2006年、AMG 5.5L V8コンプレッサーエンジンを搭載したG 55AMG、CLS 55AMGは「人気のAMG」の中でも特別な存在で、恐怖すら感じさせる圧倒的なパワーを持っていた。6.2L V8自然吸気への移行の前に、Motor Magazine誌ではその走りをテストしている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年6月号より)

外観からは想像できないG55の高速域での安定感

アファルターバッハに拠を構えるAMGにとって、日本はアメリカやドイツと並び、非常に重要な市場である。DCJ(ダイムラー クライスラー ジャパン)が扱い始めた2001年以降、その規模はなんと2倍半以上にまで膨れ上がった。

そんな日本市場で、最も売れているAMG車がCLS55であり、世界的に見ても最もユニークな売れ方を見せているのがG55である。日本におけるAMG事情を、端的に物語る2台と言っていいだろう。街中で乗っていて、熱い視線を痛いほど受ける2台のAMGでもある。

ユニークを極め、ヒエラルキーフリーなのは、やはりG55の方だ。このクルマは、たとえノーマルモデルであっても、他のクルマと比べることすら間違っているような存在である。GクラスはGクラス(もしくはゲレンデヴァーゲン)でしかなく、流行のSUVどころか、メルセデスでさえ最早ないと私は思う。

メルセデスに乗っています、というより、Gに乗っているんだ、と言いたくなる、そんなクルマ。特にこのG55はそうだ。正直言って今時のメルセデスらしさは皆無である。枠組みを確かに感じるカッチリキッチリとした乗り味をメルセデスらしいというならば、昨今のボディストラクチャーに凝った他社最新モデルなんぞも、みんなメルセデスだ。いや、正直言って、彼らの方がG55よりもすでにメルセデスに近い存在かもしれない。最新のメルセデス言語では語れない存在であること。そこがG55の存在理由であり、魅力だ。

G55の試乗車はデジーノインテリアを与えられたスペシャルな1台だった。硬派なスタイリングに秘められた洒落っ気とでも言おうか。はたまた、無骨武偏者のこだわりだろうか。いずれにしても、このG55を選ぶこと自体、かぶき者の精神に近い。

とはいえ、インテリアの雰囲気は1980年代のメルセデスのそれである。マニアが好むW124あたりの世界観。エアバッグ付きのステアリングホイールなど、ところどころに散見される見た目に新しい現代装備がかえって痛ましく見える。贅沢な不満だ。

バスッというドアの閉まる音に時代を感じる。それは、ドアの頑丈な留め金によって室内の空気が排出され、亜真空の密閉空間となるが如く。まるで難攻不落の城に入ったかのようだ。

乗降性は悪い。今どきのクロカンと違って、人に優しくない。機能を重視した結果なのだから、選んだお前が合わせるんだよ、と言わんばかり。特に後席へのアプローチは今時の常識からすればありえないほど困難だ。そのかわり、乗り込んでからのスタジアムシートの見晴らしはとんでもなくいい。将校たる者、毅然とこの厳しいアプローチを乗り越えなくてはならぬ。

ドライバーズシートに座ると、自然に背がシャンと伸びる。平面的なダッシュボード、立ち気味のレザーシートがそうさせるのか(もしくはクルマの雰囲気に飲み込まれたか)。規律や自分を律することを要求するコクピットだ。

V8スーパーチャージャーの目覚めは他モデルと同じである。ただし、音量が小さめだ。ズゥワァア〜ンという演出がかった吹かし音で始まったかと思うと、すぐさまルルルルという野太く逞しい音で待機する。2.5トンもあるとはいえ、476psだから十分だろと主張する。

まるでスポーツ選手用(事実、プロスポーツ選手や関係者にも愛好家は多い)かと思わせる、アスレチック用具なみに重いステアリングホイールにとまどいながら、パーキングを出た。

街乗りの重厚感が圧倒的である。475psを得てなお、ひとつひとつの動作が重々しい。かったるいのではない。メタルのおもちゃを持ったときの、あの何とも言えぬ頼もしさや安心感と同じ重さ。さしものコンプレッサーもその存在感をひけらかすことはない。

アクセルペダルを思い切り踏み込んでも、あの爆発的な加速を感じさせない。決して遅くはない。速いが、感覚的には普通である。Gクラスという立派な城になると、たかが476psごときには振り回されないということか。パワー感さえ抑え込む乗り味はやはり、最新メルセデスとは違う。

高速域での安定感には驚くしかない。空気抵抗の固まりのようなスタイリングと腰高なシャシを考えると、驚異的ですらある。最新のスピードSUVに勝るとも劣らない。

画像: 古典的で重厚感のある魅力にある溢れるG 55 AMG。

古典的で重厚感のある魅力にある溢れるG 55 AMG。

恐怖感を煽るほどのCLS55の圧倒的な加速

一方、CLS55はといえば、こちらは最新モードのさらに最先端である。CLSクラスの約10%を占めるほど売れている人気モデルだけあって、高い車両代金を支払った見返りは相当に大きい。

まず、街中を走るCLSが徐々に増えつつある今という時が楽しい。CLSそのものが旬なのだから、当然、注目度が高い。そんな中、たまにノーマルモデルと出くわす。何となく感じる、羨望の視線。オレのクルマじゃないんだけどさ、と思いつつも、くすぐったいほどの優越感だ。

ウッドパネルをウイング状に大きく設えたダッシュボードも、周りがレザーで包まれ一層高級感が増した。ナッパレザーのシートが心地よい。

320km/hまで刻まれたスピードメーターがドライバーを煽り立てる。キーをひねると、例の芝居がかったサウンドを大仰に響かせて、V8スーパーチャージャーが目覚めた。

タウンスピードでの振る舞いは、最新のメルセデスモードである。もはや旧時代のしっとりとした粘性の高い乗り味はなく、メリハリの効いたリニアで応答性のいい動作を全域で見せる。動きが機敏、と言っていい。クルマを左右に降れば、ノーズの枠組みをしっかりと感じる。

G55とは違って、これぞコンプレッサーというべき瞬発力である。一瞬、恐怖心を感じるほどの加速で、SL55で初めて味わって以来、変わることのないパフォーマンスだ。オレはこのために高い金を払ったんだ、とまたもや思えるわけである。絶対額は高いが、コストパフォーマンスも大きい。

最古と最新。数値上で同じスペックを唱えるV8を積むという以外に何ら共通点を持たない2種類のAMGが人気なのは、日本人のAMG愛が、けだし特別であるという証であろう。

ちなみに、早晩、この5.5Lコンプレッサーはお役御免となる雰囲気である。独自設計の新エンジン6.3ユニットはマニアックで速いが、恐怖感を煽るような加速感はない。楽しい恐怖を味わいたい方は、お早めに。(文:西川 淳/Motor Magazine 2006年6月号より)

画像: 最先端のモードをまとったCLS55 AMG。絶大な人気を誇る。

最先端のモードをまとったCLS55 AMG。絶大な人気を誇る。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツ G55 AMG long(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4530×1860×1950mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:2460kg
●エンジン:V8SOHCスーパーチャージャー
●排気量:5438cc
●最高出力:476ps/6100rpm
●最大トルク:710Nm/2650〜4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1606万5000円(2006年当時)

メルセデス・ベンツ CLS55 AMG(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4915×1875×1390mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1940kg
●エンジン:V8SOHCスーパーチャージャー
●排気量:5438cc
●最高出力:476ps/6100rpm
●最大トルク:710Nm/2650〜4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:1396万5000円(2006年当時)

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