マツダの現行ロードスターに、クラシックレッドが限定車として再登場したのは2017年のこと。じつはこの期間限定モデル、世に出るまでは茨の道だったという。

日本に167台しかない「クラシックレッド」のNDロードスター

2017年1月13日から同年2月28日まで、期間限定で販売された現行ロードスターの特別仕様車「クラシックレッド」を覚えているだろうか。このボディカラー、クラシックレッドは往年の名車「初代ロードスター」で採用されていた鮮やかなソリッドのレッドだ。

初代ロードスターが初公開されたのは、1989年のシカゴオートショー。そこでメインカラーとして登場したのが「クラシックレッド」だった。当時、真っ赤なオープンスポーツカーが与えたインパクトはとても大きかった。

それは現行ロードスターが登場してからも同じで、ロードスターのイメージカラーでもあるレッドは、なくてはならないカラーなのだ。当然、現行モデルにも「ソウルレッドクリスタルメタリック」という美しいメタリックのレッドカラーが設定されている。

それにもかかわらず「クラシックレッド」を望む声は多く聞かれた。その期待に応えるべく期間限定モデル「クラシックレッド」として復活した。しかし、その道のりは、一筋縄ではいかなかったそうだ。その興味深い話をこの限定モデルに関わったマツダの3人のキーマンに聞いた。

画像: 左から、商品本部 プロジェクトマネージャー 山口宗則さん、デザイン本部 副本部長兼チーフデザイナー 中山 雅さん、技術本部 車両技術部 塗装技術グループ マネージャー 寺本浩司さん

左から、商品本部 プロジェクトマネージャー 山口宗則さん、デザイン本部 副本部長兼チーフデザイナー 中山 雅さん、技術本部 車両技術部 塗装技術グループ マネージャー 寺本浩司さん

●商品本部 プロジェクトマネージャー 山口宗則さん
「限定車を作ると言ってもですね、これがタイヘンなんですよ(苦笑)。当時、ヘリテージカラーのモデルを出すことは決まっていました。これを出さないと30周年の限定モデルにつながらないので・・・」

「ロードスターの新色というと、必ずといっていいほど「黄色を出せっ!」と言われますが、ここは赤でいきました(笑)。ただ、新色を追加する場合は、塗装工場の配管に空きがないとダメなんです。結局、その空きが出るのが2017年3~5月ということがわかり、限定モデルの「クラシックレッド」もその期間のうち2017年1月13日から同年2月28日までの限定受付にしたんです」

発売のゴーサインが出て、次は世界のマーケットに売り込みをかける。当然プロモーションビデオを提げてプレゼンテーションに挑んだが、各国の反応は予想外に冷ややかだった。

●山口さん
「日本市場とは違って、海外マーケットのディーラーは車両を買い取るかたちで仕入れ、販売するんです。ですから、担当者の個人的な主観が大きく影響します。なので、その人が売れないと判断すれば仕入れません。結局世界の反応は「赤ばっかりいらないよ」でした。またクラシックレッドのようなソリッドカラーは、国によってはチープな色になるんです。ここから我々の七転八倒が始まるわけですよ(笑)」

新色をラインナップに加えるのは容易ではない。開発には時間もお金もかかるのだ。さらに再現するのは30年前の赤いボディカラー「クラシックレッド」だからだ。

●技術本部 車両技術部 塗装技術グループ マネージャー 寺本浩司さん
「クラシックレッドの企画がスタートしてから、発売直前まで常にバタバタしてました。プロジェクトの期間としてはなかり短い1年でしたので」

「実際にクラシックレッドを見たいので、車両を用意してもらいました。日光の下で紫外線の影響が少ないトランクやボンネットの裏や塗装の奥底の色までじっくりと確認することがスタート地点でした」

●デザイン本部 副本部長兼チーフデザイナー 中山 雅さん
「当時は外装も裏側も同じ色で塗装してあったんです。今は別ですけど」

今の塗装技術でクラシックレッドを再現させる。それも短期間で。期間限定で塗装することになるが、ユーザーの強い思いにしっかり応えようとスタッフは一丸となって取り組んだ。

●寺本さん
「デジタル技術が進み、塗装後の結果が予測できるようになったので、昔みたいに小さいものから塗って、といった作業はしません。それでも「あっ!」ってなるときもあるんですが(笑)」

「赤は透けやすく、下地の厚み精度が要求されます。下地の作り方で深みが変わります。下地の厚みは1~2ミクロンの世界ですから。あとは耐候性にこだわって作りました」

「マツダに入社してから、ブリリアントブラックのNAロードスターを買ったんですが、毎週のように磨いていたのを思い出しました」

画像: 歴代ロードスターの赤塗装プレート。ひときわ明るいのがNCのトゥルーレッドだ。朱色っぽく見える。

歴代ロードスターの赤塗装プレート。ひときわ明るいのがNCのトゥルーレッドだ。朱色っぽく見える。

海外からのオーダーが少ないことからマツダの上層部は「クラシックレッドの企画はなくてもいいのではないか」といった意見も囁かれるようになった。

●山口さん
「東奔西走して発売が決まっても、難題が待ってました。ロードスターの全グレードに用意したのですが、RSに標準装備されるレカロシートのクラシックレッド用が間に合わないことが判明したのです。レカロのオーダーが先まで入っていて、クラシックレッド用を中抜きして対応することすらできなかったんです。そのため、レカロシートを空輸して取り付けたりしましたね」

●中山さん
「ロードスターは、ほかの車種と違って作り手の思いが通じないところがあります。作り手としてはグレードやカラーを増やさない方がいいわけですよ。でも乗る側は「自分のために作ってくれている逸品」という価値観がある。これを理解していないと、ロードスターの開発はできません。その価値観を直にぶつけてきたユーザーがいたんです」

●山口さん
「2016年の東北ミーティングに行ったとき、とある参加者の方に『赤ってわかってます? ソウルレッドは赤ではありません。クラシックレッドが本当の赤です』と。面と向かってNDロードスターのソウルレッドクリスタルメタリックを否定されてしまいました(笑)。そのときにはすでに期間限定車のクラシックレッドの発売が決まっていたので、もし発売されたら買いますかと聞いてみたんです。そうしたら『買うに決まってます』と即答されました」

「それから2年後の東北ミーティングに行ったら、クラシックレッドの限定車が駐車場にあるわけですよ。やっぱりイイ色だな~と見惚れていたら、オーナーが戻ってきて、あーっ!まさにそのユーザーさんでした」

●中山さん
「じつは赤を赤色と認識できる幅が狭いのです。青の場合、紫や黒に近い色でも『青っぽい色』なんです。でも赤の場合、黄色に近づくとオレンジになるし、黒が入ってくるとエンジになる。カラーデザイナーにとって、クラシックレッドに勝つのは生涯のチャレンジらしいですよ」

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