1シリーズに追加されたトップレンジ、豪快な走りが魅力
コンパクトカーの常識を破るフロントエンジン・リアドライブというレイアウトで登場したBMW1シリーズは、このクラスで「サムシング・ディファレント(他の何か)」、つまり皆が乗っているクルマとは別のモノを求める人達の間に浸透し始めている。
具体的な数字を挙げれば、ドイツでは今年2005年の初めから8月までの累計で3万6000台あまりを販売し、全体で15位に躍進している。またヨーロッパ全体では8万6000台が販売されている。これはゴルフやアストラなどの一般的なFF勢と比較すると3分の1から4分の1という数字だが、BMWにとっては大きなプラス材料にはなっている。
さて、ここでバイエルンの自動車メーカーは、彼らのマーケッティング戦略に則って次なる作戦に出た。それはバリエーションの追加である。それもとっておきの直列6気筒エンジンを搭載するスポーツバージョン。このエンジンは330iや530iに搭載されているマグネシウム・アルミ合金を採用した軽量ハイテクユニットで、単体重量は161kgだ。
さらに1シリーズ搭載にあたってはファインチューニングを施し、265ps/315Nmの出力を得ている。つまり、ベーシック1シリーズの2倍以上のパワーをもった最強の1シリーズが誕生したわけだ。
その性能は0→100km/hが6.1秒、最高速度はBMWの良識によって250km/hでリミッターが働くようになっている。こうした実力にもかかわらずエクステリアはあっさりとしたもので、120iとの差は17インチホイールとリアのエンブレム、そしてツインエグゾーストパイプくらいしかない。
もっともドライバーズシートに座って正面を見ると、スピードメーターは260km/h、そしてタコメーターは8000rpm(7000rpmからレッドゾーン)までそれぞれスケールアップされている。
最近のヨーロピアンスポーツ系モデルでは常識になりつつあるスターターボタンを押すと、BMWの6気筒エンジンは低く勢いの良いエグゾーストノートとともに瞬時に目覚める。スタンダード装備の6速MTは前方にローギアがある標準パターンで、右足を踏み込むと予想を超えた本格的スポーツカーを思わせる加速感に包まれる。なにしろパワーウエイトレシオは5.47kg/psで同クラスにはライバルは見当たらず、ポルシェ ボクスター(5.92kg/ps)さえをも上回っているのだ。
2速、3速そして4速とシフトアップ。正確なシフトワークは適度の重さとフリクションを感じさせるが、それがかえって「男の仕事」を印象付ける。
気が付くとスピードメーターの針はもう200km/hを超え、わずかの距離でそのままリミッターの働く250km/hに達する。BMWのエンジニアによれば、本当の(!)最高速度は270km/h以上であると言われる。
この高速域でも直進安定性は素晴らしく、同時に大型化された前後のベンチレーテッド式ディスクブレーキは制動効果もまたコントロール性も確かなので、安心して高速移動を享受することができる。もちろん、これはアウトバーンを離れてのワインディングロードでも同じで、連続するコーナーの手前で何度もハードブレーキングを試みたが、常に安定した性能でフェイディングは全く起こさなかった。
こうしたコーナーでの130iのステアリング特性は、重くなったフロントにもかかわらずニュートラルで、駆動力から解放された確かなステアリングフィールがドライバーとのコミュニケーションを助け、運転する楽しみをより確かなものにしている。
BMWはこの130iの日本への導入を積極的に考えており、東京モーターショーに出品したあと、来年2006年早々には販売を開始するはずである。おそらく標準仕様は6速オートマチックが有力だが、スポーツドライビングをもっと楽しめる6速マニュアル仕様も、ぜひ導入して欲しいものである。(文:木村好宏/Motor Magazine 2005年11月号より)
BMW 130i(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4227×1751×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:265ps/6600rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
※欧州仕様