先端技術を惜しみなく投入したVG30DE ~1986年2月登場
VGシリーズの進化は止まらない。1986年2月に2代目F31型レパードのフラッグシップグレードであるアルティマに搭載されてデビューしたのが、VGシリーズ初のDOHCユニットであるVG30DEである。日産社内の呼称は“EG1”。従来のVGとは一線を画した別シリーズ扱いの秘密兵器であり、それまでのSOHCシリーズとはケタ違いの高度なパワーユニットを目指した意欲作だった。
VGを名乗るものの、ただヘッドをDOHC化したものではない。そこには、当時のエンジン技術者にとって夢のようなハイテク技術がふんだんに盛り込まれていた。
左右各バンクに2本ずつ、計4本のカムシャフトがあるのはもちろん国産エンジン初。スパークプラグ座に6個の独立した圧電式ノックセンサーを配置し、気筒別に最適な点火時期を電子制御するシステムは世界初採用であった。またRB型エンジンで実用化されたNICS(NISSAN INDUCTION CONTROL SYSTEM)も採用。インマニを左右バンク3気筒ずつに分け、それぞれにスロットルチャンバーを設置するとともに連絡通路のバルブを開閉して実質的な吸気管長を変えるシステムだ。なお、このツインスロットルチャンバーは国産初の技術でもある。
さらに吸気バルブの開閉時期を電子制御するNVCS(NISSAN VALVETIMING CONTROL SYSTEM)も国産初の技術である。ほかにもコンパクトなイグニッションコイルをプラグに直接取り付け、ハイテンションコードによるエネルギー損失を防ぐNDIS(NISSAN DIRECT IGNITION SYSTEM)等など。ライバル社のエンジニアが絶句したと伝わるのも納得である。まさにコストを度外視した究極のエンジンだったのだ。
もっともVG30DEはNAということもあり、デビュー時のスペックはネット表示で185ps/6000rpmと控えめで、最大トルクも25.0kgm/4400rpm。当時のライバルであり同時期に登場した2代目ソアラに搭載された7M-GTEU(ネット230ps/33.0kgm)の前には影が薄かった。1986年10月にはネット190psまでパワーアップされてZ31型フェアレディZの300ZRにも搭載されたが、生産台数はなかなか思ったようには伸びなかった。このエンジンがその秘めたポテンシャルを開花させるには、後述するY31型初代シーマ用に開発されたVG30DETの登場を待つしかなかった。
VG30DEのDNAをいち早く取り入れたVG20DET ~1987年6月登場
1987年6月にフルモデルチェンジしたY31セドリック/グロリア。そのイメージを大いに高めたのが、スポーツグレードのグランツーリスモSVであり、そこに搭載された2LのDOHCターボであるVG20DETだ。可変バルタイなどの先端技術は兄貴分のVG30DEから受け継ぎつつ、小排気量をカバーするため日産内製のCNR-1型ハイフローセラミックターボを世界初採用。さらに可変吸気システム(NICS)を採用して排気量はミドルクラスながら、185ps/6800rpmの最高出力と22.0kgm/4800rpmの最大トルクで切れ味鋭い刺激的な走りを味わわせてくれた。
当時はたとえターボでも2Lエンジンでは、Y31クラスの高級車を走らせるのは荷が重いと言われていた時代。ところがVG20DETは新型ATミッションの“E-AT”との組み合わせで、フォーマルカーとは思えない軽快な走りを実現したのだ。発進加速、高速域の伸びともに、1.5トンの重量級を走らせているとは思えない、機敏で軽快な走りを実現していたのだ。右足に力を入れれば、大きなボディが山道をぐんぐん上って行く様に、当時は誰もが驚いたものだった。
VG20DET は1988年8月にマイナーチェンジしたF31型レパードにも拡大採用されるが、このときハイオク仕様化され、さらにインタークーラーも装着されて210ps/27.0kgmにパワーアップしている。
もはや過剰なパワーとも言うべきVG30DET ~1988年1月登場
バブル景気が本格化しつつあった1988年1月、ついに登場したのが初代Y31型シーマだ。最初から3ナンバー専用に設計されたボディでマンネリ気味だった日本の高級車市場に新しい風を送り込んだシーマだったが、さらに衝撃的だったのはそこに搭載されたエンジン。「高級車はパワフルでなければならない」という思想に基づいて搭載されたのは、2代目レパードに搭載されてデビューしたVG30DEをさらにターボ化したVG30DET。その最高出力は255ps/6000rpm、最大トルク35.0kgm/3200rpmという(当時としては)とてつもないもので、一躍、国産最強エンジンの座に躍り出た。ちなみに同時にNAのVG30DEもハイオク仕様化され、15ps/1.5kgmそれぞれ向上して200ps/26.5kgmにパワーアップしている。
それまでの高級車の概念をふっ飛ばす高性能ぶりこそ、初代シーマのもうひとつの魅力だった。ただでさえ余裕のトルクを誇る3LのV6に中高速域ではさらにターボの勢いが加わり、その加速たるや当時最新のスポーツカーも顔負けだった。もっとも、そのパワーにシャシ/足回りが付いていけなかったのも事実で、結構なじゃじゃ馬でもあった。この高性能エンジンに足回りが追いつくには、まだ少々時間が必要だったのもまた事実なのだ。
VG30DETは、1988年8月にはマイナーチェンジした2代目レパードに、さらに1991年6月にはY32型にフルモデルチェンジしたセドリック/グロリアにも搭載された。また1993年9月には2代目シーマのマイナーチェンジも継続採用される。この間、エンジン本体には大きな変更や改良はなかったが、シャシの熟成は大幅に進み、255ps/35.0kgmをしっかりと路面に伝えることができるようになった。
SOHCから始まり、究極とも呼ぶべきハイテク満載のDOHCターボへと進化を遂げたVGシリーズ。1989年7月にはついにネット280psを発生するツインターボのモンスター、VG30DETTにたどり着く(Z32型フェアレディZに搭載)。だが、進化はそこまで。すでに次世代V6であるVQ型の開発は着々と進んでいたのだ。