2008年、フェイスリフトされたランボルギーニ ガヤルドが日本に上陸した。後期型のトピックはV10エンジンの排気量が5.2Lとなり、「LP560-4」というサブネームが付けられたこと。あわせて、サスペンションやトランスミッションも熟成され、快適性が大幅に向上していた。ここではMotor Magazine誌が独自に行った試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年12月号より)
非日常的でありながら「手頃で快適」なスーパーカー
パリサロン(2008年)でランボルギーニが発表した初の4ドアモデル「エストーケ」は、まだコンセプトモデルとされるが、かなり完成度の高い仕上がりに見えた。ただ、エンジンをフロントミッドに搭載する関係からか、はたまた4ドアという実用性も考慮しなければならないパッケージのせいか、同社のミッドシップモデルに共通する手が切れそうなほどのシャープさ、ある種のトンデモなさからは、それなりに距離を置いたようにも見える。
ランボルギーニは時代の波に翻弄されてきたメーカーで、1970年代初頭に創設者のフェルッチオ・ランボルギーニの元からオーナーシップが離れてから幾度となく経営者が変わった。一時は倒産、イタリア政府管理下にあったこともある。その後もクライスラー傘下に入るなど、多くの変遷を経験してきているのだ。
1999年にアウディの傘下に入ってからは、モデル数も増えているし、数々のバリエーションも登場するなど、経営基盤がしっかりしてきたことを感じさせるが、ここに及ぶ激動の歴史の中で、常に存在し続けたのは唯一、V12エンジンをミッドシップに搭載するトップモデルのみ。つまりミウラ、カウンタック、ディアブロ、そして現在のムルシエラゴと続くスーパースポーツラインだけが、ランボルギーニのオリジンとして、途切れずに命脈を継いできたのだ。
その伝で言えば、今回紹介するガヤルドは新参者とも言える。ミウラでV12をミッド搭載するというスーパーカーの定石を作り出したランボルギーニが、もう少し手頃なミッドモデルを作る動きはこれまでにもあった。1970年代のウラッコ、1980年代のジャルパがそれだ。しかしその変遷は途切れがちで、1990年代から2003年にガヤルドが登場するまで、いわゆる「ベビーランボ」の存在は空席のままだったのである。
そんなわけだから、ガヤルドが登場した時は鮮烈なものだった。V12に対する「手頃さ」が、V8ではなく新たにV10とされた点も衝撃的だったし、直線的なラインで構成されたスタイリングは、カウンタックを、そしてマルチェロ・ガンディーニを彷彿させるものだった。
スーパーカーの魅力のひとつが非日常性にあるとするなら、ムルシエラゴ、そしてガヤルドに引き継がれた手の切れそうな鋭さは、まさにその象徴と言えそうだ。
直噴化されたV10エンジンと一新されたe-ギア
ところで、今回紹介するLP560-4は、この春のジュネーブオートサロンで発表されたガヤルドの最新進化バージョンだ。これまでのエンジンは、今もスパイダーに搭載される4961ccの382kW(520ps)仕様だったが、その排気量を5204ccまでアップし直噴システムを導入することで、圧縮比を12.5まで引き上げ412kW(560ps)を実現している。
これは、先に登場したライトウェイトバージョンであるスーパーレジェーラの530psをも軽く凌ぐスペック。標準ボディから100kgのシェイプアップを果たしたスーパーレジェーラは、おそらく卓越した運動性能を見せるはずだが、エンジンのパワースペックがこれを大きく上回ることとなった新しいガヤルドLP560-4は、0→100km/h加速が3.7秒と、すでにスーパーレジェーラをコンマ1秒凌ぐパフォーマンスを身につけている。
そのパワーの一部を高速道路で解き放ってみる。2速、そして3速で早くも公道上の速度リミットを迎えてしまうこのクルマの性能を正確に伝えるのは大変だが、パワーフィールは低速からドンとトルクが出るタイプではなく、ピークパワーを発生する8000rpmに向けてリニアに盛り上がってくる感じだ。もちろんレスポンスは非常に鋭く、ピークを迎えるのはあっと言う間だが、エンジン音がビーンからクォーンへ直線的に盛り上がってくる感覚は何とも気持ちがいい。
エンジンサウンドは以前乗った510psバージョンに較べると幾分トーンが軽くなった印象。直噴化に伴い補器類の雑音が増えてはしないかと心配したが、ミッドに置かれたV10はエキゾースト音だけを際立たせた、極めて抜けの良いサウンドを聞かせてくれた。
