最新スペックとなったマカンの上級グレード
ポルシェのSUVでミッドサイズクラスを担当しているのが、2013年にデビューした「マカン」である。兄貴分であるカイエンをすでに追い抜き、今ではポルシェブランドのすべてのモデルの中でもっとも売れている、人気モデルへと急成長を遂げた。その後、デビューから5年間ほどは大きな変更を受けずに来ていたマカンだったが、2018年に初めての大規模なフェイスリフトが行われている。
とは言え、人気モデルらしく外観のリフレッシュは最小限に留められた感じだ。ヘッドライト内に4つのLEDが光る最新ポルシェのアイデンティティとして共通するデイタイムランニングライトが採用されたほか、新デザインのテールランプの左右がつながった、PORSCHEのロゴが入った発光式ガーニッシュなどが目立つポイントなっている。
この初めての改良においてむしろ力が入っていたのは、インフォテインメントや安全運転支援装備(ADAS)の充実だったと思う。たとえばセンターディスプレイが10.9インチのフルHDタッチスクリーンに変更され、音声入力でナビゲーションの目的地設定などが行える最新のコネクティビティシステム「ポルシェコミュニケーションマネジメント=PCM」が、日本向けにも搭載されるようになった。
ADAS系では、歩行者検知とブレーキアシスト機能を備えたアダプティブクルーズコントロール、レーンチェンジアシスト、サラウンドビュー付きパークアシストなどを標準装備。高速道路での渋滞時に、前走車に追従した走行を行うトラフィックジャムアシストや、走行時にステアリング操作を補助するレーンキープアシストもオプションとはいえ選択することが可能となった。このように、5年の間のタイムラグを一気に埋めるような装備の充実化が図られた新型マカンだが、日本への導入はポルシェらしく、グレードごとに段階を経て行われている。
最初にデリバリーが本格化したのは、252ps/370Nmというスペックの2L直4ターボを搭載するベースグレードのマカンだ。それが2019年夏のことである。続いて354ps/480Nmの3L V6ターボを搭載するマカンSの上陸も始まったのだが、その後に続くトップモデルであるマカンターボの到着がやや遅れていた。
今回テストドライブに連れ出したのがまさにそれ。フェイスリフトを受けて最新スペックを手に入れた、マカン ターボをようやくテストできるわけだ。
ダウンサイジングながらしっかりパワーアップ
マカンターボは、パワーユニットが一新されている。フェイスリフトが行われる前は3.6LのV6ツインターボエンジンを搭載していたが、新型マカンターボは若干ダウンサイジングされて、2.9Lのv6ツインターボに改まった。
このV6ユニットは、パナメーラターボなどのV8エンジンにも採用された90度のVバンク内にふたつのツインスクロールターボを置くセンターターボレイアウトを採用しており、レスポンスの向上と低重心化を実現した。排気量そのものは縮小されたものの、パワーは以前の3.6L V6ツインターボ版を上回る440psに達する。また最大トルクも、日本仕様は直噴ガソリンエンジン用PMフィルターを必要としないので、3.6L時代から50Nmの増強となる550Nmにまで向上している。
フェイスリフトを受けた後のスタイリングは、マカン/マカンSのデザインに基本的には準じている。だが、ターボは高性能モデルゆえの、外観上の特徴もいくつか備えている。まずフロントバンパーだが、中央のグリルを囲む両サイドのエアインテークが明らかに大口径になっているのが特徴だ。ルーフエンドのスポイラーも大型化されているし、スポーツエキゾーストシステムを標準装備とする4本出しのテールパイプも、マカンSに続いての採用となっている。
そうした外観の変化をまずは確認してから、コクピットに乗り込んだ。ポルシェも今やもちろん電子キーを採用してはいるものの、ステアリングコラム横のノブを回してエンジンをスタートする流儀は守られている。ただしこのノブ、コラム部分に固定されているので、いわゆる普通のキーのようには抜き差しができない。
ノブを半回転ほど捻ったところでエンジンが始動。始動直後にバウバウと吠えるような激しい演出は成されていないが、エキゾーストから聞こえて来るのはなかなか迫力のある重低音だ。
心地よいレスポンスと自然なフィーリング
Dレンジにシフトしてアクセペダルに力を込めると、マカンターボは弾かれたように走り始めた。このV6ツインターボエンジン、とにかくレスポンスが良いのが特徴だ。わずかなペダルワークにも、敏感かつ素直に反応してくれる。しかし少なくともノーマルやスポーツモードでは過剰に敏感になることはなく、自然なフィーリングで扱いやすい。スポーツ+ではさらに反応が鮮やかになり、アクセルペダルオフではバックファイアのサウンドまで混ざる演出があるが、この時も飛び出しやギクシャクを感じることはなかった。
最大トルクは1800~5600rpmという幅広い回転域で得られている。実際、低回転域から十分に力強く、2トン級の車体を軽々と動かしていくのだが、このエンジンの本領は4000rpmを過ぎたあたりから。そこからレブリミットの6800rpmまでパドルでマニュアルシフトを行うと一気呵成に回転を上げていく。その時の鋭い吹けと回転の伸び感が、なんとも心地よい。7速DCTまかせにしておくと6500rpmあたりで上のギアに繋いでいくが、それでも十分に速いし、シフトのスムーズさも満足のいくものだった。
試乗車はオプションのアダプティブエアサスペンションと、電子制御ディファレンシャルの「ポルシェトルクベクタリングプラス=PTV+」を装備していた。そのおかげもあってかコーナリングは極めて軽快だ。
車体はとにかく剛性感が高く、ハンドル操作の微妙な切り込みにも正確な反応を見せる。 ともするとエアサスペンションにありがちな妙な突っ張り感は皆無で、マカン ターボはわずかな姿勢変化を伴いながら素直に向きを変えて行く。そして立ち上がりに向けてアクセルペダルを踏み込んでいくと、外輪を増速するPTV+の効能で、まるでよくできたFR車のように後輪を蹴り出しつつ、鮮やかにコーナリングを終える。
マカンは確かにミッドサイズSUVだが、マカン ターボの場合、車重は2トンを超える。それをここまで軽快に走らせるのは本当に驚異的だ。しかもフェイスリフト前に感じたスポーツ+での足の硬さも新型ではかなりのレベルで改善されており、フラットでスムーズなライドフィールがしっかり得られていた。
今回のテストドライブで着実な進化を確認することができた新型マカン ターボ。だがしかし、マカンのバリエーション展開は決してこれで終わりではない。搭載されるのは同じ2.9L V6ツインターボながら、パワーを380psとしてエアロパーツで外装を固めたGTSの予約受注が1月から始まった。これが日本市場に上陸した暁にこそ、マカンのフルラインナップが完成する。これからがますます楽しみだ。(文:石川芳雄)
■ポルシェ マカン ターボ主要諸元
●全長×全幅×全高=4684×1926×1624mm
●ホイールベース=2807mm
●車両重量=2020kg(EU)
●エンジン= V6DOHCツインターボ
●総排気量=2894cc
●最高出力=440ps/5700-6600rpm
●最大トルク=550Nm/1800-5600rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=1219万1667円