昭和は遠くなりにけり・・・か。以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「日産 シーマ」だ。

日産 セドリック/グロリア シーマ(FPAY31型):昭和63年(1988年)1月発売

画像: プラットフォームはY31型セドリック/グロリアと共通だが、スタイルはまったく別モノ。

プラットフォームはY31型セドリック/グロリアと共通だが、スタイルはまったく別モノ。

1988年(昭和63年)1月18日、スペイン語で「頂上」を意味するシーマが発売された。日産は「日本的な味を持った世界に通用する新しいビッグカー」をコンセプトに、デザイン、性能、乗り味に至るまで、全ての面で最高の性能を発揮するクルマに仕上げるべく、従来の「枠」という制約を取り外した開発を行ったと言う。目に見える性能に「優雅さ・繊細さ」といった日本人にしか表現できないテイストを盛り込むことで、世界に通用する高級車を創造しようとした。

その型式からわかるように、プラットフォームは前年の1987年6月に登場したY31型セドリック/グロリア用がベースだ。しかし「機能美というよりも造形美としてのスタイリングを追及した」という3ナンバー専用の4ドアHTボディは、従来の国産高級車とは一味違う気品と知性を感じさせるデザインで多くの人を惹きつけた。フードトップに付けられた、彫刻から型を取ったアカンサス(葉薊)を模したオーナメントも、心憎い設定だった。

インテリアも空間の広さだけでなく、インターフェイスを視覚・触覚的に柔らかなテイストで統一。さらに、シート地&ドアトリムに肌触りの良い100%ウールを採用したほか、タイプⅡ/同リミテッドにオプションの本革仕様ではシートはもとより、センターコンソールリッド/ドア&リアピラートリムまで本革張りとするなど、天然素材を多用することで無意識のうち豊かさを感じさせる手法がとられる。もちろん、光通信ステアリングや前後席独立温度調節が可能なオートITエアコン、PROアコースティックサウンドシステムなど、最上級のもてなしを演出する最新機器も導入されている。

画像: 光通信ステアリングや前後席独立温度調節が可能なオートITエアコンなどのハイテク快適装備を満載。

光通信ステアリングや前後席独立温度調節が可能なオートITエアコンなどのハイテク快適装備を満載。

シーマはノーブルな内外装に似合わない圧倒的な動力性能でも注目された。このギャップが人気を支える大きな要素だったことは言うまでもない。エンジンは3LのV6 DOHCで、タイプIとタイプⅡにNAのVG30DE型、タイプII-SとタイプIIリミテッドには新開発されたターボ仕様のVG30DETが搭載された。後者の発生する255ps/35.0kgmは当時の国産乗用車最強だった。

VG30DETの主要機構は、4バルブDOHCのVG30DEをベースに、ブロックやコンロッドなど基本構造を高剛性化し、最大過給圧500mmHgの内製ハイフローセラミックターボを装着。電子制御可変吸気コントロールシステム(VICS)、電子配電システム(NDIC)、電子制御可変バルブタイミングコントロール(NVCS)、気筒別燃焼制御システム、過給圧電子制御システムなどの最新技術で脇を固め、3Lとしてはトップクラスのレッドゾーン7100rpmを実現すると同時に、約1600-6000rpmで30kgm以上のトルクを発生するフレキシビリティも備えている。

日産はこれを「新しいビッグカーにふさわしい余裕ある出力・トルクと滑らかなレスポンスを兼ね備えた、上質なハイパフォーマンスの追求」から生まれたとしているが、4速ATを介したフル加速で、リアのセミトレーリングアームサスを目いっぱい押し下げて加速する姿は、離陸体制の航空機を思わせる迫力があった。

画像: 当時の国産車としては最強の255ps/35.0kgmというパワースペックを誇ったVG30DET型エンジン。

当時の国産車としては最強の255ps/35.0kgmというパワースペックを誇ったVG30DET型エンジン。

サスペンションは基本的にY31セドリック/グロリアと共通だが、車両全幅の拡大に合わせたトレッド拡大とバネ定数・ダンパー減衰特性のチューニング、ターボ仕様へのリアビスカスLSD標準装着などで走行安定性を一段と向上させている。またタイプII/同リミテッドにはソフト/ミディアム/ハードに切り替えられる電子制御エアサスペンションを搭載。高級車にふさわしいしなやかな乗り心地の実現に配慮していた。

シーマは当初販売目標を3000台/月としていたが、発売初年度に3万6400台を販売する人気モデルとなり、「シーマ現象」と呼ぶ一大ムーブメントを巻き起こしたことは良く知られている。バブル景気の最中とはいえ500万円を越える高級車(価格帯は433~510万円)がこれだけ売れること自体、異例だったといって良いだろう。

画像: 従来の国産高級車とは一味違う、気品と知性を感じさせるデザインだった。

従来の国産高級車とは一味違う、気品と知性を感じさせるデザインだった。

昭和の名車のバックナンバー

日産 セドリック/グロリア シーマ タイプIIリミテッド 主要諸元

●全長×全幅×全高:4890×1770×1380mm
●ホイールベース:2735mm
●重量:1640kg
●エンジン型式・種類:VG30DET型・V6 DOHCターボ
●排気量:2960cc
●最高出力:255ps/6000rpm
●最大トルク:35.0kgm/3600rpm
●トランスミッション:4速AT
●タイヤサイズ:205/65R15 93H
●価格:510万円

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