2007年、MINIが5年ぶりにフルモデルチェンジして2世代目へと移行した。MINIとBMWの関係はよく知られているが、MINIの存在がBMWのエントリーである1シリーズに影響を及ぼすことはないのか。Motor Magazine誌では、BMW特集の中でBMWとMINIの関係に着目。BMW 130i MスポーツとMINIクーパーの試乗をとおして、その関係を検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年6月号より)

新型MINIは「変化」ではなく「進化」した

ここ数年のBMWグループの好調を支えている要因のひとつが、モデルラインアップの大幅な拡大である。中でも注目はボトムレンジ。長年、主力であるとともにエントリーモデルでもあった3シリーズの下に、魅力的なニューモデルが投入されて、新たなユーザーに大いにアピールしているのだ。

その代表が1シリーズである。2005年に投入されたこのコンパクトBMWは、フォルクスワーゲン ゴルフと同じセグメントに属する。しかし駆動方式はFRを踏襲するなど、BMWがこれまで培ってきた価値のすべてを集約。個性的なスタイリングも受け入れられ、大ヒットとなっている。

そして、もう1台がMINIだ。当たり前だがMINIはBMWではなく、その傘下にあるブランドだ。しかし、ユーザーの多くはその背後にBMWがいることを知っていて、それは間違いなく好感度を引き上げている。そもそも日本ではずっと好イメージで捉えられてきたブランドに、BMWという強力な後ろ盾が加わり、さらに期待を裏切らないプロダクトの魅力が折り重なって、新生MINIは一代でプレミアムコンパクトカーとしての地位を確立してみせたのである。

そんなMINIが5年ぶりにフルモデルチェンジを敢行して二世代目へと移行した。異例な速さとスムーズさでブランド構築を成し遂げたMINIは、この新型でどこに向かおうとしているのか。BMWブランドのエントリーである1シリーズとの位置関係はどうなっているのか、逆にMINIの進化はBMWに影響を及ぼすのか。それらを改めて確認してみるべく、ここでは新型MINIクーパーとBMW130i Mスポーツを引っ張り出して、存分に走り回ってきたのだった。

ご存知の通り、新型MINIは徹底したキープコンセプトで生み出された。特にデザインは、内外装ともにとてもフルモデルチェンジとは思えないほどだ。要するに、見た目はできるだけ変えたくなかったのだろう。いや、本当は進化の途も探っていたということは、一昨年のフランクフルト・モーターショーに出展されたコンセプトやフランクフルト以降のショーカーを見れば明らかだが、ユーザーはそれを受け入れなかった。結局、衝突安全性や歩行者保護性能をアップデートするためのフードの延長を行ない、他の部分をそれに合わせてバランスを整えた結果が新しいMINIのデザインだ。

インテリアも同様に、より普及の進んだナビシステムのスマートなインストールなど新しい要件を満たしながらも、雰囲気はキープされたのである。

しかし走りの印象は一変した。それは簡潔に言えば、洗練度を増したということ。それが顕著なのが乗り心地で、ほとんどストロークを拒むかのように始終跳ね回っていたリアがグッと落ち着いて、荒れた路面でも身体を必要以上に揺さぶることがなくなった。

ただしそれには交換条件もあってゴーカート・フィーリングと謳われたフットワークは随分と穏やかになった。ショートホイールベースだけに基本的な資質として曲がりやすいことに変わりはないが、旧型が重めのステアリングを切り込むと一気にゲインが立ち上がり、リアを引きずりながら強引に向きを変えていたのに対して、新型は操舵力の軽い電動油圧式パワーステアリングの反応が俄然マイルドになり、リアがしなやかに曲げるのを手伝ってくれる。要するに今どきのFFっぽいフットワークを得ているのである。

パワートレーンも傾向は一緒。直列4気筒1.6Lバルブトロニックユニットは、回転上昇が俄然スムーズになり、いわゆる上質感がグッと高まっている。しかし高回転域での伸びが高まった一方で、実用域のパンチがやや希薄に。街中でも6速ATはすぐにキックダウンして忙しない。そのAT自体は、従来のCVTより確かに洗練はされている。しかし、変速時の段付き感の演出などは、本当に必要だったのかなという気もしないではない。

