令和2年6月10日に公布された改正道路交通法により、あおり運転に対する罰則が創設された。最大懲役5年または100万円の罰金に処せられ、一発免停という重罪となる。他にもこれに合わせるように危険運転致死傷罪の対象も拡大されることになった。それぞれの内容を見ていこう。

あおり運転罪では100万円以下の罰金。悪質な場合は懲役も科される

令和2年6月10日に交付された「道路交通法の一部を改正する法律(以降、改正道交法)」により、あおり運転(法的には妨害運転)に対する罰則が創設された。従来は暴行罪や危険運転致死傷罪を拡大解釈することで取り締まられてきたが、直接あおり運転を取り締まる法律ができるのは初めてのことだ。

画像: ドライブレコーダーやSNSの発達により、実態の分からなかったあおり運転が白日の下にさらし出されるようになった。

ドライブレコーダーやSNSの発達により、実態の分からなかったあおり運転が白日の下にさらし出されるようになった。

背景にはニュースにもなったあおり運転による高速道路上での死亡事故や暴行、急速に普及するドライブレコーダーやSNSへの動画投稿により、実情を訴えにくかったあおり運転の危険行為が明白になったことが大きい。

あおり運転に対する罰則の内容は、大別して2種類ある。ひとつは「あおり運転により交通に危険を及ぼすおそれがある場合」、もうひとつは「あおり運転により交通に著しい危険を及ぼす場合」だ。これでは漠然としているので、もう少し具体的に説明していこう。

最初の「あおり運転により交通に危険を及ぼすおそれがある場合」とは、後に説明する「法に定める10種の危険運転」を他車両の運転を妨害目的で行うこととされている。ふたつ目の「あおり運転により交通に著しい危険を及ぼす場合」は、高速道路など自動車専用道路で10種類の危険運転のどれかを行い、他車両を停止させるなどの危険を起こす場合となる。危険度や悪質度の違いと言い換えてもいいだろう。

「法に定める10種の危険運転」とは、1)通行区分違反、2)急ブレーキ禁止違反、3)車間距離不保持違反、4)進路変更禁止違反、5)追越し違反、6)減光等義務違反、7)警音器使用制限違反、8)安全運転義務違反、9)高速道路での最低速度違反、10)高速道路での駐停車違反だ。

この10種以外に他車両に対する交通妨害は考えにくいが、他手段での交通妨害は従来通り暴行罪や改正危険運転致死傷罪で取締まりの対象となる可能性がある。また新たな手段が編み出され一般化すれば、道交法もさらに改正され、10種の危険運転が11種、12種と増える事態も考えられるのだ。

あおり運転に対する罰則だが、「あおり運転により交通に危険を及ぼすおそれがある場合」は3年以下の懲役または50万円以下の罰金、違反点数25点、免許取消しで欠格期間は2年だが、前歴や累積点数がある場合は、最大5年となる。

画像: あおり運転により交通に著しい危険を及ぼす場合は、罰金はもちろん免許取り消し(欠格期間3年)となる。

あおり運転により交通に著しい危険を及ぼす場合は、罰金はもちろん免許取り消し(欠格期間3年)となる。

さらに「あおり運転により交通に著しい危険を及ぼす場合」には、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、違反点数35点、免許取消しで欠格期間は3年だが、前歴や累積点数がある場合には、最大10年になる。注目したいのは反則金ではないことだ。いずれのあおり運転も、一発で刑事罰である懲役や罰金が処せられる。つまりあおり運転を発見されたら、犯罪履歴が残る前科が付くことになる。

ちなみに高速道路での運転に不慣れなドライバーが期せずして時速50km以下で運転する場合も道路交通法で取り締まりの対象となる。いわゆる「逆あおり運転」と呼ばれるもので、これにも注意が必要だ。

もうひとつ注意したいのは、あおり運転を取り締まる法律は、改正道交法だけではないということだ。ほぼ同時といえる令和2年6月12日に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」も改正され、同年7月2日より施行される。それだけ「あおり運転」が重大視されているということでもある。改正内容は同法に規定される危険運転致死傷に該当する行為に2点、追加されたことだ。これもそれぞれ具体的に見ていこう。

画像: あおり運転は、単なる違反ではなく犯罪履歴が残る刑事罰となる。犯罪を犯してからことの重大さに気がついても遅いことも。

あおり運転は、単なる違反ではなく犯罪履歴が残る刑事罰となる。犯罪を犯してからことの重大さに気がついても遅いことも。

1点目は「車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」、2点目は「高速自動車国道、または自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為」だ。

どちらも改正道路交通法で新たに規定された10種の危険運転に該当するものだが、あおり運転で他者を死傷させた場合は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」でも処罰の対象となるわけだ。刑罰は免許の所持、不所持、アルコール、ドラッグの影響、病気の有無などで分かれるが、最高で20年以下の懲役となる。

画像: 心の余裕とゆずり合いの精神をもってドライブするのが自動車ユーザーの義務でもある。

心の余裕とゆずり合いの精神をもってドライブするのが自動車ユーザーの義務でもある。

自動車は移動ツールであり、利便性を高め、移動の自由度と可能性を広げるためのものだ。ただ使い方を間違えると他車に危害を加える武器となる。運転には十分な注意が必要なのはいうまでもない。本サイトの読者の方は大丈夫かと思うが、自分の人生を守るためにも、ゆずり合い精神と心の余裕をもって、くれぐれもあおり運転は避けて頂きたい。あおり運転の処罰を創設した改正道交法の施行は、令和2年6月30日となる(文:猪俣義久)

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