CATSが生む新たなジャガーのネコ足
改めて3つのXFとXKクーペを乗り比べてみて、もっとも感動的な走りをみせてくれたのは、XFの最上級グレードのSV8だった。
欧州車の評価において、小さいタイヤを履く廉価グレードを褒める傾向が強いが、XFに限っていえば、3L V6モデルのレベルの高さを承知しつつも、SV8の乗り味にはかなわないと断言する。
20インチという、およそミッドサイズのラグジュアリーサルーンらしからぬ大径タイヤも、それが電子制御アダプティブダンピングシステム(CATS)を導入した結果だと思えば納得がいくだろう。
とにかく、中速域から高速域まで、まるでレールを掴んで走っているかのような安定感で、その上ちゃんと心地いいクッションも確保しているから、気分は爽快だ。
多少、路面状況がバンピーな高速コーナーであっても、まったく恐怖心なくクリアできる。上屋こそきっちり揺れてくれるが、アシが路面をまるで離そうとしない。
結果的に、その時々の姿勢をドライバーが納得して受け止めることができ、ただクルマを信じて走り抜ければいいという安心感が芽生えてくる。路面に刷毛で塗料を塗るかのような粘り腰ある安心感は絶大で、高速域における操安性が自慢のドイツ車ともまたひと味違うテイストだ。
ワインディングで試すと、もうひとつ、このクルマに備わる魅力に気付く。それは、ボディサイズの適当さだ。足まわりのクオリティが突出しているため、サイズがドライバーの手のうちにあって、さらに姿勢を掴むのが容易い。結果、不安が薄まり、操りやすくなる。
もちろん、前脚の食いつきの良さ、後脚のねばりの強さの両方をもって、ジャガーの「ネコ足」が成立している。足まわりの贅沢さはクラス随一であり、高速道路においては洗練の走りを、峠道ではXKに負けないスポーツ性を、発揮してくれるのだ。
電子制御を駆使し、明らかにジャガーであると思わせる、凄みのあるハンドリングを実現した。これもひとつの伝統と革新の融合であろう。SV8の走りは、間違いなく同じCATSを履くXKシリーズの延長線上にあると、今回同時に試乗してみて確信するに至った。
もちろん、XKの方が明らかに軽く、スポーツカーらしい乗り味だ。コーナーを駆けぬける気持ち良さはXFのざっと3割増しといったところだろうか。
かっちりとしたボディ、しなやかによく動くアシ、腰で回るハンドリング感覚など、攻めの走りのシーンにおいては、すべてにおいてXFを少しずつ上回っているのも確かだ。
ただし、XFには懐の深さと言おうか、パフォーマンスを発揮しつつも全体を柔らかく包み込むという度量の大きさが備わっている。それが、スポーツカーではない、ラグジュアリーサルーンとしての役目だと言わんばかりだ。
それにしても、改めてXFとXKを並べてみれば、60年代のマーク2&タイプEの名車セットを思い出してしまうのは、美化し過ぎであろうか。XFと並んでXKはより一層、ダイナミックかつ艶やかな肢体をさらけだし、XKと並んでXFはスポーツサルーンとしての妥協ないパッケージングの妙を見せつける。
そういえば、普段乗りのライドフィールに優れるうえ、極めてスポーツカーライクにも振る舞えるSV8から降り立ったとき、63年に初代ETCチャンピオンになったジャガーマーク2を思い出したものだ。