C230コンプレッサー登場からわずか1年、2005年にメルセデス・ベンツCクラスは大幅な路線変更に転じる。新開発V6エンジンへのスイッチだ。熟成の域に達した観のあったW203型は、どうやって新しくなったライバルたちに立ち向かったのか。メルセデス・ベンツC230のライバルと目される、BMW 325i、アウディA4 2.0TFSIクワトロ、レクサスIS250との比較試乗を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年12月号より)

BMW3シリーズには操る歓びがある

昨年2004年に大掛かりなマイナーチェンジを敢行したばかりだというのに、今年になってさらにメルセデス・ベンツがCクラスのエンジンラインナップに手を入れてきたこと、とりわけC230コンプレッサーをV型6気筒のC230へと置き換えたことは、率直に言って驚きだった。

しかし状況を考えれば、不思議なことではない。何しろCクラスが属するいわゆるDセグメントは、メルセデスにとって難攻不落の牙城。強力なライバルに囲まれて、思うような戦果を挙げられないでいるカテゴリーだけに、がむしゃらになるのも頷けるというものである。

幾多の競合車の中でも文句なく最強の1台と称されるのがBMW3シリーズである。長年にわたりセグメントシェアの圧倒的トップを行く3シリーズは紛れもないベンチマーク。このクラスは3シリーズを中心に回っていると言っても、まったく過言ではない。

3シリーズが優れているのは、まずパッケージングである。新型となって大きくなったと言われるボディサイズだが、4525mmの全長は実はCクラスより短い。それでいて室内の前後長に余裕すら感じるのは、逆にCクラスより45mm長いホイールベースが効いているのだろう。おまけにトランク容量も、Cクラスの430Lに対して460Lと上回っているのだから、空間設計の巧みさは際立っている。

対するCクラスの室内で印象的なのは、横方向の余裕だ。左右ドアトリム間の有効室内幅は、実は全幅が85mmも違う3シリーズとほぼ同等なのである。サイドシルもドアも分厚い3シリーズに対して、Cクラスはドアトリムのえぐれるところはしっかり肉を削って、可能な限り空間に割り当てようとしている。要するにパッケージングへのこだわりは双璧を成しているのだ。

ただし、操作系の扱いやすさは断トツで3シリーズが上回っている。iDrive装着車はもちろん、そうでなくともスイッチ類はよく整理されていてアクセスは容易。対するCクラスはステアリングコラム左側だけでウインカー/ワイパー、クルーズコントロール、ステアリング調整の3本のレバーが生えていたり、見ての通り至るところスイッチだらけで、とにかく煩雑だ。

では走りはどうか。まず3シリーズはと言えば、その資質はますます研ぎ澄まされた。ステアリングが大舵角まで応答性に優れるのは従来通りだが、大きいのはそこにリアのさらなる安定感が加わったこと。よりハイペースで、より安心して楽しめるようになった。

一方のCクラスは、昨年のマイナーチェンジで磨きがかけられたフットワークが、新しいC230アバンギャルドでは、やや安定方向に揺れ戻された感がある。コーナーですぐにタイヤが鳴き出し、実際にアンダーステアに陥るのも早い。エンジン変更で車重が40kg増えた影響だろうか。ただし、それも素晴らしい直進安定性と引き換えと考えれば納得はいく。3シリーズもその点でかなりの進化を見たが、クルマ自身の意思で真直ぐ突き進むかのようなCクラスは依然として別格だ。

そのエンジンも、3シリーズはやはり絶品。中でも試乗車の325iが積む直列6気筒2.5Lは軽快感と滑らかさ、パワーのバランスが絶妙だ。C230アバンギャルドに採用された同じ2.5LのV型6気筒ユニットも、実用域でのレスポンスはやはりシリーズ中もっとも鋭く、トルクで上回る3Lよりもむしろ気持ち良く走れる。しかし325iのそれが、さすがBMWらしく7000rpmまでキッチリ、ドラマチックに吹け上がるのに対して、レブリミットの6400rpmより手前、5000rpmを超えた辺りから回転上昇の勢いが鈍りはじめる特性は、刺激性ではやはり劣る。

おそらく滅多に使わない高回転域より日常域での気持ち良さを重視したということなのだろう。それはクルマの性格には確かによく合っている。しかし操る歓びで選ぶなら、もっと回したいという衝動をもたらす325iに分があると感じるのも確かだ。

画像: BMW325i。このセグメントを築きあげ、リードし続けてきた自信に溢れる。

BMW325i。このセグメントを築きあげ、リードし続けてきた自信に溢れる。

スポーティな味付けのA4、新たな走りを求めたIS

やはり今年、大掛かりな改良を行ったアウディA4だが、基本的骨格にはこれまでと何ら変更はない。そのパッケージングは、率直に言って古くささが出てしまっている感は否めない。

たとえばA4の全長はCクラスより50mm長いが、ホイールベースは70mm短い。エンジンをオーバーハングに縦置きするレイアウトのせいだが、おかげで室内空間には明らかにしわ寄せが来ている。特に後席の足元が窮屈だ。もっとも頭上空間には余裕があり座面も大きめだから、正しい姿勢をとる限りは決して不快ではないし、前席にはCクラスと変わらない空間が広がる。

モデルライフの後半に差し掛かっているA4だけに、ナビ画面の取り付け位置の低さなど、レイアウトに古さが出てきているのはCクラスと一緒。しかし見た目の上質感は依然として一級だ。よく観察するとソフトパッドの使用割合はさほどではなかったりもするが、キチッと出した表面の合わせ目の精度など、要するに見せ方は非常にうまい。Cクラスとは逆である。

