2007年春のジュネーブオートサロンでデビューしたW204型メルセデス・ベンツCクラスだが、その年の秋にステーションワゴンが登場している。先代から格段の進歩を遂げて好評のCクラスセダンだったが、そのワゴンバージョンはどんな魅力を発揮していたのか。ドイツ・マインツで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年1月号より)

ステーションワゴンらしいスタイルと向上した積載性能

東京モーターショーでは、ブルーテックハイブリッドを搭載したモデルがメインステージ上に参考出品されていたメルセデス・ベンツの新型Cクラス ステーションワゴン。好調と言われるCクラスの販売をさらに強化することが確実視される追加バリエーションのため、なかなかワザの入ったプレゼンテーションだったが、新しいボディに近未来のパワーユニットを搭載するというそのニュースの多さゆえに、ステーションワゴンとしての実力をしっかり見極めるのは難しかったかも知れない。

本国ではエステートと呼ばれる新型Cクラス ステーションワゴンが初めてお披露目されたのは、9月のフランクフルトモーターショー。直後に開催された国際試乗会に参加できたので、その実力のほどをここで報告していこう。

ちなみに、このエステートの生産はブレーメン工場が担当する。セダンを生産するジンデルフィンゲンとイーストロンドン(南アフリカ)の2工場に、もうひとつ新しいCクラスの生産拠点が加わったというわけだ。

ライン川沿いの古都マインツで改めて対面した新型Cクラスステーションワゴンからは、エステートの王道に立ち返ったという印象を受けた。先代はルーフラインが滑らかにDピラーへと流れる独得なスタイルで、これがスポーティさやカジュアル感を増幅していたが、新型はリアウインドウガラスが立ち気味となりルーフエンドから角度も持ってリアゲートへと続く、カチッとしたワゴンスタイルに変身した。

とは言え、吊り目がちのヘッドライトやボリュームのあるフェンダーまわりの造形といった、スポーティな雰囲気を盛り上げる要素はセダンから変わらず受け継がれているし、同時に、切れ上がったサイドのキャラクターラインや、それに合わせて後方に向け厚みを少なくするサイドウインドウなどにより、テールエンドの重さを巧みに払拭することにも成功している。

この新しいワゴンスタイルは、以前からエステートを乗り継いできた人に違和感なく受け入れられるだろうし、よりアクティブでスポーティな雰囲気をワゴンに求める人にも好まれるに違いない。エステートもセダンと同じく、スリーポインテッドスターをグリル内に納めたアバンギャルドと、マスコットとしてフード上に置いたエレガンスの2系統が存在し、そうした幅広い嗜好に対応できるようになっているから、なおさらそうした想いは強くなる。

ボディサイズは全長4596mm×全幅1770mm×全高1459mmと発表されている。これは本国での発表値で、日本ではモデル展開や表記方法の違いで若干の差が生じる可能性もあるが、全長が約10mm、全高が約15mmワゴン化に伴い拡大されただけで全幅は変わらず。ホイールベースやトレッドも同じと考えて良いから、セダンをベースにワゴンボディを作り上げるという伝統は今回も守られている。

注目すべきは、それでいながらユーティリティが大幅に向上したことである。5人乗車時のトノカバー下のラゲッジルーム容積は485L。現行のW203型では430Lだったから、実に55Lも拡大したことになる。開発陣のコメントによれば、このクラスのステーションワゴンのユーザーはラゲッジルームのキャパシティを購入動機の上位に置いているそうで、新型Cクラスのエステートはこれに応える作り込みを行ったということだ。

実際、今まではリアタイヤハウスの張り出しに合わせてフラットなトリム処理となっていた側壁は、後端部をタイヤハウスより一段彫り込んだ形状としている。ゴルフバッグ4セットの積み込みが可能とプレスリリースにはあるが、それはこの側壁形状によって実現したに違いない。実際に試すことはできなかったが、導入時にはぜひ実際に検証してみたいポイントではある。

リアシートの折り畳みは左右7:3分割のシングルフォールド式。現行型はダブルフォールド式だったが、操作の簡便化を目的にシングル化するワゴンは最近特に多い。その結果、座席を折り畳んだ状態ではややフロアに前上がりの傾斜が残ることとなったものの、収納力自体は大幅に向上しており、天井までの最大積載容量は1500Lにも及ぶ。ちなみに先代は1314Lだから拡大幅は186Lと実に大きい。

この収納力の高さの表現方法として、開発陣は幅943mm×高さ599mm×長さ1465mmの直方体がすっぽりと納まることを強調していた。つまり、ソファや洗濯乾燥機も持ち帰れるというわけ。こうした生活に密着した使い勝手もDセグメントワゴンならではのことだ。

