ホンダらしい革新のコンパクトカー
トヨタがヴィッツの投入で国産コンパクトカーの世界に新風を吹き込んでから2年後。平成13年(2001年)6月、ホンダはロゴの後継車として同社の持てる技術の粋を込めたコンパクトな世界戦略車を発表した。それがフィットだ。
初代シビック以来、ホンダが設計思想としてきた「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」を極限まで突き詰めたパッケージングは、ついに燃料タンクを前席の下に配置したセンタータンクレイアウトという斬新なパッケージングを生んだ。それによる居住空間の拡大はまさにエポックで、従来のコンパクトカーとは一線を画す本格的なハンドリングやクラスを感じさせないデザインも相まって大ヒットとなった。平成15年(2003年)には年間販売台数で33年間トップに君臨してきたカローラを抜いてトップの座に就く。そして平成19年(2007年)には国内販売累計100万台を突破した。
フィットの登場がいかにエポックだったかは、そのプラットフォーム戦略にも表れている。今となってはひとつのプラットフォームからさまざまな車種を生み出すことは当たり前になっているが、当時はまだプラットフォームの概念そのものがあいまいで、クルマごとに実質的な専用プラットフォームが与えられていた時代。ホンダは「グローバル・スモールプラットフォーム」と呼ぶ新プラットフォームをいち早く開発し、以後、クラスごとに車種をまたいだプラットフォームの共用化(と商品企画)を急速に進めたのだ。新しい時代のクルマ作りの幕開けである。同様の手法は,その後、世界中の自動車メーカーが採用し、今日のようなモジュラー化へとつながっていく。
初代:平成13年(2001年)6月21日発表・6月22日発売
ホンダが世界市場を見据えて開発した「グローバル・スモールプラットフォーム」は前述のようにセンタータンクレイアウトという世界初のパッケージングを実現した。フィットはその採用第1弾で、その後同プラットフォームは3代目欧州シビックを始めさまざまなクルマ(モビリオ、モビリオスパイク、フィットアリア、エアウエイヴほか多数)に使われるなど、クルマ作りに大きな変革をもたらした。
とにかくそのスペース効率の良さは、他のコンパクトカーを寄せ付けないもの。外観からは想像できない空間を実現するだけでなく様々なシートアレンジを可能にして利便性でも群を抜いた。欧州車風に味付られた足回りもリアのストロークがやや不足気味であることを除けば、それまでの国産コンパクトにはない乗り味だった。当初は1.3L+CVTのみでスタートし、平成14年(02年)には1.5L車も追加。ともにその優れた燃費性能でもライバルを圧倒した。日本を始め計6ヵ国(タイ、中国、ブラジル、インド、フィリピン)で生産され、世界中に輸出された。
2代目:平成19年(2013年)9月5日発表・9月6日発売
全長3900×全幅1695×全高1525mmとやや大きくなるもプラットフォームは踏襲。国内仕様のエンジン排気量1.3Lと1.5Lだが、新たにi-VTEC化され、特に1.5Lは高出力(120ps)を狙ったセッティングとなった。同エンジンが搭載されたスポーティグレードのRSにはクラス初の6速MTが搭載されている。さらに平成22年(10年)には1.3Lエンジンに1モーターのIMAシステムを組み合わせたハイブリッド車を追加した。CVTだけでなく6速マニュアルミッションの組み合わせも可能だったのは、IMAシステムならではだ。なおこの代からイギリスでも生産を開始している。
3代目:平成25年(2010年)12月22日発表・発売
新設計プラットフォーム(センタータンクレイアウトは踏襲)により全長、全高ともさらに大きくなるが、全幅は1695mmをキープ。さらに、エンジンのDOHC化、新ハイブリッドシステム(SPORT HYBRID i-DCD)の採用など、使い勝手、環境性能などすべてをワンランクアップさせて登場した。なかでもハイブリッド車の開発・販売に重点が置かれ、ホンダの電動化を推進する役割を担った。またプラットフォームやパワートレーンを共用するコンパクトSUV「ヴェゼル」が平成25年(2013年)12月発売されてこちらも大ヒットとなっている。
その後のフィット
令和元年10月の東京モーターショーで4代目フィットがワールドプレミア、今年2月から発売が開始されている。新型は2モーター式の新型ハイブリッドシステム「e:HEV」を採用した1.5Lハイブリッドをメインに、1.3Lガソリンエンジン搭載車もラインアップする。さらに全車に先進安全運転支援システム「ホンダセンシング」を標準装備するなど、時代の要請にもしっかり応えている。発売後1カ月(2020年3月)の受注は1万4845台で、同月首位のカローラに次ぐ第2位の好スタートを切っている。