演出のうまさは走りの面でも感じられる。A4のシャシは硬めのサスペンションや軽いパワーステアリング等々、すべてが軽快感を強く意識した設定。FFもしくはクワトロの際立った安定感を武器に、キビキビとした印象のドライビングフィールを作り出しているのだ。この辺りも、FRレイアウトにしてセンターがどっしりしたステアリングや、常にフラットな姿勢を保つサスペンションで高いスタビリティを求めたCクラスとは、まさに正反対だ。

エンジンも同様で、A4のそれは全般に電子制御スロットルが敏感な設定とされていて、軽く踏んだだけで勢いよく吹け上がる。とは言え、それを差し引いても試乗車の2.0TFSIユニットは、全域で非常に力強い上に吹け上がりも鋭くスポーティなことに違いはない。ただしCクラスがほぼ同価格帯のC230をV型6気筒に改めてきたことから、今後は2.5L辺りのV型6気筒FSIを求める声も上がるのではないだろうか。

画像: アウディA4 2.0TFSIクワトロ。エンジン縦置きFFレイアウトを基本に、上質な仕立て、先進メカニズムでこのセグメントの主役の1台となった。

アウディA4 2.0TFSIクワトロ。エンジン縦置きFFレイアウトを基本に、上質な仕立て、先進メカニズムでこのセグメントの主役の1台となった。

このA4もここ数年で頭角を現してきた新興勢力だが、さらにこのセグメントには今年、強力なライバルが出現した。そう、レクサスISである。

ISのパッケージングは非常に潔い。象徴的なのはCピラー付近で大胆に絞り込まれたルーフ。これが逆にワイド感を強調したフロントフェンダーと合わせて、低重心感をこれでもかと強調した、実にスポーティなプロファイルを形づくっている。おかげで室内空間は明らかに犠牲になっていて、後席ヘッドルームなどハッキリと狭いのだが、それは確信犯である。ライバル達を追い掛ける立場のISとしては、見た目からして明確なキャラクターを打ち出さなければならないのだ。

一方、クオリティに関しては現時点でも相当なレベルにある。全面ソフトパッドとされたダッシュボードの面の平滑さなどは凄い。造形的に合わせ目の精度などにごまかしは効きにくいはずだが、目に見えるアラはない。今回の中では最高点を付けていい。

走りっぷりからは、何より洗練という言葉が想起される。それはひとつには、あらゆる面で雑味が徹底的に排除されているおかげだ。ステアリングフィールにしてもエンジンの吹け上がりにしても、すべてがとても澄んでいる。人によっては味気なく感じる人もいるかもしれないし、僕も最初はそう思った。特にメルセデスのような、ブランドの流儀がステアリングの操舵感ひとつ、アクセルペダルの重みひとつにも表れているようなクルマに馴染んだ人にとっては。

けれど今では、これはこれでアリだと感じている。要はその清廉なフィーリングの中で情報伝達が確実に行なわれ、またそれを操作していった時の動きの質にこそブランドの考え方が投影されるなら、それもレクサスというブランドの味になるだろう。

そして、そういう観点でもISは良いベースラインが築けている。特にクイックな設定のステアリングが大舵角まで非常に素直に反応する。公道ではスキール音の発生する領域まで持ち込むのも苦労する。エンジンはIS250では2.5Lとなるが、回転が至極滑らかな上に回すほどにパワーが盛り上がる特性は心地よい。ガツンと来るトルクのツキこそないが、それだけこちらの意思に従順ということでもある。

6速ATの変速の速さも心地よく、適切なステップ比やシフトスケジュールは、時にCクラスの7Gトロニック以上の一体感に繋がっている。もちろん、不満が皆無というわけではない。が、ISがCクラスとはもちろん他の何とも似ていない走りの世界を築き始めていることは間違いない。

画像: レクサスIS250バージョンS。走りの面でもライバルたちと互角に渡り合う実力も持ち合わせる。

レクサスIS250バージョンS。走りの面でもライバルたちと互角に渡り合う実力も持ち合わせる。

Cクラスと較べてどうなのかという軸から比較したライバル達。結論から言えば、どれかだけが図抜けて優れているということはなかった。もちろん項目によって得手不得手はあるし、新しいモデルの方が高得点を稼ぐ部分が多いのは事実としても、だからと言って登場5年目のCクラスが途端に色褪せて見えるということはなく、逆に熟成によって高められた完成度にハッとさせられる部分も見られたほどだ。

無論、プレミアムカーにとってハードウエアが良く出来ていることは単なる前提条件でしかなく、それ以上の何か、具体的にはそのクルマでしか得られない個性を持っていることこそが求められる。Cクラスがそれに値するということは今さら言うまでもないことかもしれないが、こうして手ごわいライバル達と比較することで、改めてそれを確認できたのは良かった。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年12月号より)

ヒットの法則

メルセデス・ベンツC230アバンギャルド(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4535×1730×1425mm
●ホイールベース:2715mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:204ps/6100rpm
●最大トルク:250Nm/3500-4000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:514万5000円

BMW325i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1510kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:525万円

アウディA4 2.0TFSIクワトロ(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4585×1770×1430mm
●ホイールベース:2645mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:473万円

レクサスIS250バージョンS(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4575×1795×1430mm
●ホイールベース:2730mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2499cc
●最高出力:215ps/6400rpm
●最大トルク:260Nm/3800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:405万円

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