外観のイメージとは裏腹に走りはジェントル
最終コーナーを抜ける。1.5kmと長いホームストレートにはパイロンが2カ所立てられていて減速を強いられるが、それでもメーターは軽く230km/hに達していた。
1コーナーへの進入、100m看板奥でフルブレーキング。シフトレバーをDレンジから左に3回倒し、5速から4→3→2とシフトダウン。スキール音を残しつつも安定した姿勢で左直角コーナーへと向かう。
アクセルペダルを踏んでいくと一瞬クルマが外に逃げようとするが、ごく自然にESPが働き何事もなかったかのようにコースの中央を走っていく。ヘアピン手前でブレーキング、ステアリングを左へ切る。60サイズというタイヤを履いているにもかかわらず、サイドウォールがヨレて腰が砕ける感覚がないのは、足まわりとの絶妙なセッティングが成せる技か。
下りながらのゆるい右コーナー。ここでダッシュボード上にある「ESP OFF」スイッチを押す。そして右左右のシケイン。ESPの介入がゆるくなるが、それでも完全オフにはならないので、これまた安定した姿勢でクリアする。
そしてテクニカルなコーナーが続く最終セッション。300Cのあまりの従順ぶりに、全長5m超、全幅1890mmの大柄なボディが、運転していてより「小さく」感じられたほどだ。
2004年に発売されて以来18カ月で、全世界で24万台を販売したクライスラーの人気モデル、300C。日本でも今年2005年2月から左ハンドル仕様の導入が開始されたが、今回待望の右ハンドル仕様が発表された。これはイギリス仕様などを生産するオーストリア工場製だという。
右ハンドル化にともない、従来モデルと変更になった点は大きく2つ。ひとつは3.5Lエンジン搭載車が従来の4速ATからオートスティック付5速ATへと変更されたこと、もうひとつは3.5L、5.7L HEMIエンジン車の両方に標準でタッチパネル式HDDナビゲーションが装備されたことだ。
今回「デモカーのナンバー取得が間に合わない」という理由で、新生なった富士スピードウェイ本コースでの「贅沢な」試乗会となったわけだが、なるほど、サーキットでも十分に楽しめる実力を見せつけた。
左ハンドル仕様には装備されるテレスコピックがなく、ポジションがなかなか適切に決まらないというマイナス面も見受けられたが、右ハンドル化に伴う違和感はその程度のもの。ミラーを電動格納式にしたり、ナンバープレート取付位置を下げ、大きいグリルを隠さないようにしたりと、細かな改良を加えているところに好感が持てる。
その走りの印象は全体に大人しいものだった。ESPオフのスイッチを押してシケインに進入し、ガツンとアクセルペダルを踏んでも、リアが流れることなく一番「美味しい」グリップのところでグイッと加速していく。見た目のオラオラ系の印象とは異なり、非常にジェントルな走り味だ。
ブレーキも秀逸。連続1時間のサーキット走行でも、その効きは終始変わらなかった。これはフロントから採り入れたエアをタイヤハウス内で渦巻くようにクーリングさせる設計がなされているためだという。
車両価格は税抜きで左ハンドル仕様の12万円高。標準でHDDナビが装備されることを考えると、お買い得な設定だろう。右ハンドルで普通に乗れるフルサイズセダンに生まれ変わり、今後日本でもますます人気が高まる予感がする。「アメリカンな300Cは左ハンじゃなきゃ!」という人のために、2006年は5.7HEMI 左ハンドル車も残してくれているので、ご安心を。(文:根岸誠 本誌)
クライスラー300C 5.7HEMI 右ハンドル(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:5010×1890×1490mm
●ホイールベース:3050mm
●車両重量:1860kg
●エンジン:V8OHV
●排気量:5654cc
●最高出力:340ps/5000rpm
●最大トルク:525Nm/4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:611万1000円