像: 写真は初期型のエンジンだが、形式的には変わらない。1960年モデルでは18ps/3.2kgmになった。

写真は初期型のエンジンだが、形式的には変わらない。1960年モデルでは18ps/3.2kgmになった。

足回りは前後トレーリングアーム・トーションバー(リアはスライドスプラインを持たないためスイングアクスル)だが、ショックアブソーバをテレスコピック式オイルダンパーに変えたことで大きい波状の凹凸を高速で乗り越える時のピッチングが抑えられた。同時にロードホールディングに優れ、ホイールベース1800mmの軽乗用車としては驚くほど高い平均速度を維持でき、高速安定性の向上も確認されている。

軽量なモノコックボディのリアにエンジン/ミッションを搭載するRRという基本構成は変わらないが、スバル 360はランニングチェンジで進化を続け、1970年まで生産されるロングセラーモデルとなった。まさに日本のモータリゼーションを牽引した1台と言えるだろう。日本の自動車技術330選や日本自動車殿堂の歴史遺産車、日本機械学会の機械遺産に認定されるなど、多くの栄誉に輝いている。

画像: スバル 360をベースに試作され、1961年の東京モーターショーに出展されたスバルスポーツ。残念ながら市販には至らなかった。

スバル 360をベースに試作され、1961年の東京モーターショーに出展されたスバルスポーツ。残念ながら市販には至らなかった。

昭和の名車のバックナンバー

スバル 360(1960年モデル)主要諸元

●全長×全幅×全高:2995×1300×1360mm
●ホイールベース:1800mm
●重量:385kg
●エンジン型式・種類:EK32型・空冷2サイクル 直2
●排気量:356cc
●最高出力:18ps/4700rpm
●最大トルク:3.2kgm/3200rpm
●トランスミッション:3速MT
●タイヤサイズ:4.50-10 2P
●価格:39万8000円

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