2006年に登場した初代BMW Z4クーぺ。Mモデルが同時に発表となったため、どうしても「Z4 Mクーぺ」に注目が集まりがちになっていたが、「Z4 クーぺ 3.0si」は実に魅力的なモデルだった。Z4 Mクーぺとあわせて行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年7月号より)

3.0siの0→100km/hの加速は6速MTで5.7秒

目の前に突然現れたZ4クーペは、はっきり言ってこれまでのBMWデザインの不評をすべて覆してしまうのではないかと思うほどカッコ良かった。実際にはロードスターのリア部分に「ハッチバックルーフが乗せられただけ」なのだが、とくにリアエンドのやや複雑な彫刻的なライン、そして、大きく後退したキャビンを持つクラシックなサイドビューが、Z4クーペにロードスターとはまったく違う独自の雰囲気を漂わせている。

そして、こうしたスポーツクーペで、レポーターが特に重視するのは、リアゲート背後のラゲッジルームである。ふつう300Lあれば二人の週末旅行に十分な荷物を積めるが、これは340Lを確保しているというから大したものだ。

一方、残念なのはインテリアで、相変わらずシンプル過ぎることだ。ロードスターと共通のそれは、やはり魅力的なフレアに欠けるのである。その質感もポルシェ・ボクスターやアウディTTと較べると間違いなく落ちる。

一方、フロントの長いボンネットに搭載されるエンジンは、BMWエンスージアストにはすでにお馴染みのアイコンとなっている3L直列6気筒で、最高出力は265ps、最大トルクは315Nmである。

BMWのカタログによれば、0→100km/hの加速は6速マニュアルで5.7秒、最高速度はMクーペと同じ250km/hでリミッターが作動する。つまりM仕様との事実上の差は、加速でコンマ7秒遅いだけというわけだ。もちろん最高速度までの到達時間は異なるが……。

こうなると3Lモデルの存在感に俄然スポットライトが当たるというものだ。さらにドイツでの価格をお知らせすると、Mクーペが5万5900ユーロであるに対して、3.0siは3万8900ユーロ、つまり1万7000ユーロ(約240万円)も安い。理性的に考えれば、ほとんどのユーザーはおそらく3.0siを選ぶに違いない。

さらにSMGセミオートマチックは快適性に欠けるという理由から、すでにZ4プログラムからキャンセルされているので、オートマチックを求めるユーザーはZ4Mクーペではなく、トルコン式6速オートマチックが装備されるZ4クーペ 3.0siを選択するしか手はないのだ。

画像: ロードスターのボディ後方部分を大幅に設計変更してクーペに仕立てられ Z4クーぺ。短い前後のオーバーハングが運動性能の高さをアピールする。

ロードスターのボディ後方部分を大幅に設計変更してクーペに仕立てられ Z4クーぺ。短い前後のオーバーハングが運動性能の高さをアピールする。

ワインディングロードで、俄然、活き活きとする

さて、そんなことを思いながら、レポーターはテスト参加者の不思議そうな視線を感じながら6速マニュアル仕様の3L Z4クーペに乗り込む。関係者は皆、レポーターがMクーペに乗ると思っていたらしいのだ。

スタートしてすぐに気がついたのはやはりM仕様3.2Lエンジンとの吹け上がりの差である。

Mクーペのエンジンが金属的な唸りを上げて、もの凄い勢いで回転を上昇させるのに対して、3.0siの方は「なんでそんなに急いでいるの」という感じだ。静かなのはよいが、タコメーターの針の動きは一体いつになったらレブリミットに到達するのかと思われるほど緩慢に思える。

その間に315Nmという比較的大きなトルクを発生するのだが、そのトルクバンドが広いのでドラマチックな感動はない。しかしスムーズで扱いやすいギアを操作しながら気がつくと、すっかりと他の交通を置き去りにするほどのスピードが出ているのだ。しかもこうしたハイスピードからのブレーキ性能はMクーペにも負けない。強固なペダル剛性感と、しっかりした制動能力が約束されている。

そのまま高速道路を出て、ワインディングロードに向かうと、印象は少し変わってくる。3.0siはフロントノーズの軽さを生かした素晴らしいロードホールディングを見せてくれたのだ。ゼロ発進加速のときとはフィーリングが違い、スイスイと軽やかに走る。

さて、長い梅雨と厳しい暑さの夏、そして長いトンネルの存在や渋滞がちな都市高速などを考えると、事実上ルーフを開けるチャンスの少ない日本ではロードスターよりもクーペの方が実用性、そしてファッション性の問題で人気が高いのではないかと想像する。

それゆえにクーペモデルの購入を考えている人たちとっては、今年の暮れから来年にかけて質の高いヨーロッパからのクーペが目白押し状態になることをお伝えしておこう。

それは、このBMW Z4クーペ、すでに発売されているポルシェケイマンS、そしてこの後やってくるアウディTTである。それからつい先日のこと、この夏に2.7Lで245psのエンジンを搭載するスタンダードな「Sのつかないケイマン」を投入すると、ポルシェAGから発表があった。

すべてエモーショナルなスポーツカーだが、果たしてどれを選べばよいだろうか。案外、合理的な価格による判断をしてみるのも悪くないかもしれない。と言うのは、それだけそれぞれのモデルが接近した魅力と利点を持っていると思うからだ。(文:木村好宏/Motor Magazine 2006年7月号より)

画像: トランスミッションは6速MTと新開発の6速ATを用意する。ATはパドルによるシフト操作が可能だ。パワーステアリングはMは油圧だがこれは電動となる。

トランスミッションは6速MTと新開発の6速ATを用意する。ATはパドルによるシフト操作が可能だ。パワーステアリングはMは油圧だがこれは電動となる。

ヒットの法則

BMW Z4クーペ 3.0si 主要諸元

●全長×全幅×全高:4091×1781×1268mm
●ホイールベース:2495mm
●車両重量:1395kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:265ps/6600rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速MT/6速AT
●駆動方式:FR
※欧州仕様

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