A6 & A7スポーツバックにディーゼルモデルが導入された。今回はアウディが満を持して追加投入した最新ディーゼルモデルの魅力をレポートするとともに、それを選ぶメリットを探る。(Motor Magazine 2020年7月号より)

利点が多いコンパクトかつ軽量なマイルドハイブリッド

アウディA6とA7スポーツバックにTDIエンジン搭載車が追加投入された。2Lの直列4気筒ターボディーゼルエンジンに12Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせることによって、よりスムーズで快適に走れるパワートレーンに仕上がっている。

一時の「ディーゼル押し」がひと段落し、各社が電動化を積極的に進めるこのタイミングで導入されたことは興味深い。アウディも電動化されたパワーユニットを用意しているにもかかわらずである。さぞかしこのディーゼルエンジンには自信があるのだろう。今回はA6アバント40TDIクワトロスポーツとA7スポーツバック40TDIクワトロSラインの2台を市街地、高速道路、ワインディングロードで試したのでで、その印象をお届けしよう。

まずはパワートレーンの解説から。エンジン+電気モーターと二次バッテリーを備えるハイブリッド車は、市街地で走行スピードがアップダウンするケースでは、効率よくエネルギーを回収し、加速のときにそのエネルギーを使って走ることによって確かに燃費は良くなった。しかし高速道路を一定のスピードで走行するときはエネルギー回収があまりできないので、電気モーターと二次バッテリーはあっても燃費は非ハイブリッド車と大して変わらないかもしれない。またワインディングロードを走る場合には、その重さがデメリットとしてハンドリング性能に影響することもあるだろう。

画像: 最新ディーゼルエンジンが搭載されたA6アバント40クワトロスポーツ(左)と、A7スポーツバックTDIクワトロ。

最新ディーゼルエンジンが搭載されたA6アバント40クワトロスポーツ(左)と、A7スポーツバックTDIクワトロ。

そこで、アウディご自慢の新開発のディーゼルエンジンを主体としたマイルドハイブリッドの出番だ。直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボチャージャーを備えたこのエンジンはアルミ製シリンダーブロック、アルミ製ピストンなどで軽量化。燃料噴射圧は2200バールに引き上げられ、従来のピエゾ式と同等のレスポンスを持つ新開発の8穴ソレノイドインジェクターが正確に噴射のコントロールをする。1行程あたりの噴射回数は5~8回でパイロット、メイン、ポストの噴射をすることで、高い環境性能や低振動、静粛性などを獲得した。排出ガス処理システムは高圧、低圧の2チャンネルのEGRのほか、アンモニア酸化触媒、パティキュレートフィルター、尿素噴射SCRから構成されている。

マイルドハイブリッドと呼ぶのは12Vの電気で動く通常のスターターモーターより大型のBAS(ベルトオルタネータースターター)を使って回生と駆動ができるからだ。エンジン停止、再始動は非常にスムーズだ。まろやかな音と緩やかな振動が伝わるだけで不快感は一切ない。そしてモーターによる5秒間のエンジンアシストの際には最大2kW、60Nmを発揮できる。駆動用のリチウムイオンバッテリーも搭載するが、その容量は小さいのでそう重くはならないのだ。

BASのおかげで55km/hから160km/hの範囲でエンジン停止することも可能だ。インパネのシフトポジションを示す「D」の文字の右側には通常ギア段数が出ているが、高速巡航中にアイドリングストップマークが出たときに最初はちょっと驚いた。ちなみにこの場所に走行中に表示がなく「D」のみになった場合は、エンジンはアイドリングはしているがコースティング状態でギアはつながっていないことを示す。

パワーが不要なときは積極的にエンジンを止めるがストロングハイブリッド車ほど頻繁ではない。また停止時は22km/h以下ではアイドリングストップもする。BASの採用により綿密な回生と効率的なアシストができ、欧州測定値で3%の省燃費になるという。大した重量増にならずディーゼルエンジンの良さを強調できるから、このBASには好感が持てる。

画像: 新開発の2L直4ディーゼルターボエンジンは、最高出力204ps(150kW)/3800-4200rpm、最大トルク400Nm/1750-3500rpmを発生。BAS(ベルト オルタネーター スターター)が組み合わせられている。

新開発の2L直4ディーゼルターボエンジンは、最高出力204ps(150kW)/3800-4200rpm、最大トルク400Nm/1750-3500rpmを発生。BAS(ベルト オルタネーター スターター)が組み合わせられている。

実燃費はメーター表示以上。音の調律もほぼ完璧である

今回、A6アバントを借り出したときにチェックした航続可能距離は1180kmだった。そして高速道路を中心に130km走ったときに見たレンジはまだ1110kmと表示されていた。つまり計算上は満タンで1240kmほど走れそうだ。燃料タンク容量は63Lだから1880kgの重量の4WD車を約20km/Lで走らせられることになる。もちろん走り方によって燃費は変化するが、これはなかなか素晴らしい数字だ。アバントというキャラクターを活かして、人と荷物を積んで遠くまで行く場合、この足の長さは大きな魅力だ。

トランスミッションは7速DCT(トロニック)で、パドルシフトも付く。高速道路を100km/hで走っていても6速までしか入らない。新東名で108km/hに達すると7速に入る。アウディはメーターのDレンジの表示の右側にその時つながっているギアの段数が出るからわかる。96km/hくらいまで減速しても7速のままだ。一度7速に入れば、96km/h以上ならキックダウンしたりしなければ7速を保ってくれる。ちなみに100km/hでのエンジン回転数は、7速1300rpm、6速1700rpmである。

