スズキ エスクード(TA01W型):昭和63年(1988年)5月発売
三菱 パジェロの誕生を契機に80年代に勃発した日本のRVブームは、トヨタ/日産/いすゞを巻き込む一大ムーブメントとなった。だが、当時RVと呼ばれたクルマは、頑丈だが鈍重なクロカン4WDばかり。オフロード踏破性は折り紙つきだが日常使用にはオーバースペックという状況だった。
そこに目を付けたスズキは、オンロード性能も重視したライトクロカンともいえるエスクードを投入する。ライトとはいえ4WD機構は本格派で、簡易なFFベースのSUVにしなかったところが、ジムニーで実績を積み重ねてきたスズキの見識だった。
すべてを白紙から新開発したエスクードは、新技術の多さでも注目されている。まず骨格には、国産車で初となる3分割サイドフレームが採用された。これは110×50mmの閉断面角パイプを組んだセンターフレームの前後にプレス鋼板製の左右サイドフレームを溶接。それを6本のクロスメンバーで繋いでラダーフレームを構成する方式だ。超軽量と高剛性を両立するため、コンピュータによる構造解析を取り入れたのも新機軸だった。悪路走破時の乗り心地を確保するため、ボディはゴムブッシュによるフルフローティングマウントを介して架装されている。
エンジンもエスクードのために1.6LのSOHCガソリンが新開発された。当時スズキが生産する4輪車の中で最大排気量となるほか、シリンダーブロック&ヘッド、ピストン、ロッカーアーム、ラジエターなど主要部品のアルミ化や、カムシャフトとクランクピンを中空にするなど、徹底した軽量化を実施した。
さらに、燃料供給を正確に行うEPI(シングルポイント燃料噴射)、フルトランジスタイグナイターの採用に加え、強いスワール効果を得るためのエアインダクションシステム採用や、特殊多球形の燃焼室とクロスフロー吸排気の組み合わせで全回転域での安定した燃焼を実現するなど、最新技術で固めた傑作機として話題になっている。
とはいえ、いたずらにピークパワーを追わず、ボア×ストローク:75×90mmのロングストロークでトルクピークを常用域の2500-3500rpmに設定するなど、エスクードの車格に合わせた出力特性としたのが、4WDに造詣の深いスズキらしいセッティングといえた。
パートタイム4×4システムを構成する伝達系も、トランスミッションの後ろにトランスファーを一体化したセンタースルー方式を新採用している。また、2WDのとき前輪を駆動系から切り離して低燃費と静粛性向上を実現するオートフリーハブを標準装備したのも、乗用4WDならではの配慮だ。
サスペンションは、フロントはストラット式でコイルスプリングを分離配置することで160mmのホイールストロークを実現した。リアは前後の位置決めを左右2本のトレーリングアームで行い、左右の位置決めは中央に配した縦置きセンターウイッシュボーンで行う。スタビライザーを必要としないためリジッドでも左右輪がフレキシブルに動き、160mmのホイールストロークを生かして確実な路面追従性を発揮するようチューンされている。
この結果、高いオンロード性能と同時にオフロード性能も実現。カタログには、アプローチアングル40度/デパーチャーアングル41度/ランプブレークアングル25度とクロカン並みの対障害角度のほか、登坂能力も52.8度と記載されている。
オンとオフのバランスが良いエスクードは世界的にヒットし、初代だけで135万台を生産する大人気モデルとなっていく。1990年8月のマイナーチェンジでエンジンの16バルブ化とEPIのマルチポイント化で100psに強化。同時にATを4速化するなど一段と魅力を高める。しかし最大のポイントは同年9月に5ドアのノマドを追加したことで、これによりエスクードは人気を確実なものにしたのだった。
スズキ エスクード ハードトップ 主要諸元
●全長×全幅×全高:3560×16350×1665mm
●ホイールベース:2200mm
●重量:990kg
●エンジン型式・種類:G16A型・直4 SOHC
●排気量:1590cc
●最高出力:82ps/5500rpm(ネット)
●最大トルク:13.1kgm/3000rpm
●トランスミッション:5速MT×2
●タイヤサイズ:195SR15
●価格:178万円