超高性能であることの意味とは何だろう。2007年10月に登場した日産GT-Rはそんなことを考えさせられるクルマだった。ポルシェ911ターボと同等のパフォーマンスを実現するという目標は真に達成されたのか。前回に続いて、ポルシェ911ターボとの比較試乗を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年3月号より)

GT-Rと911ターボはやはり比較される存在

GT-Rの開発責任者である水野和敏氏は、「ポルシェ911ターボはGT-Rを開発するときにベンチマークにしたが、市場では競合しない」と試乗会場で説明してくれた。

しかし日産のホームページのGT-Rのコンテンツを深く見ていくと「他メーカー比較」のコーナーがあり、「おすすめ比較」としてポルシェ911ターボ、ポルシェ ケイマンS、BMW M6の3台が並んでいる。いくら開発責任者が競合しないと豪語しても、GT-Rと911ターボは比較されているのが実情だ。ボクがそのホームページを見たとき(1月20日)には、911ターボと比較したページへのアクセスの実績が2万件を越えていたから、いかに多くの人が興味を持っているかがわかる。

911ターボは1858万円(6速MT)/1921万円(5速AT)、BMW M6が1610万円(7速AMT)、ケイマンSが786万円(6速MT)/828万円(5速AT)である。GT-R(6速DCT)はオリジナルタイプが777万円でプレミアムエディションが約835万円だから、価格としてはケイマンSに近いが、性能的には911ターボと互角である。そう考えると、GT-Rの価格は安い。

だがこの手の超高性能スポーツカーを手にしようというオーナーは、コストパフォーマンスが良いから買うわけではない。もちろん安い方が買いやすいことは確かだが、「本当に良いもの」、つまり高性能なだけでなく高品質、そしてさらにプラスアルファの部分も求めている。

GT-Rはそこまで満足できる仕上がりなのだろうか。GT-Rは、開発を立ち上げるときに決め事があったという。それは販売価格を6万ドルにするという目標だった。1ドル=110円という為替レートなら660万円にしかならない販売価格で世界の超一流のスポーツカーと渡り合う超高性能を出すために、開発者は相当苦労したに違いない。

結果的には777万円になったが、それでもこの超高性能を体験できる価格としては、異例に安いと言わざるを得ない。ここでは、3倍近い価格の違いがあることを承知で、GT-Rとポルシェ911ターボカブリオレ(2093万円/5速AT)のダイナミックな性能とそのフィーリングについて考えてみたい。

画像: GT-Rと911ターボカブリオレはボディ形態もレイアウトも異なるが、スペックでは共通点が多い。

GT-Rと911ターボカブリオレはボディ形態もレイアウトも異なるが、スペックでは共通点が多い。

数字が生まれる過程で満足感の違いも形成される

911ターボカブリオレは、GT-Rと同じく2ペダルでその高性能を発揮できる。トルクコンバータを使う911ターボに対してクラッチを使うGT-Rは、ダイレクトな感触で発進する。しかし911ターボはトルクコンバータを使うことにより発進トルクが強くなるメリットもあり、ターボとの相性も良い。両車とも速いが、感覚的にはレーシングカー(GT-R)とスポーツカー(911ターボ)ほどの違いがある。

発進した後やコーナリングの立ち上がりの加速は、両車とも「モノスゴイ!」という形容詞がぴったりだが、スポーツクロノパッケージを装備してオーバーブースト機能を持つ911ターボでは、通常より過給圧をさらに0.2バール上げることができる。そのときの加速力は、より強烈である。620Nm/1950〜5000rpmという標準状態から、680Nm/2100〜4000rpmへとアップするからだ。

GT-Rは最大トルクもトルクバンドの広さも、911ターボに負ける588Nm/3200〜5200rpm。車重も911ターボより120kg重く、911ターボカブリオレと比べても50kg重い1740kgというのが、加速時のハンディキャップになる。GT-Rは、「6万ドル」という足かせによって、軽量化を徹底できなかったようにも見える。

走っているときには、あまりにも凄い加速ができるのとボディ剛性もあるのでGT-Rが重いと感じたことはなかったが、数字のデータとして見るとその重さは否めない。

ブレーキに関してポルシェの優秀性は有名だが、今回の911ターボカブリオレ試乗でもそれを再確認した。ブレーキタッチが硬く応答遅れも感じるGT-Rに対して、パッドとローターの摩擦力をペダルから感じられる制動感はコントロールしやすく、好感が持てる。そして何より4輪でブレーキングしている感触が911のアドバンテージだ。

これは、前後の重量バランスから来るものだ。GT-Rの前後重量バランスは52:48といわれているが、911ターボは約40:60でリアが重い。これがブレーキングのときに役に立つ。ブレーキを掛けることによって前に荷重が移っていく。例えば10%前に移ったとすると、GT-Rが62:38になりフロントの負担が増えるが、911ターボは50:50で4輪がトータルで良いグリップを発揮できる条件のスイートスポットにある。これも「効いている」という、いい感触につながるのだと思う。

ワインディングロードを走ると、前後重量バランスの違いを感じられる。ターンインのとき、湿った路面だとGT-Rのリアタイヤのグリップは不足気味になる。ブレーキングによる前荷重状態からコーナリングへと移るときに、荷重が軽くなってグリップが下がるリアが滑り出そうとするのだ。またコーナー出口で加速状態に移ったとき、リアタイヤへの荷重の軽さがマイナス面となる。

