2007年、2代目MINIが日本にやってきた。多くの新型車がまず見た目で新しさをアピールするのとは対照的に、中身は大きく進化しながら従来と同じ印象にまとめることに苦心したという2代目は、市場でどのように評価されたのか。MINIクーパーとMINIクーパーSに乗り込んで出かけたロングツーリングテストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年4月号より)

中身は変わったのに一瞥ではそう見えない

新型MINIがついに日本にやって来た。従来型が日本でデビューしたのは2002年の「 ミニの日」(3月2日)。だから、数えてちょうど丸5年での世代交代になる。

スペイン・バルセロナで開催された国際試乗会で新型クーパーSをテストドライブしてからおよそ5カ月。そんな、なかなか素早いタイミングで、日本で再会がかなった新型のルックスに対する印象は……正直なところやはり「従来型からあまり変わり映えしていない」というバルセロナでの出会いの際の印象が、再びフラッシュバックする結果になった。

好評を博したクルマのモデルチェンジは難しい、というのは世の自動車界の定説。そうした点からすれば、年間20万台以上というハイペースでの生産実績を持つこれまでのMINIのルックスを大きく変えてしまうのは、確かに得策とは言えないという考え方も成り立つだろう。

けれども、こと新型MINIの場合に限ってみれば、そんな「変わり映えしないルックス」での登場は、何もそうしたリスク回避だけが目的ではないように思う。ならば、こうして従来型のイメージを強く受け継いだデザイン採用の真の理由は一体どこにあるのか? それは恐らく「従来型のルックスを変えたいという思いが、そもそも作り手に存在しなかった」と、そういうことなのだ。

MINIのエクステリアデザインがモデルチェンジによってどう変化するのか? その興味は、確かにぼくの中にも多少なりとも存在する。しかし、いうなればそうした物見高い期待に対し、現代版MINIの生みの親であるBMWは「変える意思ナシ」という姿勢をこのモデルチェンジで明確に表明したことになる。

今回のリファインの主目的は、BMW製エンジンの搭載と、最新の歩行者保護構造を採り入れたボディの採用。自らそう宣言する今度のMINIは、「ひと目で新しさをアピールするルックス」などというものは、はなから狙ってはいなかったのだ。BMWがプロデュースする新世代MINIのエクステリアは、「すでに従来型の時点で完成のレベル」。新型を目にすると、そんな無言のメッセージが聞こえてくるようでもある。

そうは言っても、新型のエクステリアデザインが従来型をベースとして、何の苦もなく成立した、というわけではもちろんないだろう。いや、従来型のデザインがすでに完成の域に達していればいたほどに、新型のデザイン開発はより困難を極めたと言ってもよいはずだ。

新型の全長は従来型比プラスの60mm。「より大きなエンジンを搭載し、将来的に厳しさを増す安全基準をも満たすため」という理由から行われたそんなサイズの変更とともに、開発陣に突きつけられた課題は「それでいながら見た目を従来と同様の印象にまとめること」であったに違いない。基本骨格を変化させながら、それを外観上では感じさせない。それは傍目に想像する以上に難しいタスクであったはず。そんな難題を見事にやり遂げたところに新型のデザインの偉大さがある。「中身は変わったのに一見して同じように見せている」ところこそが、新型のデザインの凄さというわけだ。

画像: MINIクーパーS。走りはより洗練されたものに進化。従来型初期モデルで感じられた路面への当たり感がしなやかなものへと変わっている。ゴーカートフィーリングと称されるMINIの走りも進化している。

MINIクーパーS。走りはより洗練されたものに進化。従来型初期モデルで感じられた路面への当たり感がしなやかなものへと変わっている。ゴーカートフィーリングと称されるMINIの走りも進化している。

歴史と伝統のアイコンを重視しているMINI

一方、インテリアで最大の特徴的アイコンでもあるセンタースピードメーターは、新型になって大きさを一層アップ。ドアを開けば、誰もの目を釘づけにするに違いないそのアイテムは、今度はナビゲーション用モニターをその円周内にスッポリ入れ込める、と、そんな機能性からの要求にも基づいたデザインだ。

使い勝手上の不利を承知の上で、今回もパワーウインドウのスイッチはセンターパネル下部にトグルスイッチとして残されている。が、それも、仮にこのクルマがBMWのブランドを名乗るものであったら有り得なかったはず。

