給油後が面倒なディーゼル車のガス欠
ちょっと前までディーゼルエンジンを搭載した国産乗用車は、壊滅状態といっていいほど車種が少なくなっていた。その原因は排出ガス対策だ。東京都が旗振り役になった大都市圏でのディーゼル規制により、国の規制も強化されて古いディーゼルが駆逐された。
排出ガスに含まれる黒いススやNOx(窒素酸化物)などの有害物質によって逆風にさらされたディーゼル車だが、1990年代後半から普及が始まった排気ガスをクリーン化するするコモンレールディーゼルエンジン、いわゆるクリーンディーゼルエンジンの登場でその状況が一変した。
ところで、昔からディーゼル車に乗っている人は、ガス欠になったら給油するだけではエンジンがかからないと教えられていたと思う。古いタイプのディーゼル車ではそのとおりで、燃料を高圧縮して燃焼室に噴射するディーゼルエンジンは、燃料切れを起こすと燃料(フューエル)ラインにエアが入ってしまい、給油しても圧送できずエンジン始動が困難になってしまう。
そのため給油後、エンジンルームにある燃料フィルターの上や近くに付けられている、プライミング(初期)ポンプを手動でポンピングする必要がある。これによってエアが抜けて圧送が可能になるわけだが、この作業がとても大変。
とくに、エンジンが前席の下にあるキャブオーバータイプのクルマは、給油したあとに重い運転席と助手席を跳ね上げてエンジンルームにアクセスする必要があるので、これだけでもかなりの重労働となる。
ガス欠防止装置が付いたクルマも登場
そこで、新しいタイプのディーゼル車はどうかということだが、前述のような作業がいらないクルマもある。その代表格がマツダのスカイアクティブD系。マツダの取扱説明書を見ると「燃料切れを起こした場合、少なくとも10Lの燃料を補給してからエンジンを始動してください。燃料切れが起きると燃料系統に空気が入り、エンジン始動に時間がかかることがあります。燃料を補給した後でエンジンが始動しない場合、エンジン始動を数回試みてください。それでも始動しないときはマツダ販売店へ連絡してください」と書かれている。基本的に燃料を給油して始動させればエンジンがかかるわけで、例のプライミングポンプについて記載がない。
その理由は、マツダのスカイアクティブDは燃料切れに対して二重の対策をしているからだ。ひとつは燃料フィルターにつながるフューエルラインのプレッシャーを高めているため、エアが入ってしまっても噴射ポンプに燃料を送れるようになっている。
さらに燃料ラインにエアが入ってしまわないように、燃料切れになる寸前であることを検知してエンジンを停止寸前で停止させる制御が行われているため、フューエルラインにエアが入る可能性が低くなっているというわけだ。だから給油すれば再始動できる可能性が高いということになる。いずれにしても給油ランプが点灯したらすぐに給油することが、安全面を考えても必要なことだ。
ちなみに、ディーゼルで注意したいのは軽油の種類。JIS(日本工業規格)では「特1号」「1号」「2号」「3号」「特3号」の5タイプに分類される。特1号が夏季や暑い地域用で、特3号が厳寒地用であり、冬季はその地域の気温に適した軽油が供給されている。
軽油は冷たくなると流動性を失ってしまうため、地域に合わない軽油を使用している場合、駐車後にエンジンを始動できなくなる可能性もある。寒い地域では2号から特3号までを供給することが多く、JISで規定している「目詰まり点度」は「2号」がマイナス5度以下、「3号」はマイナス12度以下、「特3号」はマイナス19度以下となっている。
また、最新のディーゼルモデルはアドブルー(尿素水)を使うタイプもあり、その凍結温度は約マイナス11度だから厳寒地で凍る可能性もある。とはいえ、これが凍ってしまってもエンジンは始動(排出ガスの後処理装置用なので始動と関係ない)でき、走行もできる。車種によってはエンジンが始動するとアドブルーをヒーターで解凍するシステムもある。
現在のクルマはメンテナンスフリーになりつつあるがディーゼルは、使用地域の気温に合わせた軽油を使う必要があるわけだ。(文:丸山誠)