要するに見た目に於いては変化ではなく進化。実際はまったく変わらないわけではなく、見れば確かに違う。すれ違っただけで判断できるかはともかく、そこに置いてあれば何か違うかなというぐらいは感じられるはずなのだが、それが3年後まで本当に鮮度を保っていけるのかは、やはり疑問ではある。そもそも先代は、クラシック・ミニとはまるで別物だったにもかかわらず、これほどまでに万人に受け入れられたのだ。そう考えると新型は守りに入り過ぎたのではという感が否めない。「まったく別物なのに、ミニ以外の何物でもない」そんなスタイリングを見たかったような気もするのだ。

一方、走りにおいては洗練という言葉が相応しい。しかし、これも両刃の剣かもしれない。先代モデルで強く感じられたのは、クラシック・ミニの走りへの愛情と敬意。あのフットワークと、さらには荒っぽい回転感覚のエンジンに、思わずニヤッとした往年のファンは少なくないはずだ。新型MINIは軽い操舵力にしなやかな乗り心地と引き換えに、あの「痛快ぶり」が薄らいだ感は、正直言って否めない。

普通に考えれば間違いなく正常進化である。けれど、MINIのような強い思い入れを持って接せられるはずのモデルにとって、それはテイストを薄めることにも繋がりかねないのでは?そう危惧してしまうのだ。

画像: MINIならではの走行感覚は全長3.7m、全幅1.68mという小さなディメンジョンとBMWのエンジニアたちの走りへのこだわりがもたらした産物。つまりMINIはこれ以上大きくできないクルマなのだ。市場の声が「もっと大きくしろ」といっても彼等は決してそれをしないだろう。

MINIならではの走行感覚は全長3.7m、全幅1.68mという小さなディメンジョンとBMWのエンジニアたちの走りへのこだわりがもたらした産物。つまりMINIはこれ以上大きくできないクルマなのだ。市場の声が「もっと大きくしろ」といっても彼等は決してそれをしないだろう。

BMW 1シリーズは個性も味わいも濃厚

テイストと言えば、最近これほど濃いモデルはちょっとないのではと思わせるのがBMW1シリーズである。冒頭にも書いたが、何しろその立ち位置からして1シリーズは独創的。このセグメント唯一のFRであり、特に130i Mスポーツは、そこに垂涎の直列6気筒エンジンを組み合わせ、MTまで用意しているのだから。

デザインも攻めている。ロングノーズのフォルムだけでも個性的なのに、そこにまさに「バングル節」全開のディテールが載るのだから、存在感が際立つのも当然だ。もちろん好き嫌いはあるだろう。手放しでカッコ良いと言えるものなのかは疑問だ。サイズからすれば室内も明らかに狭い。けれどその分キャラクターは明快そのもの。妙に気になる存在であることは間違いない。

しかも走りが、また実にテイストフルなのだ。そのフットワークは、まさに意のまま思いのまま。グリップの太いステアリングを切り込めば、クルマ全体がまるでドライバーを中心に向きを変えていくかのような絶妙な感覚を味わえる。それは単にクイックなのではなく、優れた前後重量配分やフロントの動きにリアが即座に追従する高いボディ剛性、リアサスペンションの横方向の位置決めの確かさなどの相乗効果に拠るもの。そもそもボディがコンパクトなこともあって、何とも言えない一体感に浸ることができるのだ。

パワートレーンも相変わらず絶品。直列6気筒3Lバルブトロニックユニットの滑らか極まりない吹け上がりと、それに伴って奏でられる甘美な響きには、何度乗ってもゾクゾクさせられる。一方、直列4気筒エンジンも負けない魅力を発散している。スムーズで質の高い回転感覚はもちろん、踏み込んだ時の一瞬の弾けるようなレスポンスなど、オッと思わせる部分がしっかり用意されているのが心憎い。

