大きな注目を集める中、2007年のジュネーブオートサロンでW204型メルセデス・ベンツ Cクラスがデビューしている。アバンギャルドとエレガンスというふたつの顔を持つことも話題となったが、多様化するニーズに対応してスポーツ性とコンフォート性をどのようにバランスさせていたのか。ジュネーブでデビューを飾った後、スペイン・バレンシアで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年5月号より)

あらゆる面で素晴らしい仕上がりを見せるボディ

クルマの心臓部であるパワーパック(エンジン+トランスミッション)を基本的に従来型からのキャリーオーバーとした点に代表されるように、新型Cクラスのハードウエアには、実は大きな「飛び道具」を見ることはできない。

たとえば、後発ゆえに採用検討の時間は十分過ぎるほどあったはずにもかかわらず、最大のライバルたるBMW 3シリーズが設定をするステアリングレシオの可変メカニズム(アクティブステアリング)やランフラットタイヤの用意はないし、昨今ではポピュラーな設計になりつつあるアルミ骨格の使用による、ボディの大幅な軽量化などが報告されているわけでもない。

しかし、そんな新型Cクラスの内容をつぶさに観察してみれば、そこには「フルモデルチェンジだからこそ可能になった」という様々なリファインの足跡を見付けられるのもまた確かだ。

冒頭に掲げた理由や、史上初めて「2つの顔」を用意するなどの特徴から、一時は「どちらかと言えば『スキンチェンジ』の意味合いが強いのかな?」とも連想できた今回のモデルチェンジ。が、いざ蓋を開けてみればビッシリと中身の詰まった変わりようを示してくれているのは、なるほどやはりメルセデス流でもある。

従来型が登場して以来の7年間の進化ぶり。それは、そのままストレートに新型の細部に反映されているという印象なのだ。

クルマの素性を決定づけるのは、まずはその骨格であるボディの構造。そんな当たり前の課題に向けて正攻法で取り組み、再び「このクラスではベスト!」というタイトルを勝ち取るであろう仕上がりを見せるのが、まずは新型Cクラスのホワイトボディだ。

前述のように、そこにはアッと驚くような「飛び道具」は用いられてはいない。フロントフェンダーパネルには軽量化のため、また、フロントエンドモジュールやフロントクラッシュボックスには軽量化と軽衝突時のリペアビリティ(修復容易性)向上のためにアルミ素材が用いられるが、その他の部分はいずれもスチール構造。ただし、ボディシェルパネルの70%の部分には高張力鋼が使われ、さらに高強度の超高張力鋼の使用部位も20%に及ぶという。

「これほどの割合で高張力鋼を使用した乗用車開発は前例を見ない」と自らが語るそうした構造により、大型化したにもかかわらず8kgの軽量化を達成している。

ちなみに、こうしたボディのねじり剛性値は、従来型比で13%向上と発表されている。このデータにはフランジ同士の結合への構造接着剤の多用(トータル600m分という)や、新たに導入したレーザー溶接テクノロジー「RobScan」なども大きく貢献しているはずだ。アルミやプラスチックなどへの大幅な材料置換=コストアップを避けながら、こうして強靭かつ従来型よりも軽いシェルを作り上げた点こそが、新型のボディ開発陣の大いなる誇りであるに違いない。

同時に、安全性については自他共に認める世界のトレンドセッターであるメルセデスの最新モデルであるだけに、そんなボディが最新の衝突時安全性の確保を目指したものであるのも言うまでもない。

4つのパートから構成されるフロントバルクヘッドは、前面衝突への対応と同時に軽量化も図るため下部を上部より56%厚板化。万一の際の生存空間確保の要となるキャビンフロア部分は、お互いにレーザー溶接された3つのスチールシートにより構成される。後席中央の足元スペースを奪い取ってしまうメルセデス・ベンツの特徴(?)でもある大きくスクエアなセンタートンネルは、しかしそうした見た目のとおり、このクルマのボディの重要な背骨の役割を果たす。強固なサイドメンバーとそれを左右に結ぶクロスメンバーには「トンネルストラット」と呼ぶアルミニウム製を採用。側面衝突に対しては3層構造の強化スチールによるBピラーが、衝撃を受け止めた上でそのエネルギーを効果的に分散させる。

ドアの設計に関しては、今回とくにそのヒンジ部分に注意が注がれたとのこと。特別な高張力マウンティングプレートが開発され、万一の際の乗員保護性能を強化。また、ボディリアエンドは段階的な差厚鋼板によるサイドメンバーを採用するなどで、やはり効果的に衝撃を吸収しつつ生存空間を確保する設計だ。

