一品生産のようなベントレーの中でも特別なモデル
ベントレーには、かつてロールスロイスと兄弟車であった頃にも、専用のスペシャルな2ドアスポーツモデルがあった。古くは50年代のRタイプコンチネンタルに始まり、90年代のコンチネンタルR&Tと、それは「高級」なスポーツサルーンとは別格の存在であり、今なおコレクターズアイテムとして珍重されている。その系譜に連なるべく、アルナージT&アズールをベースに開発されたのが、新型ビッグクーペ、ブルックランズである。
市販ベントレーモデル史上最強のスペックを誇る、古式ゆかしき6.75LのV8OHVツインターボエンジンは、アルナージTと同じものだが、各所のチューニングにより537psもの最高出力を得るに至った。最大トルクも1050Nmと莫大だ。これにZF製6速ティプロニックを組み合わせて、2.7トン弱もの巨体を発進から100km/hまで5.3秒で加速せしめ、最高速度はなんと296km/hに至るという。
世界限定550台。初年度分はもちろんのこと、残りもほぼ売約済み。車両本体価格4070万円と発表された至宝のビッグクーペに、イタリアはフィレンツェ郊外、赤ワインで有名なキャンティ地方で試乗した。
厳しい冬が過ぎ、温み始めたトスカーナの乾いた空気の中、柔らかな陽光に包まれたブルックランズの肢体は、何とも妖しく艶かしい。
反り立ったフロントマスクに薄いサイドウインドウグラフィックス、長く流れるように下ったリアオーバーハングという組み合わせは、ベントレービッグクーペの作法だ。ウインドウまわりのシームレスモールディングが美しい。
サイドのキャラクターラインから下はドロップヘッドクーペのアズールのそれと酷似するが、ルーフラインが5cmも低く引かれたため、より一層ワイド&ローな雰囲気で佇む。フロントウイングの下方にはエアベントが設けられ、このクルマの高性能ぶりをさりげなくアピールする。
マトリックスグリルの威圧的なフロントマスクとは打って変わって、リアからの眺めは優美のひと言。リアウインドウが浮いて見えるほどていねいに繋がれたカッパーグレイズド・リアクォーターピラーまわりのデザインが、エクステリアのハイライトだ。