アイコニックなかつてのジャガースタイルは見当らない
猛省中である。私が初めて、ジャガーが自らの呪縛を払いのけ、新たなるチャレンジを試みたコンセプトカー「C-XF」の写真を見たときのこと。一瞥にて我が脳の扁桃体は、「このカタチは嫌い」という信号を発してしまい、その後、前頭前野がいくら懸命に、徹してロジカルに理解しようと努めても、頑としてXFをジャガーと認めようとはしなかった。
生産デザインが発表され、その全貌が明らかになってなお、私にはある種の拒否反応があったのだ。
少しでもニュートラルな目で現物を見ることができていたなら、もっと違う評価があったろうにと今さら思うが、実際には二次元の写真をただ眺めるだけだったので、一度脳が下した判断がそう易々と覆るはずもない(ちなみに、XFの顔立ちは、写真で見るよりもずっと彫刻的だ。写真では表現しきれない。ぜひ、実車で確認して欲しい)。
「クルマはカタチが命」。それは愛車を選ぶユーザーにとっての真理ではあるけれど、私が単なる潜在顧客のような判断をしてしまっては、元も子もあるまい。それにクルマの世界では、「とてもよくできたクルマは、だんだんと格好よく見えてくるもの」という逆のことも、またよくある話なのだ。
というわけで、私は目下、猛省中なのだった。2月にモナコで開催された国際試乗会、そして日本仕様の箱根試乗会、さらには今回のじっくりロングドライブ取材と、XFの試乗を重ねるごとに、痛恨の念は深まるばかりだ。
改めて言おう。XFは、まったくもって素晴らしい「ジャガー」であり、それ以外の何者でもない、と。そして、「何を今さら」ながら恥を忍んで言えば、今、私の目の前にあるXFは、ジャガーらしさに溢れている。遅きに失したかもしれないが、果たして、今はそう見える。
あえて自己弁護をするなら、それは決して古式ゆかしきジャガーのイメージではない。60年代以降の、アイコニックなジャガースタイルは微塵もない。だからこそ、多くのクルマ好きは新しいXFを見て、「らしくない」と一度は突き放したはずだ。
ここは、「新しいジャガー」の姿を発見したのだと言っておきたい。まさに今、ジャガーはブランドとして大いなる分岐点を通過したばかりというべきだが、新しい方向に進みはじめて即、すこぶるつきの結果をまずは商品で世に送り出すことに成功した。どうやらそれは、ブランドの質的転換を狙ったものだとも言えそうだ。
そんな洞察へ導かれるほどに、このクルマの走りは私に強烈なインパクトを残してくれたのだった。
今回、あらためて試乗に供されたのは、スーパーチャージドV8のSV8と、V8自然吸気の4.2プレミアムラグジュアリー、V6自然吸気の3.0ラグジュアリー、そしてスポーツクーペのXKだ。
XFシリーズについて簡単に復習しておこう。Sタイプの後継モデルとして昨年末にデビュー。エンジンや車体構造など、基本的にはSタイプを踏襲するが、シャシデザインはXKシリーズと同じもの。つまりは、サルーンだけどスポーツカーのアシを持つ。デザイン的に見ても、前後ピラーをXKと同じ角度にするなど、スポーツサルーンであることをことさらにアピールしている。
日本仕様は、先に記した3グレードに加えて、3L V6のプレミアムラグジュアリーという計4グレードが用意された。
一気にモダンになったのは外装だけではない。インテリアもそうだ。飛び出る円筒型のオートマチックセレクター(ジャガードライブセレクター)やスタートボタンの鼓動明滅、タッチセンサーオープナーなど各種の演出が散りばめられ、もはや古めかしい、ウッドとレザーだけのジャガーネスなど見当たらない。そこにあるのは、今、もっとも新しい雰囲気のコクピットである。