車内の静粛性は満足できるレベルだ。走行音もあまり聞こえないし、エンジン音もうまく遮断しているから、長距離ドライブでも疲れない。車外にいると、ディーゼル車だとわかる音が聞こえるが、さほど耳障りでもない。

A6アバントが履いていたタイヤは前後とも18インチだった。市街地も高速道路も静かで、乗り心地も当たりは強くないし、衝撃吸収能力も高く快適だった。ただワインディングロードに入ると、飛ばしているつもりはなくてもスリップアングルが大きくなっていないときから高音のパターンノイズが聞こえるのが気になった。石の家に住んでいた欧州人は、この手の高周波の音はあまり聞こえないらしいが、木の家に住んでいる日本人にはちょっと気になる音だ。

画像: 好燃費で快適なロングドライブが楽しめるA6アバント。ディーゼル音もさほど気にならない。

好燃費で快適なロングドライブが楽しめるA6アバント。ディーゼル音もさほど気にならない。

アウディドライブセレクトは「エフィシェンシー」、「コンフォート」、「オートダイナミック」、「インディビジュアル」に切り替えられ「ドライブシステム」、「サスペンション」、「ステアリング」のセッティングを変えられる。

山道に入るまでは「オート」で何の不満もなかったが、ワインディングロードでのコーナリング時に出口に向けてアクセルペダルを踏んだとき、ギアが高いままで加速がワンテンポ遅れる感じがした。

そこで「ダイナミック」を選ぶと、パドルシフトを使わなくても思いどおりのアクセルコントロールと加速が得られるようになった。またコーナリング時のロール角も小さくなり、字コーナーでの揺り返しもなくなった。ロール角が小さくなった分だけロールステアが減り、ハンドルがシャープに反応するようになり、小さな舵角でスポーティかつ快適に走れるようになった。また足回りは固められていても乗り心地は悪化しなかった。18インチだが55偏平でそれなりにハイトがあり、タイヤのトレッド面のエンベロープ性能が良いからだろう。

A6アバントのシートはちょっと大きめで身体全体を支えてくれるから、高速道路でもワインディングロードでも快適だった。シートフレームやレールの剛性が高いので座ったときにどっしりしていて安心感がある。シートバックのクッションは意外にもソフトだが、外枠には剛性があり、ハンドルを切ったときには身体をしっかりと支えてくれサポート性は良かった。快適性と運転のしやすさのバランスが良いシートだ。またドライビングポジションを合わせたときのヘッドクリアランスも十分で、人と荷物を積んだ長距離ドライブでも快適だろう。

画像: Sライン以外のヘッドライニングカラーはルナシルバーなので車内は明るい印象。

Sライン以外のヘッドライニングカラーはルナシルバーなので車内は明るい印象。

A6と同じパワートレーンのA7の走りはどうなのか

同じ道をA7スポーツバックでも走った。さすがにオプションの21インチ/35偏平のタイヤだから荒れた舗装路ではちょっと振動が来る。ドライブセレクトを「オート」にしておけば問題はないが、「ダイナミック」を選ぶとタイヤの硬さを感じる。それでも高速道路や市街地のフラットな舗装路ではその硬さを感じることなく、高いレベルの快適性を確保している。オプションのインチでも、ボディとサスペンションに施された絶妙なセッティングが効いているから不快感がないのだろう。

ドライビングポジションを合わせるとA6との違いを感じる。A7はサンバイザーの位置が額に近いのがわかる。それでも狭苦しいとは思わない程度で収まっている。シートはスポーティなセミバケット風で、見ためだけでなく実際のサポート性も良い。

画像: アウディドライブセレクトとパドルシフトが駆け抜ける快感に拍車をかけてくれる。

アウディドライブセレクトとパドルシフトが駆け抜ける快感に拍車をかけてくれる。

A6アバントもA7スポーツバックもハンドルの小舵角での手応えはやや軽めだ。ダイナミックにすれば多少手応えも出るが、ニュートラル付近は軽い。それでもハンドルを動かせばヨーは出るので無感帯にはなっていない。

今後のクルマのパワートレーンはCO2規制の影響もあって電動化が進むことは確実だろう。BEVと素のエンジン車の間にマイルドハイブリッド、ハイブリッド、PHEV、発電機付きEVが並ぶことになる。今回試乗したBASを搭載したマイルドハイブリッドはもっとも素のエンジンに近いところに位置するから、軽快で操りやすく乗りやすいと思った。

それぞれのライフスタイルにもよるが、このディーゼルエンジン+BASのマイルドハイブリッドのチョイスは筆者の好みに合っていた。(文:こもだきよし)

画像: Sラインパッケージ装着車はスイッチ類が金属調になるなど細部が標準車と異なる。

Sラインパッケージ装着車はスイッチ類が金属調になるなど細部が標準車と異なる。

■アウディA6アバント40 TDIクワトロスポーツ主要諸元

●全長×全幅×全高=4940×1885×1465mm
●ホイールベース=2925mm
●車両重量=1880kg
●エンジン= 直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量=1968cc
●最高出力=204ps/3800-4200rpm
●最大トルク=400Nm/1750-3000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=828万円

■アウディA7スポーツバック40 TDIクワトロSライン主要諸元

●全長×全幅×全高=4970×1910×1415mm
●ホイールベース=2925mm
●車両重量=1840kg
●エンジン= 直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量=1968cc
●最高出力=204ps/3800-4200rpm
●最大トルク=400Nm/1750-3000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=1090万円

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