常用域で実感する力強さ、そしてスムーズな乗り味
クアトロポルテSの試乗は、音楽の都として有名なオーストリアのザルツブルク、そこの「ザッハホテル」からスタートした。
まずは助手席に座るが、ザルツブルク市内の石畳やそれなりに荒れた路面の一般道を走り出して感じたのは、その重厚感ある乗り心地の良さである。いなしが効いた、ドッシリした快適さだ。
アウトバーンに入り速度域が上がると、その印象はさらに強まった。これは、イタリアンサルーンとしては望外の(といったら失礼だろうが)スムーズさではないだろうか。
しばらく走った後に一般道へ降りて、今度は運転席へと乗り換える。メーターパネルのデザインが、グラントゥーリズモに準じたものに変わっている。数字のフォントが細く斜めになったイタリック調のものとなり、数字間の刻み表示もそれまでの白帯の中に線が刻まれるタイプから、刻みだけが記されたシンプルなデザインになった。センターコンソール部のデザインも新しく、オーディオやナビゲーションなどのシステムが一体となった「ボーズ マルチメディア システム」も装備される。ちなみにこのナビゲーションシステムはとても使いやすく、案内も自然で、大いに重宝させてもらった。
4.7Lエンジンの意味は、走り出すと即座に理解できた。低回転から力強く、2000〜4000rpmという常用域でそれまでの4.2Lエンジンとはひと味異なる瞬間的な力強さを実感することができる。
ZF社製の6速ATは相変わらずスムーズで、このところ注目が集まるデュアルクラッチ式ミッションでは、やはりこの滑らかさは味わえないものだろう。パドルシフト操作への反応も素早いので、不満は覚えない。
アウトバーンに入り、アクセルペダルを踏み込む。分厚い加速感とともに、きれいに7000rpmまで回っていくが、そこには4.2Lエンジンが備える、まるで瞬時に回り切ろうとするかのような吹け上がり感はない。エンジン音もどちらかというと低域を強調した太いものだ。
デュオセレクトと組み合わされたドライサンプ式の4.2L V8エンジンが奏でた、あのフェラーリサウンドを彷彿とさせるかのようなクアトロポルテの官能的な響きが楽しめないのは少し残念だが、このセグメントのモデルを求めるほとんどのユーザーにとっては、新しいクアトロポルテSがもたらしてくれる快適な運転性能を好むことは間違いない。
走行状況に応じてダンパーのセッティングを電子制御で可変させる「スカイフックシステム」を備えたサスペンションの完成度も、さらに高まった印象だ。ゆるやかなワインディングや一般道、アウトバーンという状況下で、たとえスポーツモードを選んでも、アッパーサルーンにふさわしい快適さが保たれていた。
前後重量配分が49:51ということによるフットワークの俊敏さも健在で、フロントアクスルの後方にエンジンが位置するレイアウトならではの身のこなしの軽さは大きな魅力だ。その反面、アウトバーンでの高速巡航時にはフロントの接地感がやや軽く思えたのも事実だが、それはやむを得ない部分だろう。
新しいクアトロポルテは、2ドアクーペのグラントゥーリズモ/グラントゥーリズモSが登場したことで、より本質的な魅力が増した。マセラティのスポーツモデルとして求められる性能はグラントゥーリズモに委ね、その分クアトロポルテはサルーンとしての性能をより強く追求することができたのだと感じられた。
クアトロポルテSは、ドイツ車の独壇場ともいえる高級サルーン市場で、ライバルと十分に渡り合える魅力と快適性を備えたといえる。(文:香高和仁/Motor Magazine 2008年9月号より)
マセラティ クアトロポルテS 主要諸元
●全長×全幅×全高:5097×1885×1431mm
●ホイールベース:3064mm
●車両重量:1990kg(EU)
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4691cc
●最高出力:430ps/7000rpm
●最大トルク:490Nm/4750rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●最高速:280km/h
●0→100km/h加速:5.4秒
※欧州仕様