こうして、場合によっては機能の理想を追求するよりも歴史と伝統を連想させるアイコンを重視したというのも、このモデルが『MINI』であればこそ、だ。

MINIならではの「確信犯的作り」は、そのシートレイアウトでも明確だ。「狭い!」と従来型で散々指摘されつつも、新型でも相変わらずミニマムのレベルに留まった後席空間は、「MINIらしさを演じるためには市場の声にも迎合しない」というブランド戦略の強固さが現れた結果と言ってもよいだろう。

タンデムディスタンス(フロントとリアシート間の距離)が絶対的に小さく、かつ2名分のリアシートは車両中心線に寄せられたレイアウト。そのため、前後席間での親密感は一般的な2ボックスモデルの場合よりもずっと強く、上すぼまりで肩の部分が「抜けた」フロントシートバック越しに行うリアパッセンジャーとの会話が弾むのも、相変わらずだ。結果、そんなレイアウトはまさにダブルデートにうってつけ。これもまた、MINIパッケージングのひとつの特徴なのである。

ところで、そうは言いつつも新型のキャビンパッケージングに、空間の広がり感を改善しようとした形跡がまったくないわけではない。例えば、センターコンソールをスリム化したり左右の空調ベントがより両端に寄せられ、視覚的なワイド感が強調されたりと、いくつかのポイントには努力を垣間見ることもできる。

しかし、そうしたわずかなパッケージング上の変更よりも、従来型ユーザーがより直接的に「悔しさ」を感じるであろうポイントが、フロントシートの機能性が大幅に向上したことだ。大判とまでは言いかねるものの、それでもシートそのものが多少なりとも拡大された印象だし、何よりも着座状態での面圧分布が大幅に改善されているのが大きい。着座と同時にクッション部分の腰砕け感が伝わった従来型のシートに対し、新型のそれはしっかりと腰を受けとめる。従来型での長時間ドライブはあまり歓迎しかねるものだったが、新型でのそれは、後述する乗り心地の改善とともに「もはや苦もない作業」と報告できるものに一変した。人によっては「モデルチェンジの効果はシートに一番現れている」とそう感じるほどかも知れない。

今回のテストドライブに用意されたのは、クーパーSのMT仕様とクーパーのAT仕様という2台。さまざまなオプション類が豊富に用意され、「理論上は10万通りの選択肢を用意」という新型だが、今回のモデルにはサスペンションやタイヤなど、走りの性能部分に直接影響を及ぼす可能性のあるオプションアイテムは装着されていなかった。

画像: 従来モデルに比べて広々とした印象のインテリア。センタースピードメーターは新型になってさらに大きくなった。オプションのカラーライン装備の場合、ニーパッドとドアアームレストは5色から選べる。

従来モデルに比べて広々とした印象のインテリア。センタースピードメーターは新型になってさらに大きくなった。オプションのカラーライン装備の場合、ニーパッドとドアアームレストは5色から選べる。

クーパーSの持つ素直でリニアなトルク感

クーパーSのテスト車は、冒頭に記したスペインでの国際試乗会でも乗った仕様。ただし、当然左ハンドルで、初めての右ハンドル仕様体験となる今回は、まずドライビングポジションのチェックから始めよう。

で、その結果はと言えば……違和感はまったくなし。ABCの3つのペダルはドライバーズシートに対してほぼ正対配置されているし、タコメーターとともにチルトするステアリングコラムは、同時にテレスコピック機能も与えられ、理想的なポジションを簡単に決めることができる。

直立気味のウインドシールドから広がる、独特の視界の広がり感ももちろん健在。ステー式ドアミラーの前方部分が「抜けている」ので、右左折時に死角が小さいのも嬉しい。

Bピラー位置で従来型よりも18mm高まったというベルトラインも、閉塞感を生み出すまでには至っていない。その上で、この高いベルトラインのお陰でMINIならではの「ボディ全体を取り巻くガラスの帯」というモチーフが見事に演じられている。ちなみに、インテリアの仕上がり具合はこのクラスとしては最上級。BMWクオリティがしっかり反映されているという印象だ。

丸くキュートなリモコンキーをダッシュボード右端のスロットに差し込み、脇の小さなボタンを押してエンジンスタート。ツインスクロールターボ付き1.6L直噴エンジンは、もちろん何の苦もなく一発で目を覚ます。1Lあたり100psを超える最高出力を発するユニットながら、10.5と高い圧縮比を実現させた要は、燃料冷却の効果でノッキング限界が高い直噴システム。ただし、そのためにアイドリング時の車外では「チリチリ」という直噴エンジン特有のノイズがかすかに耳に付く。