ところで、そんなメルセデスのボディが同時にエアロダイナミクス性能を強く意識したものであるのもいつもの事柄。空気抵抗係数Cd=0.27という値は今の時代さほど驚くべきものではないが、注目したいのはやはりこの点でも『安全』に対する積極果敢な取り組みが認められるところにある。

中でも、サルーンならではのエレガントなフォルムを阻害するスポイラーの類を付加することなく、ヨーイングモーメントやリアアクスルにかかる揚力を低減させるのに寄与したというのが、「ベンチレーティング・リアライト」と呼ばれるコンビネーションランプ周りの空力処理。「メルセデス・ベンツがパテント取得済み」というこの部分のデザインは、コンビネーションランプ部分に設けられた小さな通気スリットからボディ下部、クロスメンバーとバンパー間から取り入れた空気を噴出させることで、通常ならばボディリアエンドへと巻き込んでしまう空気の流れをスムーズに剥離。それによって前述のように空力性能を向上させようというシンプルなアイデアだ。

ドアミラーやサイドウインドウ、リアウインドウをクリアに保つべく、空気の流れ、雨水の流れの積極的なコントロールにトライをしているのも特徴だ。具体的には、ウインドシールドに当たった水をサイドウインドウへと回り込ませず、ルーフへと流すドレーンチャンネル。その水をリアウインドウへと流さずに処理するためにルーフ後端とリアウインドウ間に設けられた、ツーピース構造のラバーリップ。そして、小さなスポイラーを組み込んで雨水の流れを促進しつつ、ドアハンドルの汚れの軽減までを見込んだデザインのドアミラーなどがそれに当たる。

画像: 3L V6DOHCエンジンを搭載するC280アバンギャルド。コンビネーションランプ部分に設けられた小さな通気スリットからボディ下部、クロスメンバーとバンパー間から取り入れた空気を噴出させる「ベンチレーティング・リアライト」も注目のアイデア。

3L V6DOHCエンジンを搭載するC280アバンギャルド。コンビネーションランプ部分に設けられた小さな通気スリットからボディ下部、クロスメンバーとバンパー間から取り入れた空気を噴出させる「ベンチレーティング・リアライト」も注目のアイデア。

安全のための革新的なライティングシステム

ところで、昨今では夜間走行中の進路の屈曲に合わせ、照射ビームが左右に首を振るアダプティブヘッドライトを採用するモデルは珍しくない。が、新型Cクラスでは、そこから先に一歩を踏み込んだ、「インテリジェント・ライティングシステム」をオプション採用しているのもニュースのひとつ。

ベースとなるのはバイキセノン方式ヘッドライト。光量と照射方向を可変とすることで90km/h以上の「 高速道路モード」では照射範囲を60%アップ。さらに110km/h以上に達するとドライバー側ライトの照射方向をやや上向きとし、通常のロービームよりも50m先の120mまでを見通すことを可能にする。また、それまでの走行状況からカントリーロードモードが選択されると、ドライバー側の路側帯をり広い範囲で照射。暗がりの中の側道や交差道路をより素早く発見できるようにするという仕組みだ。

すでにポピュラーになりつつあるコーナリングライトの機能も盛り込まれている。ステアリングの操舵角や車速、ヨレイトなどにより、最大15の角度で照射ビームを左右に振ることで、半径190mのコーナーで通常のロービームに対し25m奥まで視界を得ることが可能になる。また、40km/h以下の速度でステアリングを大きく切り込むと、ヘッドライト内に組み込まれたライトが点灯。斜め65度の方向を30mの範囲で照らす機能も盛り込まれる。

また、もうひとつの見逃せない新機軸は、アダプティブブレーキライトと名付けられた「フラッシング・ブレーキライト」。50km/h以上の速度からのハードブレーキング、またはブレーキアシスト作動時に、ストップランプを素早く点滅させる。「これによって後続ドライバーの制動反応時間が最高で0.2秒短縮され、結果、80km/hでは4.4m、100km/hでは5.5mの停止距離短縮が見込める」というのがメルセデスの説明になる。

ただし、残念なことにこれらライト関係の新技術は現行の日本のレギュレーションには合致しない公算が大。メルセデスが自信を持って開発したアイテムだけに、一刻も早い日本市場への導入が実現することを願いたい。

画像: エレガンス(左)とアバンギャルド(右)という2つの顔を持つことも話題となった。

エレガンス(左)とアバンギャルド(右)という2つの顔を持つことも話題となった。

際だつフラット感を演じるボディコントロール能力

と、そんな新しいCクラスで走り出してみる。残念ながらいつものとおりテストドライブは日中の時間帯に限られたため、前出の「インテリジェント・ライティングシステム」の恩恵に預かることはできなかったし、「フラッシング・ブレーキライト」の効用も身をもって知ることはできなかった。

