驚くべき扱いやすさ、クルマとの一体感も大きい
がっちりとした取手を握りしめ、巨大なドアを開ける。むぅっとしたレザーの香りが外へと滲み出た。その重みある空気の中へ、ほとんど泳がんばかりに浮き足立って潜り込む。スポーティなシートに尻を沈め、見える景色が少しは見慣れたものだったから、ほっと一息。アルナージ系やアズールと同じ風景が広がっている。着座位置が低いからだろう。囲まれ感はアルナージより上だ。
この空気に飲み込まれないうちに試乗スタート、といきたいところだが、ぐっと堪えて後席を調べる。完全2座の誂えで、アズールよりもシートは後ろ下方に設置された。
それゆえ頭上空間はたっぷりとあり、足を組んで座ればそんじょそこらの高級セダンの後席よりもはるかにリムジンらしくて気分がいい。
5.4mを超える巨体と贅を凝らした内装に圧倒されつつも、いよいよ試乗の時間となった。エンジンスタートボタンを押して、伝統のV8エンジンを目覚めさせる。
乗る前はあれだけ緊張していたにもかかわらず、いざ動かしてみればその扱いやすさにまずは驚いた。端的に言って、しまりのあるボディだ。これだけの巨体であるにもかかわらず、クルマそのものに一体感がある。だから、アズールやアルナージのように、いかにもクルーザーを操船しているかのように、もったいぶった印象はなく、不用意な動きが出ないから乗っていて不安にならない。
何とか自分で隅々まで制御できる感じがするのだった。デカいと言っても、所詮バスよりは小さい。大きさを過分に意識することさえなければ、ベントレーといえども乗用車なのだから、意のままに乗ることもできる。
ねじれ剛性を高めたボディと、専用セッティング&パーツを用いたシャシの恩恵で、狭いワインディング路をひらりひらりと、半ば強引に駆けぬけていく。圧倒的な中間加速能力をもってすれば、多少直線が短くとも、前を行く遅いフィアットを瞬時に抜き去ることが可能だ。
乗用車用としては世界最大級の自社製カーボンコンポジットディスク(オプション)が備わった巨大なブレーキシステムも、フルスロットルへの誘惑を加速する。なぜなら初期のタッチフィールは、ベントレーにあるまじきリニアさで、制動能力も抜群。即座に速度を落とすことができるから飛ばしたくなる。それが人間の性というものだ。4000万円のクルマに乗っていることも忘れて。(文:西川淳/Motor Magazine 2008年5月号より)
ベントレー ブルックランズ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5411×2078(※1)×1473mm
●ホイールベース:3116mm
●車両重量:2655kg
●エンジン:V8OHVツインターボ
●排気量:6761cc
●最高出力:537ps/4000rpm
●最大トルク:1050Nm/3250rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●最高速:296km/h
●0→100km/h加速:5.3秒
※欧州仕様
※1:ミラー間