が、そんな特徴音も窓を締め切ったキャビン内ではもはや識別困難だ。すなわち、加速のたびに特有の高周波ノイズを盛大に響かせたメカニカル・スーパーチャージャー採用の従来型クーパーS以上に、新しいクーパーSの静粛性は高い。と同時に、後方から適度なボリュームで耳に届くエキゾーストノートが、このモデルがシリーズのホッテストバージョンであることを教えてくれる。

気になる引っかかりや重さもなく、なかなか小気味良く決まるシフターで左上の1速ギアを選択。クラッチミートのほんのわずかな一瞬だけは少々トルクの細さを感じるものの、加速態勢に移るシーンでは今度は「とてもターボ付きエンジンとは思えない、アクセルワークに素直でリニアなトルク感」が印象的だ。

1500rpm付近からは各ギアで十分力強い加速Gを得ることができるし、低周波のこもり音をいとわないのであれば1000rpm付近まで回転が落ちてもそこからのアクセルワークに確かな反応。一方で、3000rpm付近から上でアクセルペダルを深く踏み込めば、低いギアではトルクステアを感じさせるほどのターボパワーも両立させている。

ただしタコメーター上に引かれた6500rpmのレッドラインにめがけてのパワーの伸び感はことさらにシャープというわけではなく、人によっては「クーパーSとしては寂しい……」という印象を抱くかも知れない。が、そんなポイントは、恐らくはさまざまなアフターパーツによって解決されるはず。

いずれにせよ、従来型に対してより全域高性能のキャラクターを強めたのが新型クーパーSの心臓だ。

0→100km/h加速が7.1秒という好タイムをマークするクーパーSの動力性能に比べると、BMWの御家芸であるバルブトロニック技術を用いた自然吸気方式を採る1.6Lエンジンに6速ATを組み合わせたクーパーは、さすがにパンチ力では明快なダウンを感じる。

けれどもそれは、決して「鈍重」などという言葉をイメージさせるものではない。それどころか、1.2 トンに近い車両重量に120psの最高出力……そんなスペック以上の活発さを実感できる走りであったと報告する方が正しいだろう。

そうした印象に大きく貢献しているのは、低回転域から太いトルクを発するエンジンとともに、小さなステップ比と広いレンジを両立させたステップ比と広いレンジを両立させた6速ATでもある。時に予想を超えるシフトショックを感じさせられたり、キックダウンへのヘジテーション(ためらい感)も認められたりとまだ「パーフェクトな仕上がり」という絶賛にまでは至らないものの、それでも走り出し時点の滑らかさやノイズの小ささなど、全般には従来型クーパーが組み合わせたCVTのでき栄えを確実に上回る。

先に述べた通り、パンチ力という点ではクーパーSに比べるべくもないものの、それでもアクセルペダルの踏み込みに対しては不足を感じない加速力を演じてくれるクーパー。が、ひとつ惜しいのはそのサウンドのチューニングレベルが『クーパー』というモデルイメージに一歩及んでいないと感じられてしまう点。

前述のように、その静粛性は従来型よりも確実に向上しているものの、それでも心地良いサウンドというよりはバルクヘッド越しのエンジン音やロードノイズなど、どちらかといえば「騒音」と評したくなる音が少々目立ち気味だ。エンジンブロックがアルミ製となった点もノイズ上は不利と考えられるが、このあたりの質感のさらなる向上は新型MINIの今後の課題と言えそうだ。

新型ではAT仕様の場合、ステアリングスポークのホーンパッド近くにシフトパドルスイッチが装着される。押してアップ、引いてダウンという左右パドルが対称のデザインは、BMW車と同様のロジック。例え180度の転舵中でも操作コマンドの方向が変わらないので、左右パドルでコマンドを分けるデザイン(BMWベースでも『M車』はなぜかこれ)よりこちらの方が合理的だ。

このパドルを用いてのマニュアル操作に対する、実際の変速動作の応答性はなかなかシャープ。Dレンジ走行中もパドル操作が優先され、一端マニュアルモードに変わったのち放置をすれば約8秒の後にはDレンジ、というロジックも使いやすい。