加速Gによりリアタイヤの荷重が増えるが、イニシャルが48%だからビッグパワーに耐えられなくなり、前輪に駆動力を配分してしまう。電子制御4WDだからそれでもいいのだが、このときにハンドリング性能はアンダーステアが強くなる。

イニシャルで60%のリア荷重がある911ターボカブリオレは、加速のときにはさらに踏ん張り、なかなか滑り出そうとしない。狭いワインディングロードでも自分の想定する走行ライン上を走りながら、深くアクセルペダルを踏み込めるのである。もちろん電子制御マルチプレートクラッチによって前輪に駆動力が移るが、リアタイヤが負担できるトルクの容量が大きいからなかなか移っていかないように感じられる。

乗り心地や音といった快適性に関して、911ターボはカブリオレでもGT-Rに対してアドバンテージがある。一般道は意外と道が荒れているのだ、と確認させてくれるのがGT-Rだ。もっと走り込んでダンパーがしなやかに動くようになると揺すられる感じが少なくなるのかもしれないが、取材車はサスペンションのフリクションの大きさから来るのか、揺すられる感覚が強かった。

サーキットを走るレーシングカーやWRCを走るラリーカーでも、最近は乗り心地が良くなっているそうだ。なぜなら、サスペンションがしなやかに動かないといいロードグリップは得られないからだ。そして、しなやかに動いてくれれば乗り心地だって良くなるというわけだ。

音に関しては、トランスアクスル方式のためか、GT-Rはギアを入れ替えているガチャガチャした音が聞こえる。これはまるでレーシングカーだ。また排気音と吸気音をメインとしたエンジンノートをもう少し作って乗員に聴かせてほしい。せっかくの高性能なのだから、ドライバーもパッセンジャーも一緒に楽しめる音創りをやってもらいたいのだ。

911ターボカブリオレは、ソフトトップを閉めて速度を上げるとルーフの上でちょっとバタついた風切り音が聞こえるが、それ以外の雑音が少ない。スピードが低い市街地走行では、何層にもなっているソフトトップが遮音してくれる。

画像: 両車とも速いが、感覚的にはレーシングカー(GT-R)とスポーツカー(911ターボ)ほどの違いがある。

両車とも速いが、感覚的にはレーシングカー(GT-R)とスポーツカー(911ターボ)ほどの違いがある。

存在意義をどこに置くか、関連づける戦略の必要性

GT-Rは、数字として表される部分は世界最高峰まで昇りつめている。だが、官能的な部分の作り込みがまだまだ足りないと思う。もっともっと走り込んで磨き上げていかないと、ライバルたちと肩を並べることはできない。

しかしこうして熟成していったとして、GT-Rの存在はそれでよいのだろうか、とも考える。ラインアップの中の1台なのか、単独でその位置を築くことができるのか、またその意味はあるのか、ということだ。ポルシェは、911だけでもカレラ/カレラS/カレラ4/カレラ4S/タルガ4/タルガ4S/ターボ/GT3/GT3 RS/GT2と多彩なラインアップだ。さらにタルガとGT系以外にはカブリオレボディも用意されていることを考えると、そのバリエーションの多さには驚かされる。

だがGT-Rは、「単独」の存在だと見える。今回のモデルからは、スカイラインの名前を外して「日産GT-R」となった。日産の他モデルのラインアップには入らないから、GT-Rは兄弟がいない孤独な位置に身を置く。GT-Rのバリエーションとしては、よりサーキット専用仕様と予告されているスペックVがあるくらいだが、この先どのように発展していくのかが楽しみである。

また911ターボには、さらに上のパフォーマンスがある。GT2は390kW(530ps)/6500rpm、680Nm/2200〜4500rpm、最高速度329km/h、0-100km/h加速3.7秒をマーク。この数字だけでなく、中身も911ターボの延長線上で作り上げられていることが予想できる。

BMWのMモデルも、発表されたばかりの最新モデルや日本未導入モデルも含めれば、M3クーペ/M3セダン/M3カブリオレ/M5/M5ツーリング/M6/M6カブリオレ/Z4 Mクーペ/Z4 Mロードスターというバリエーションから選ぶことができる。

通常のカタログモデルでは満足できないユーザーに対して、BMWにMモデルやアルピナがあるように、日産も「日産GT-R」としてデビューさせるときに何らかのブランドを作る方が良かったのではないか。そうすることでGT-Rのバリエーションを増やすことができ、多くのユーザーを喜ばせることができる。そして、営業上のメリットもまた生まれてくるはずだ。

あくまで単独で「GT-R」がブランドになるのだろうか。もしそうだとしたら、あまりにもったいない。世界のトップモデルといいライバル関係を築くためにも、GT-Rは孤独な存在にならないでもらいたい。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2008年3月号より)

ヒットの法則

日産 GT-R 主要諸元

●全長×全幅×全高:4655×1895×1370mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ
●排気量:3799cc
●最高出力:480ps/6400rpm
●最大トルク:588Nm/3200-5200rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速DCT
●0→100km/h加速:3.6秒
●最高速度: −
●車両価格:777万円(2008年)

ポルシェ911ターボカブリオレ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4450×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:水平対向6DOHCツインターボ
●排気量:3600cc
●最高出力:480ps/6000rpm
●最大トルク:620Nm/1950-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:5速AT
●0→100km/h加速:3.8秒
●最高速度:310km/h
●車両価格:2093万円(2008年)

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