縦置きFFから横置きFFへレイアウトへ変更
今年上半期のフォルクスワーゲンでもっとも興味をひくモデルと言えば、やはりパサートということになるだろう。
しかし、パサートがこのように注目の存在となったのは、実はそう昔のことではない。ブレイクのきっかけとなったのは、2002年の現行モデルのデビュー。内外装の高級感を一気に高める大規模マイナーチェンジによって人気に火がつき、それまでの日本でのフォルクスワーゲン=小型車というイメージを変革する大きなきっかけとなったのである。
このパサートの進化には実は大きな意味が込められていた。フォルクスワーゲンの最上級車種フェートンやトゥアレグと、ゴルフ/ボーラの間に横たわる大きなギャップを埋めること。それがパサートに与えられたもうひとつの使命であり、実際それは大成功を収めた。結局フェートンの日本導入は見送られたが、トゥアレグがなんなく受け入れられたのには、パサートによって高められたブランドイメージが奏功したのは想像に難くない。
また、ゴルフからステップアップするに値するモデルがようやく揃ったという意味でも、さらにはBMW 3シリーズやアウディA4、メルセデス・ベンツCクラスといった誰もが認める高級車と直接比較し、優位点をアピールできる存在となったことも、大きな意味を持っていたと言えるだろう。
さて、では新しいパサートは、一体どんなクルマに仕上がっているのだろうか。そして、それはフォルクスワーゲンのどんな未来を指し示すことになるのか。国際試乗会での印象を踏まえて、今一度考えてみることとしたい。
新型パサートのエンジニアリング上の最大の注目点は、そのシャシが従来のアウディA4との血縁関係を精算して、一般的な横置きFFへと置き換えられたことだ。その基本アーキテクチャーは実はゴルフと共通。と言っても、個々のパーツはアップグレードされており、相応に上質な仕立てとはなっているが、それでもこれが大きなニュースなのは間違いないだろう。
この恩恵が如実に表れているのが、格段に向上したスペース効率である。そのボディは現行モデルより全長で65mm、全幅で75mm拡大されているのだが、室内、特に後席とラゲッジルームはその寸法以上に広さを増していることがわかる。
ライバルとして意識されているのはフォード・モンデオやプジョー407、トヨタ・アベンシスなどだが、スペースユーティリティでこれらにヒケを取ることはなくなった。
大きく、そして広くなった新型パサートの内外装は、ともに一層高級感ある仕立てが施されている。フロントマスクにはワッペングリルをフィーチャー。スタイリング自体も、角が落され絞り込みも大きい躍動感あるものに仕上げられている。ウッドやアルミなどのパネルが大面積で使われたインテリアも、見るからに豪華な印象。
スロットに差し込む電子キーにてエンジンの始動/停止を可能にするプッシュ&ドライブや電動パーキングブレーキなど、最新の装備も多数投入されている。無論、クオリティの高さも文句の出る隙はない。
肝心な走りっぷりはと言えば、その味わいはやはりゴルフとよく似通っている。並外れた直進性の良さやコーナリングの安定感は、ホイールベースが長くなっているだけに一層強調されていて、走りは洗練されている。
日本仕様のパワートレーンは、2.0FSI+6速AT、2.0TFSI+6速AT、そして4MOTIONと組み合わされる3.2V6FSI+DSGの3タイプになりそうである。
今回試すことができたのは前二者。2.0FSIの動力性能は車重がかさむだけに必要十分といったところだが、騒音や振動はゴルフより明らかに小さい。一方2.0TFSIはターボラグがほとんど感じられずトルクカーブもフラットで非常に扱いやすかった。また、ターボの消音効果のおかげで静粛性も輪をかけて優れる。おそらく、こちらが日本での売れ筋となるに違いない。
リーズナブルな価格で高品質と存在感を実現
ただし気になるところもある。たとえばゴルフと同じパワーステアリングは、滑らかではあるが繊細な路面感覚を伝えるとまでは言えない。基本的にしなやかな足さばきも、大きなギャップを越える時などには直接的に衝撃を伝えてくる。ゴルフならそれほど気にならなかったのに、パサートでは必然的に3シリーズやA4、Cクラスと比較してしまい、結果として味わいにやや深みを欠く感がもたげてくる。
先にも書いたように、新型パサートのライバルとして想定されているのはモンデオやプジョー407、アベンシスといったモデル。BMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスといったプレミアムブランドのモデルではない。これには疑問を抱く人もいることだろう。現行パサートはまさにプレミアムブランドのモデルと同じ土俵に立つべく生み出され、そしてそれを成功させたモデルだったのではなかったのかと。
実はその疑問こそが、新型パサートというクルマの持つ意味合いを知る大きなカギになりそうだ。つまり、それはフォルクスワーゲンが、ピエヒ体制で推進したひたすらの上昇指向、プレミアム化戦略を緩やかに見直しつつあるということを象徴しているのではないかということである。
メルセデスベンツをも上回る品質でプレミアムブランドとしての地位を確立させる戦略は、イメージ的には成功する一方、現行ゴルフのヨーロッパでの初期のつまづきに表れているように、それを価格に転嫁するという最後の段階でうまく事を運べなかった。それを受けて現在のフォルクスワーゲンは路線を修正。小型車としては異例の高品質を誇ったルポはブラジル生産のフォックスに置き換えられ、パサートはゴルフと共通のアーキテクチャーを使うことになったというわけだ。
そう書くと、ややネガティブな匂いもするが、個人的には決してそうとばかりも言えないと思っている。たとえば、パサートに使うことを前提としゴルフの基本設計は、その余裕が飛躍的に高まり、先代で失っていた他車に対するアドバンテージを完全に取り戻し、それどころか今や圧倒的優位に立ってすらいる。
同様にパサートも、コストを他の部分に振り分けることで、特に見た目品質や装備の充実ぶりにおいては、セグメントの中で目を見張るものとなった。プレミアムカーとして先代パサートを購入した人にとっては納得しかねる部分もあるだろうが、多くのユーザーにとっては、これこそが健全な状況と言ってもいいのかもしれない。
いや、熱狂的なフリークにとっては、むしろそれでこそフォルクスワーゲンと膝を打つんじゃないかとすら思えるほどである。
幸いにも、日本でのフォルクスワーゲンのブランドイメージは極めて高く、比較的低価格で、いわゆるプレミアムブランドのモデルと同等の存在感を得られるということも、パサートの人気を後押ししたことは間違いない。
新型も同様に、内容に対してリーズナブルな価格設定を維持して登場するならば、成功の可能性は十分にあるだろう。あるいは一番のネックは、1820mmにもなる全幅かもしれない。果たして、それがどう出るか・・・。デビューは間もなく。色々な意味で登場がとても楽しみな1台である。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年3月号より)
フォルクスワーゲン パサートセダン 2.0FSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4765×1820×1472mm
●ホイールベース:2709mm
●荷室容量:565L
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
※欧州仕様
フォルクスワーゲン パサートヴァリアント 2.0TFSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4765×1820×1520mm
●ホイールベース:2709mm
●荷室容量:603-1731L
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
※欧州仕様