だが人によっては、押し付けがましいと感じる場合もあるかもしれない。硬い乗り心地や太過ぎるステアリングなど、独自の流儀を強いる部分も少なくない。けれど、そこにはそれに歓んで浸りたいと思わせる魅力が溢れている。そして惚れ込んでしまえば、アバタもエクボに見えてきてしまうのだ。

画像: 絶好調の3シリーズの「母体」となったのが1シリーズというのがBMWのすごいところ。並のメーカーならば3シリーズを出した後にコストを落とした1シリーズを登場させる作戦に出るだろう。ボトムエンドのモデルであっても手を抜いてはならぬというフィロソフィのあらわれだ。

絶好調の3シリーズの「母体」となったのが1シリーズというのがBMWのすごいところ。並のメーカーならば3シリーズを出した後にコストを落とした1シリーズを登場させる作戦に出るだろう。ボトムエンドのモデルであっても手を抜いてはならぬというフィロソフィのあらわれだ。

BMWとMINIはそれぞれ別の世界を作る

MINIはBMWグループ全体の中での位置づけとしては、当然BMWの下に置かれる。しかし、それならばMINIが、たとえば1シリーズはじめBMWへのステップとして機能する方向を強めていくのかと言えば、それはきっとないのではないか。

もちろん、結果的にそうなるのはウエルカムだろうが、彼らはMINIをそこまでBMWに近づけることはしないだろう。むしろ逆。敢えて離して置いておき、でも共通の匂いだけは鼻腔の奥で感じさせる。そのぐらいが位置関係としては適切に違いない。

つまりMINIはMINI単独で、BMWとは明らかに別の世界を作っていくということである。前半では厳しい書き方をしたが、本当は僕だって解っている。MINIはあくまでBMWではなく、故に間口は広げておかなければならないと。先代にあったファンな要素を、今MINIを買っている人、つまりクラシック・ミニのオーナーとはほとんど別の層の人たちは、必ずしもすべて歓迎していたわけではない。一般的には、やはりステアリングは「適度に」クイックで、乗り心地も優しい方がいいのだ。

新型でそれを求めるオーナーのためには、スポーツサスペンションのようなアイテムも設定している。間口はより広く。けれど、それ以上を求める人のためには奥行きもしっかり確保してあるわけである。もちろん、それは理解できる話だ。ちょっと寂しく、そして不安でもあるのだけれども。

それに対してBMWは、まるで揺らぎを感じさせない。もちろん変遷してはいる。しかし、それはむしろBMWでしか得られない世界をより強調していく方向であり、実際のプロダクトも今回の130i Mスポーツを見れば明らかなように、個性も味わいも非常に濃厚だ。あるいは、それ以上に強い個性を発散させたブランドだと思っていたMINIよりも、より一般化して解りやすさを増してきているように思えていたBMWの方が、余程強いキャラクターを自信をもって提示していると感じられたのは、とても面白かった。

繰り返すが、間口を拡大していくことでユーザーの輪を広げていこうというMINIと、より先鋭化することによって個性を強め、その引力で新たな層を吸引しようというBMW。分けるとすれば、そんな感じだろう。そう、この2モデルのラインは近いところを通りつつも決して交錯することはないのである、今のところは。

いずれにせよ、そのクルマ自体の持つ個性やユーザー層、あるいは価格帯等々のありとあらゆる要素の違いで、クルマの進化の方向やマーケティングの手法に於いて、ここまで徹底して違う方法論を採る2ブランド。その徹底ぶりには改めて感心させられた。そして個人的には、変わらないために変わるが如く攻め続けるBMWブランドの、イメージしていた以上のラディカルさを再認識してちょっと嬉しい気分にもさせられたのである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2007年6月号より)

画像: FFテイストを凝縮したMINIクーパー(左)と、FRテイストを凝縮したBMW 130i Mスポーツ。

FFテイストを凝縮したMINIクーパー(左)と、FRテイストを凝縮したBMW 130i Mスポーツ。

ヒットの法則

MINI クーパー 主要諸元

●全長×全幅×全高:3700×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1170kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1958cc
●最高出力:120ps/6000rpm
●最大トルク:160Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:264万円(2007年)

BMW 130i Mスポーツ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:265ps/6600rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●車両価格:491万円(2007年)

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