欧州で根強い人気を誇るマットブラック仕上げのボディは、静けさの中に他を寄せ付けない圧倒的なオーラを放つ。ドライバーズシートに落ち着けば一転、そこにはプレミアムブランドらしいきらびやかなデザイン性とともに、ドイツ車らしい機能美に包み込まれる。走れば、間違いなく虜にされるだろう。(Motor Magazine 2020年2月号より)

デビュー前から注目の的だったGT の4ドアクーペ

現在の「メルセデスAMG」の前身である「AMG」の時代を含めれば、すでに半世紀以上の歴史を刻み続けてきたエンジンスペシャリストの始まりは、当時のダイムラー・ベンツの開発部門にあった。

ここでレース用エンジンの開発を担当していたハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエルハルト・メルヒャーの二人が、ダイムラー・ベンツがモータースポーツ活動を中止したことを直接の理由として同社を退職。1967年にレース用エンジンの開発と製作を行うために、そして将来的にはそのノウハウを生かしたチューニングメルセデスを生産するために、共同でAMG社を創立したのが、その歴史の始まりである。

AMGの名はこの両氏のイニシャルに、アウフレヒトが育った街であり、最初に会社が登記された地であるグローザスバッハの頭文字を組み合わせたものとされるが、登記上の社名は実は気が遠くなるほどに長かった。あえて日本語で書くのならば、「レースエンジンを開発するための設計とテストを行うエンジニアリング会社たる、アウフレヒト・メルヒャー・グローザスバッハ」とでもするべきか。オフィス兼ガレージは、グローザスバッハの隣町であるボスタルの製粉所。「オールドミル」と呼ばれるこの場所は、現在でも当時のままその姿を留めている。

1970年代半ばに現在も本社を置くアフォルターバッハの地に移転したAMGは、1980年代にかけて、次々に優秀なレース用エンジンを生み出した。同時に長年の夢であったチューニングメルセデスを市場に投じることにも成功。レースでの圧倒的な強さを最高のセールスプロモーションとして、それらは世界の熱狂的なカーマニアを刺激し続けた。

そしてレースの世界から、AMGはダイムラー・ベンツとの提携関係を結び、1990年代終盤にはメルセデスAMGとして完全子会社化。現在ではメルセデス・ベンツのサブブランドとして、毎年飛躍的に販売台数を伸ばし続けているのは周知のとおりである。

レースの世界を制覇し、チューニングメルセデスにおいても、もはや確かなブランド性を作り上げたメルセデスAMG。彼らが最終的に望んだのは、完全自社開発によるスーパースポーツを世に送り出すことだった。その第一弾モデルとして誕生したのは、2009年に発表された「SLS AMG」。ロードスターやレース仕様のGT3、あるいはBEVのE-CELLなどのモデルが登場し、それは実質的な後継車ともいえる「GT」へと市場を譲っている。

だがメルセデスAMGからの、次なる衝撃的なニュースが届くのに長い時間は必要ではなかった。彼らはこのGTの4ドアクーペ版をデビューさせるプランを現実のものにするというのだ。それは2ドアクーペのGTをベースとしたものなのか。それともまたもやまったくの白紙から新設計されたモデルなのか。19年にそれが発表の瞬間を迎えるまで、この4ドアクーペのGTが多くの話題を呼んだのは当然の結果といえた。

画像: AMGリアアクスルステアリング、AMG ライドコントロールエアサスペンションで走りを制御。

AMGリアアクスルステアリング、AMG ライドコントロールエアサスペンションで走りを制御。

「ワンマンワンエンジン」のコンセプトを継承

実際に誕生した4ドアクーペのメルセデスAMG GT。日本には、今回試乗した「63S4マティック+」を筆頭に、「53 4マティック+」、「43 4マティック+」とフルラインナップされているが、やはりメルセデスAMGのアイデンティティたるエンジンの魅力から考えるのならば、伝統の「ワンマンワンエンジン」のコンセプトを継承して、熟練したクラフトマンによってハンドビルドされるSの魅力は大きい。