画像: 従来型ではボンネットを開けた時にヘッドライトがボンネット側に付いていたが、この新型はボディ側に付く。クーパーS(手前)は1.6L直噴ツインスクロールターボエンジン、クーパーはバルブトロニック技術を採用した1.6Lエンジンを搭載。

従来型ではボンネットを開けた時にヘッドライトがボンネット側に付いていたが、この新型はボディ側に付く。クーパーS(手前)は1.6L直噴ツインスクロールターボエンジン、クーパーはバルブトロニック技術を採用した1.6Lエンジンを搭載。

より洗練されたゴーカートフィーリング

フロントにストラット、リアには「BMWグループの開発ノウハウが活かされた」というセントラルアーム式サスペンションを採用した新型のフットワークは、今回も従来型の場合と同様、ゴーカート感覚をうたい文句とする。

ただし、実際の走りの感覚はクーパーSもクーパーも「従来型よりも大きく洗練度が高まった」という表現が相応しい。そもそも、デビュー当初の初期型に比べればすでにそうした傾向を強く感じさせられたのが後期型の従来モデルだったが、そうしたチューニングのベクトルがさらに継続されたのが新型のフットワーク、という印象だ。

クーパーSとクーパーのテイストは、微妙に異なっている。その違いは誰もが想像する通り、「S」の方がより走りのダイレクト感が強調されている、という印象だ。

サスペンションの設定自体が両車で異なるのに加え、こうしたテイストの違いを生み出す重要な要素となっているのが装着タイヤの違い。195/55サイズの16インチ・ランフラットを履くクーパーSに対し、クーパーは175/65サイズの標準構造による15インチを装着。そんなシューズの違いが大きく影響していると思われるのが比較的低速域での乗り味で、特に60km/h程度まではより低偏平でかつランフラット構造を持つクーパーSのそれが、しなやかさに欠けがちなものとなっている。

もっとも、そうは言っても従来型に比べれば路面への当たり感がしなやかさを確実に増したのは間違いない。特にクーパーSの場合、人によっては「刺激が物足りない」という印象を受けるのではないかと、ちょっと心配になるくらいでもある。

「ゴーカート感覚」という言葉にファームな乗り味を期待する向きに推奨したいのが、スプリング/ダンパー/スタビライザーをより強化型としたオプション設定のスポーツサスペンションの選択。国際試乗会の場でそんなサスペンションを装着の上、さらにシューズを17インチへとサイズアップしたモデルに乗った印象からすれば、そこではゴーカートフィーリングが明確に加速されることになる。一般に言う『快適性』は低下の方向に向かう一方、ダイレクトな操縦感覚は確実にアップするのが、このオプション装着車だった。

今回も踏襲された電動油圧式のパワーステアリングは、操作フィーリングの点で多くのフル電動式に対して今でも確かなアドバンテージをキープしている。ただし、機敏な回頭感という点では、例えクーパーSでも今や特筆すべきシャープさを備えているとは言い難い。シャープなテイストを求めるのであれば、やはり前出のオプションを選択すべき。さらに言えば、BMW各車に用意されている「アクティブステアリング」のようなデバイスの採用もそろそろ検討されて良いのではないだろうか。

「自らの原点はエンジン製造会社にあり」。そんな自負に基づいて行われたかのような自社製エンジンの搭載と、時代の要請を受けてのボディ構造の変更——ありていに言えば、そうしたメニューを主目的に行われたのが今回のMINIのフルモデルチェンジ。しかし、いざ触れてみれば、さまざまなしがらみを超越した進化ぶりを実感する。それが「新型」の実力なのである。(文:河村康彦/Motor Magazine 2007年4月号より)

画像: 走りのダイレクト感が強調されたクーパーSと比べると、クーパーはさすがにパンチ力という点では一歩譲るが、スペック以上の活発さを実感できる。

走りのダイレクト感が強調されたクーパーSと比べると、クーパーはさすがにパンチ力という点では一歩譲るが、スペック以上の活発さを実感できる。

ヒットの法則

MINI クーパー 主要諸元

●全長×全幅×全高:3700×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1170kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:120ps/6000rpm
●最大トルク:160Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF●車両価格:264万円(2007年)

MINI クーパーS 主要諸元

●全長×全幅×全高:3700×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1210kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:175ps/5500rpm
●最大トルク:240Nm/1600-5000rpm
(オーバーブースト時260Nm/1700-4500rpm)
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:295万円(2007年)

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