トランスミッションは6速MTとe-ギアと呼ばれる2ペダルのシーケンシャルシフトを用意している。オーナーが選ぶのは後者が圧倒的に多数で、試乗車もその仕様だった。
e-ギアはシングル式のクラッチ操作を機械に任せるロボタイズドミッションだが、そのシステムも一新されている。自動でシフトアップ/ダウンを行うオートモードの制御が改良された他、シフトに要するスピードも向上し、新たにコルサモードとローンチコントールモード「thrust」も設定されている。また、システム自体で大幅な軽量化に成功したとも報告されている。
エンジンをかけた後に、アイドリング状態でパドルをワンクリックすると1速に入る。そのままアクセルを踏みこむとオートマモードだ。さらに、センターコンソールにはスポーツ/オート/コルサの3つのボタンが並んでおり、これによりシフトモードとESPの設定が変わる。
スポーツモードはシフトレスポンスがさらに向上し、オートマモードと併用した際はシフトポイントも高めとなる。一方、最もハードな走りに対応するのがマニュアル操作のみとなるコルサモードで、この状態ではレスポンスは40%アップとなり、ESPも介入の遅いスポーツを基本にオフ状態にも持っていける。ただ、シフトショックも相応に大きくなるので、使用するのはワインディングのここ一発か、サーキット走行に限られる感じだ。
今回はスポーツモードを中心にパドルシフトで走らせていたが、このモードでもシフトレスポンスは極めて鋭く、ショックも巧みに抑えられておりスムーズで軽快だった。右パドルでダウンシフトを行う際のブリッピングも正確で、ついついシフト回数が多くなってしまう。
ガヤルドはフロントに3割、リアに7割の駆動力配分を基本に、状況に応じて変化させるビスカストラクションというフルタイム4駆機構を採用している。ランボルギーニの4駆化はディアブロから始まっているが、アウディ傘下に入ってからはスタンダードとなった。
通常はピシッとした直進安定性にその効果を感じる程度で、4駆であることはあまり意識させないが、今回は試乗中に豪雨に見舞われ、そのトラクションに心底感謝する場面もあった。かなりの水深がある水溜まりが不意に現れてもLP560-4は滅多なことでは姿勢を乱さず、抜群の高速安定性を見せたのだ。
乱暴さは影を潜めたがそれ以上の魅力を手に入れた
見た目はとんでもなく派手で、実際の性能も非常にハイスペックなのに、この扱い易さ。現代のランボルギーニ、とくにベビーであるがゆえの手頃さが特徴となっているガヤルドの魅力はここに集約されている。
ガヤルドが唯一不得意とするのは、都市部の狭い場所での取り回しだろう。そのデザイン面での制約から、直下と後方視界が良いとは言えないので神経を使う。ただ、この点にも改良の手は入っており、日本仕様にはフロントリフティングシステムが標準装備されている。
これは、コンソール上のスイッチを押すとフロントサスペンションが伸び、グランドクリアランスを数cm拡張してくれるもの。LP560-4はフロントのエアインテークが大きくなり、ちょっとしたスロープでもアゴを擦る危険性があるので極めて心強かった。
非日常性の中に鮮やかに同居する濃密な快適性。これもまた、最新のランボルギーニが持つ大きな特徴に違いない。(文:石川芳雄 /写真:小平 寛)
ランボルギーニ ガヤルドLP560-4(e-gear) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4345×1900×1165mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:V10 DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:412kW(560ps)/8000rpm
●最大トルク:540Nm/6500rpm
●トランスミッション:6速AMT(e-gear)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・90L
●10・15モード燃費:-km/L
●タイヤサイズ:前235/35ZR19、後295/30ZR19
●0→100km/h加速:3.7秒
●最高速:325km/h
●車両価格(税込):2533万1250円(2008年当時)