この63Sに搭載されるエンジンは、3982cc仕様のV型8気筒ツインターボで、ツインターボのシステム一式をVバンクの内側にレイアウトする、「ホットインサイドV」の設計を採用する。コンパクトな設計とターボへの理想的なエアフローを実現したことが大きな特長だ。最高出力&最大トルクは、メルセデスAMGの63モデルでは最強の数字となる639ps & 900Nmで、アクセルペダルを踏み込めば、瞬時に強烈なトルクが全身を襲う。トランスミッションは9速のAMGスピードシフトMCT。シフトチェンジの速さやブリッピング機能、レーススタート機能など、走りの楽しさへの備えは万全である。

このエンジンとトランスミッションが一体化されていることを知れば、2ドアのAMG GTのメカニズムに詳しい人は、疑問が湧くに違いない。それはなぜ4ドアクーペ版GTは2ドアのようにトランスアクスル式、すなわちトランスミッションをリアに配置することで重量配分を最適化する方法を選ばなかったのかということ。

その答えはメルセデス・ベンツEクラスと共通するプラットフォームにある。それを流用することでコストを削減する作戦をメルセデスAMGは選択したわけだが、それに対するネガが一切走りに表れていないのは、素直に彼らの能力の高さを認めなければならない。

画像: AMGダイナミックエンジンマウントを採用。鍛造アルミニウム製ピストンなどで高性能化。

AMGダイナミックエンジンマウントを採用。鍛造アルミニウム製ピストンなどで高性能化。

快適なキャビンスペース。時には「クルマ任せ」もOK

メルセデス・ベンツのCLSクラスよりも、さらに美しく見えるボディは、大人4人を快適にキャビンに迎え入れ、さらにリアには十分な容量のラゲッジルームを備える。卓越したエアロダイナミクスは、フロントバンパー内のエアパネルやリアのリトラクタブルスポイラーによって最適化され、高速域では抜群のスタビリティを感じさせてくれる。

さらにこの速度域で魅力が伝わるのは、後輪操舵のAMGリアアクスルステアリングの効果。車速が100km/h以上では前輪と同位相に最大0.5度、それ以下では逆位相に最大1.3度を操舵するこのシステムは、4WDの4マティック+とともに、どのような速度域でもコーナリングを安全に気持ち良く楽しませてくれる大きな理由となっている。

センターコンソール上にあるAMGダイナミックセレクトのスイッチを使用すると、ドライバーは「コンフォート」、「スリッピー」、「スポーツ」、「スポーツ+」、さらに4マティック+が完全なRWDとなる「レース」、そして「インディビジュアル」の各モードをチョイスできる。

このモード選択にAMGダイナミクスの設定がリンクするようになっているのも興味深い。これはESP、4マティック+、AMGリアアクスルステアリング、電子制御AMGリミテッドスリップデフなどをトータルで制御するもの。個人的にはスポーツモードで、4マティックとAMGリアアクスルステアリング、そしてこちらも絶対的な信頼感を抱かせるAMG強化ブレーキシステムによるコーナリングを、半ばクルマ任せで楽しむスタイルが好みだった。実に素晴らしい4ドアスーパースポーツの誕生だ。(文:山崎元裕)

画像: ムーディな印象が大人の4ドアGTにぴったりの、アンビエントライト。ことごとく艶っぽい。

ムーディな印象が大人の4ドアGTにぴったりの、アンビエントライト。ことごとく艶っぽい。

■メルセデスAMG GT 4ドアクーペ 63S 4MATIC主要諸元

●全長×全幅×全高=5050×1955×1445mm
●ホイールベース=2950mm
●車両重量=2130kg
●エンジン= V8DOHCツインターボ
●排気量=3982cc
●最高出力=639ps/5500-6500rpm
●最大トルク=900Nm/2500-4500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=9速AT
●車両価格(税込)=2397万円

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