が、それでもC350、C280、そしてC320CDIと用意されたいずれのモデルに乗っても、走り出してすぐにその「新しさ」がしみじみと感じられた。「この出来栄えには、もうどこにも文句を付ける部分はないな」と実感できたのが従来型(特に最終仕様)のCクラスセダンだったもの。けれども今度のモデルは従来型の仕上がりの良ささえ「飛躍的に」とは言えないながら、しかし「あらゆる面で確実に凌いだ」と実感させてくれた。

確かに、動力性能面に関しては「これまでとあまり変わっていないな」という印象が拭えない。どのモデルに乗っても決して古臭い感触は漂わないが、フルチェンジによる新しさは実感できないというのもまた事実だ。

中でも、最もパワフルなC350に乗ると、時に気になるシフトショックが感じられたのはちょっと残念。直噴メカがトレンドになりつつ現在、その話題が聞こえないという点にも多少の不満は残る。

しかし、無駄な動きが抑えられ、際立つフラット感を演じるボディコントロール能力の高さや、濃密な路面との接地感など、総合的な走りの質感の高さには畏敬の念すら感じられる。テストイベント開始の時点では強い風が荒れ狂う中を高速道路へ、というシチュエーションにも遭遇したが、そうした中での強風を感じさせない安定した走りには、図らずも優れたエアロダイナミクス性能を実感させられた。

ところで、そんな新型Cクラスのインテリアがメルセデス流儀に則った、「あるべきところにあるべきものがある」というコンセプトによる安心デザインを採用する一方で、コンサバティブなだけには留まらない進化を遂げていたことにも感心した。

ただ、「慣れない人が操作するにはこのデザインが最適」という理由から、今回もセンターパネル上に10キーが残された点にだけは、個人的には賛同できない。ああした操作系のデザインはあくまでもパッセンジャーの操作を念頭に置いたものであり、ならばむしろドライバーが走行中に容易にアクセスできないところにレイアウトすべきものと思えるからだ。が、これまで低い位置で見難くかったナビゲーションモニターはダッシュアッパーの特等席にそのスペースが準備されたし、COMANDと称する操作系も、この種のマルチメディア操作系の中ではトップと思える、従来型とは比較にならない操作性の高さを確認できた。

最後に付け加えるならば、実は今度のCクラスで個人的に最も好感を持てたのは、そのボディサイズと、それによる扱いやすさだった。中でも単純な居住空間の比較ではライバルに対して不利になることを知りつつ1770mmに留めたボディ全幅は、「乗る人の体格が大きくなるからクルマも大きくする」という半ば技術力を放棄した理屈によるサイズアップという、これまでは自らも手を染めてきた世の動きに対する、今のメルセデスからの強烈なアンチテーゼであるはずだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2007年5月号より)

画像: C350アバンギャルドのインテリア。AMGスポーツパッケージはパドル付き3本スポーツステアリングを装着。ペダルはラバースタッド付きアルミ。

C350アバンギャルドのインテリア。AMGスポーツパッケージはパドル付き3本スポーツステアリングを装着。ペダルはラバースタッド付きアルミ。

画像: C350エレガンスのインテリア。ステアリングは4本スポークタイプが標準仕様となる。

C350エレガンスのインテリア。ステアリングは4本スポークタイプが標準仕様となる。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツ C180 コンプレッサー 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1447mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1485kg
●エンジン:直4DOHCスーパーチャージャー
●排気量:1796cc
●最高出力:156ps/5200rpm
●最大トルク:230Nm/2500-4200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:223km/h
●0-100km/h加速:9.5秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C200 コンプレッサー 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1490kg
●エンジン:直4DOHCスーパーチャージャー
●排気量:1796cc
●最高出力:184ps/5500rpm
●最大トルク:250Nm/2800-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:235km/h
●0-100km/h加速:8.6秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C230 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:204ps/6100rpm
●最大トルク:245Nm/2900-5500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:240km/h
●0-100km/h加速:8.4秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C280 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1555kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:231ps/6000rpm
●最大トルク:300Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h
●0-100km/h加速:7.3秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C350 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1610kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3498cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h
●0-100km/h加速:6.4秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C200 CDI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1447mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1560kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●排気量:2148cc
●最高出力:136ps/3800rpm
●最大トルク:270Nm/1600-3000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:215km/h
●0-100km/h加速:10.4秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C220 CDI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1585kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●排気量:2148cc
●最高出力:170ps/3800rpm
●最大トルク:400Nm/2000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:229km/h
●0-100km/h加速:8.5秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツ C320 CDI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1448mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1700kg
●エンジン:V6DOHCディーゼルターボ
●排気量:2987cc
●最高出力:224ps/3800rpm
●最大トルク:510Nm/1600-2800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h
●0-100km/h加速:7.7秒
※欧州仕様

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