トヨタ GRヤリスとホンダ シビック タイプR・・・この2台、その本性をあらわにするためにはもはや、それ相応のラリー orサーキットシーンで攻めるしかない。だが一方で、ストリートシーンで走らせても、それぞれが描く「愉しさ」の理想像が見えてくるようにも思える。今、もっとも研ぎ澄まされた国産スポーツの雄たちと暮らす「日常」はきっとスパイシーでしかも、どこまでも味わい深い。(Motor Magazine2021年4月号より)

ハイパワーFFならではの「限界」を探る愉しさを実感

ワインディングロードでの振る舞いの印象はちょっと意外なものになった。まずシビック タイプRは設計や味付けうんぬん以前の、FFで320psを吸収するという商品企画自体が物理的に相当難しいハードルに挑戦しているわけで、それをなだめすかしながら走らせることに悦びが感じられる仕立てだ。

さりとて、踏めばあっさりトラクションを失ってどアンダー・・・的なものではない。どころか、タイヤのグリップ力や変更されたサスペンション設定、ヘリカルLSDそしてアジャイルハンドリングアシストなどの複合効果でもたらされるハンドリングは、ひとまわり以上は小さいGRヤリスにも増してシャープで、スロットルワーク如何で飄々とインを捉えにいく。

絶品フィールのシフトをコキコキと扱いながらこの範疇を巧く使いこなしていくと、その速さは相当なレベルに達している。が、最後はオーバーシュートのポイントを探りながらアペックスでも踏み抜くには至れない。ここから先はサーキットでどうぞという線引きがどうしても見えてくる。

寸止めというか生煮えというか、そんな「読後感」がなんとも惜しい。弾けきれない理由のひとつは、GT-Rにも迫る車格にあるのだろうが、この全幅があってこその規格外の運動性能であることもよくわかる。

画像: 低慣性モノスクロールターボチャージャー、排気側VTEC、吸排気VTCなどによって強トルクと優れたレスポンスを実現している。(シビック タイプR)

低慣性モノスクロールターボチャージャー、排気側VTEC、吸排気VTCなどによって強トルクと優れたレスポンスを実現している。(シビック タイプR)

公道でも満喫できる洗練されたハイパフォーマンス

GRヤリスはある意味、シビック タイプRのキャラクターとは真逆と言っていい。全幅はそこそこながら4mを切る全長のおかげで車格は日本の峠道でも収まりが良く、4WDにして1.3トンを切る車重のおかげでタイトターンでも必要以上に重さを感じることはない。一方で、クルマの動きは意外なほど腰が据わっていて、乗り手の曲げるという意志以上に先まわりすることもないようだ。

走りに介入するデバイスは駆動制御のみで、それもドライバーが任意で選択する仕組みとなっている。スポーツとトラックの運動性能の違いは明らかだが、峠道のようなところでははっきりとスポーツの方が楽しく、しかもコントローラブルだ。272psは十分実効的で持て余すものではなく、後輪で巧く頭を向けながらも前輪でしっかりと道先に導いて、車線に綺麗に収まりつつニュートラルに曲がっていくサマはなんとも気持ちがいい。

本来ならその痛快さに高揚しそうなものだが、GRヤリスのドライビングでは、常に傍らにその速さや挙動を冷静に見つめる自分がいる。クルマ自体の解像度が高くフィードバックも濃密で、自分の運転所作によってどのように動きの質が変わるのかという分析がドライブの目的へと転化されていく、その感覚が楽しめるか否かがこのクルマを持つ意味につながるのだ。

ともすれば日常も託することができるこの両車だか、その速さのレベルやクオリティは今までの水準では測れない境地に達している。あえて傾向の違いを定めるとするならば、シビック タイプRは走りを「極め」たい向きに、GRヤリスは走りを「究め」たい向きに、うまくハマりそうなモデルといえそうだ。(文:渡辺敏史/写真:小平 寛)

画像: 高強度アルミ製シリンダーヘッド、中空組立カムシャフト、セラミックボールベアリングを軸受け部に採用したターボなど、盛りだくさん。(GRヤリス)

高強度アルミ製シリンダーヘッド、中空組立カムシャフト、セラミックボールベアリングを軸受け部に採用したターボなど、盛りだくさん。(GRヤリス)

トヨタ GRヤリス RZハイパフォーマンス 主要諸元

●全長×全幅×全高:3995×1805×1455mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1280kg
●エンジン:直3 DOHCターボ
●総排気量:1618cc
●最高出力:200kW(272ps)/6500rpm
●最大トルク:370Nm/3000-4600rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:13.6km/L
●タイヤサイズ:225/40R18
●車両価格(税込):456万円

ホンダ シビック タイプR 主要諸元

●全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:235kW(320ps)/6500rpm
●最大トルク:400Nm/2500-4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・46L
●WLTCモード燃費:13.0km/L
●タイヤサイズ:245/30R20
●車両価格(税込):475万2000円

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