昭和も終わりに近づいてくると排出ガス対策のためにキャブレターからインジェクションに替わっていった。ソレックス、ウエーバーなど多くのクルマ好きを魅了したキャブレターが一掃されるほどインジェクションが普及したのか、その理由と構造について解説していこう。

排出ガス規制のために誕生した電子制御インジェクション

インジェクション(燃料噴射装置)は、ざっくりと言えばエアフローメーターで吸入吸気量を検知してガソリンを噴射するシステムだ。キャブレターが吸入空気の負圧でガソリンを引っ張り出すのに比べるとかなり直接的なシステムなのが特徴だ。

画像: キャブと馴染んできた日産のL20型エンジンも排ガス対策のためにEGI,と呼ばれた電子制御インジェクションに換装されL20E型となった。

キャブと馴染んできた日産のL20型エンジンも排ガス対策のためにEGI,と呼ばれた電子制御インジェクションに換装されL20E型となった。

ちなみにキャブレターの時代にも機械式インジェクションと呼ばれるアナログ制御のものがあった。自動車レースなどで強い横Gがかかると、キャブレターは油面の傾きでガソリンが流れなることなどがあり、不都合が発生することがあった。しかし、インジェクションはインジェクターから直接ガソリンを噴射するので、それを心配する必要がなくなった。その頃、外国の乗用車にも機械式インジェクションが採用された例はあったが、日本では一足飛びに電子制御インジェクションが普及していた。

インジェクターの概念図

画像: エアフローメーターで吸気を計測し、その他のセンサーの情報を踏まえ、インジェクターからガソリンを噴射する(「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識/飯嶋洋治著・日刊工業新聞社」より転載。

エアフローメーターで吸気を計測し、その他のセンサーの情報を踏まえ、インジェクターからガソリンを噴射する(「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識/飯嶋洋治著・日刊工業新聞社」より転載。

日本で電子式インジェクションが普及していったのは、走行性能向上のためというよりも、厳しくなる排ガス規制に対応するためだ。ホンダのCVCCなどエンジン側の構造で排ガスの処理に先んじていた日本だが、最終的には三元触媒という排ガスの後処理でHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素炭化物)を化学反応で酸化、還元するという方法にたどり着く。逆にそうしないと世界一厳しいと言われた日本の排ガス規制に対処できなかったのだ。

機械式インジェクションと電子制御式インジェクションの概念図。

画像: 「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識/飯嶋洋治著・日刊工業新聞社」より転載。

「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識/飯嶋洋治著・日刊工業新聞社」より転載。

そこで問題になったのが、三元触媒は理論空燃比(14.7:1)の状態でないと上手く働かないということ。つまりキャブレターのアナログ的な制御では、せっかく搭載した三元触媒の意味がなくなってしまうのだ。当時の電子制御はまだ発展途上だったが、ECU(エレクトロニック コントロール ユニット)を使うことで、エアフローメーター、吸気温度センサー、スロットル開度センサー、燃料中の酸素そのものを計測するO2センサーなどの情報をもとに、適切な空燃比を保つことができた。

画像: 1983年に登場したシティターボに搭載されたER型エンジン。強力なターボによる過給に合わせてPGM-FIという電子式インジェクションが装着された。

1983年に登場したシティターボに搭載されたER型エンジン。強力なターボによる過給に合わせてPGM-FIという電子式インジェクションが装着された。

当初の電子式インジェクションは、排出ガス規制をクリアできてもキャブよりも走行性能が劣ると言われていた。しかし、後に電子制御が進化するとともに緻密な制御が可能になり、動力性能の高性能化、低燃費化に大きな力を発揮するようになる。また、吸気量を大幅に増やすターボの普及にも、燃料をデジタル制御して空燃比を保つことができる電子制御インジェクションが不可欠となった。

インジェクション

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