ラゲッジルームに関するニュースはまだある。リアゲートに電動の開閉機構が備わったのも大きなポイントだ。EASY-PACKというオプションのひとつだが、ゲートの厚みの部分にあるスイッチのワンプッシュで軽やかに閉まる。また、別のオプションとして、フロアレールに固定する4つのアンカーフック、左右に差し渡して使う伸縮自在のテレスコピックバー&テザーストラップなども用意される。これらを活用すればラゲッジルーム内で荷物がゴロゴロ移動することなく、スマートに収納できるというわけ。さらに床下にもかなり容量の大きい収納スペースが隠されているなど、単に広くなっただけでなく細かい部分の使い勝手も大幅に向上していた。

となると、気になるのは走りだが、マインツに用意されていたのは、日本にC300として導入されるC280と、導入予定のない欧州のトップエンドモデルであるC350の2車であった。トリムレベルは様々で、エレガンスとアバンギャルドが混在していた上に、日本でのアバンギャルドSに相当するAMGパッケージもある。これは標準で前後225/45R17のタイヤサイズが、リアのみ245/40R17とサイズアップされる上に、トランスミッションにMモードとパドルシフトが加わる。

画像: ステーションワゴンらしいスタイルと向上した積載性能

シャシ性能も大幅に向上、乗り心地は重厚で滑らか

試乗はもちろん、日本導入モデルに最も近いはずのC280をメインに行ったのだが、実は僕は、日本仕様のセダンC300アバンギャルドSにあまり良い印象を持っていなかったことをここで告白しておこう。

初期ロールを抑えることで実現した安定したコーナリングフォームや、舵に対して極めて正確に反応するハンドリングなど、アジリティを前面に打ち出したその乗り味に「変化」は明確に感じたものの、明らかに硬さを感じさせるようになった乗り心地や、高速域で「巌の如く」だった安定感がやや物足りなくなったことなど、引き換えに失ってしまったものも少なくない、という想いだった。

しかしアウトバーンとカントリーロードを200km近く走り回った今回のCクラス ステーションワゴンの試乗で、そうした不満は完全に霧散した。感動的だったのはやはりフットワーク。まず、乗り心地が従来のメルセデス同様どっしりと重厚で滑らかだ。路面の凹凸に呼応して各輪にコツンという当たりは感じさせるものの、それは接地感を明確に伝えて来るといったレベルのもので、決して不快な硬さではない。こうした乗り心地を実現した上で、ステアリングを切り込んだときの反応がとても鮮やかなのだから、これはもう不満はない。しかも単にキビキビとしているのではなく、舵角に対して素直に反応し、しかもどこまでも想定したラインをトレースしてくれる正確さがあるのが嬉しい。

このあたりはメルセデス・ベンツが従来から得意としている部分ではあるが、前後の重量配分を50:50に維持したパッケージに加え、初期に大きめのロールをさせず、コーナリング全般にわたってフラットで安定感のある姿勢を保つようになったことが大きな進化点。しかもそれでいて200km/h近くの高速巡航でも、相変わらずスタビリティは抜群に高いのだ。

ちなみに、ワゴン化に伴うシャシの変更点は、重量の増加とバランスの変化に対応しスタビライザーとそのマウント系に若干の強化を行った程度と言う。その恩恵か、操縦性にワゴンにありがちなテールエンドの重さを感じることはなかったし、テールゲートという大きな開口を持つにもかかわらず、そのボディのしっかり感はセダンとまったく同一。この辺にも新型Cクラスのシャシ性能の高さを思い知らされた。

3LのV6は高回転域の伸びこそやや大人しいものの、中速域のトルクが充実しており軽快なレスポンスを見せる。回転フィールも十分にスムーズだし、組み合わされる7Gトロニックの制御も実に滑らかだ。

同時に試したC350は、さらに高回転でのパンチが上乗せされて、より魅力的。その日本導入予定がないのはいかにも残念だが、このC280(日本導入時はC300となるはず)も、トップユニットとして満足できる性能は備わっている。

当初日本でセダンに乗った時と印象が異なっていたことに戸惑いも覚えたステーションワゴンだが、それはつまり、登場から間もないこのCクラスが今も進化を続けていることの表れなのだろう。いずれにせよ、先代からさらにシャシ性能の大幅な向上を果たした上にユーティリティ面も格段の進歩を遂げたエステートは、Cクラスの人気をさらに高める決定打になると見て間違いない。

2008年の春からと言われる日本導入では、セダンと同じラインアップとなるはずで、特に手頃な価格で性能面も向上したC200コンプレッサーなどは、実用派にかなり魅力的な一台となりそうだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2008年1月号より)

画像: シャシ性能も大幅に向上、乗り心地は重厚で滑らか

ヒットの法則

メルセデス・ベンツC280 ステーションワゴン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4596×1770×1459mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1600kg(EU)
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:231ps/6000rpm
●最大トルク:300Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速AT
●最高速: 240km/h
●0→100km/h加速:7.5秒
※欧州仕様

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