ハイブリッドカーの市場は次の局面へ
ホンダのインサイトが順調に売れている。2009年2月の新車販売ランキングを見ると4906台で10位に入っている。ベスト10に入ったことだけでも見事と言えるが、3月の上旬時点で受注はこの3倍以上あるそうで、納車が追いつかないというのが実情。増産体制が整ってくればランキングを上げてくることは間違いない。
現行プリウスもモデル末期にもかかわらず好調を維持している。1月は5730台で5位、2月も12位と順位こそ落としたが4524台と、依然人気は高い。ここで紹介する新型の登場が間近に迫っていることは周知の事実なのだが、販売に衰えは感じられない。
全般的に新車販売が落ち込む中で、ハイブリッドカーは、まさに「希望の星」といえる存在になっている。しかし、そのことが鮮明になって来るとともに、今後、販売最前線で波乱が起きるのではないかと予想されている。
経済紙などで報道されているが、その波乱の要因は「新型プリウスの価格が当初考えられていたレベルより大幅に低く設定されるのではないか」ということ。そして、「現行プリウスの継続販売」ということだ。どちらについても、トヨタは何ら発表はしておらず、すべては憶測記事なのだが、5月中旬の正式発表は注目される。
ホンダはインサイトで「クリーンヒット」を飛ばした。比較的シンプルな構造のハイブリッドシステムを採用することなどでコストを抑え、ユーザーの手が届きやすい価格にしたことが市場で評価された。一方、トヨタは新型プリウスでシステムをさらに進化させ、ハイブリッドカーというもののレベルを一段上げようとしている。
同じハイブリッドカーとはいえ、そこには色々なアプローチがありメーカーの考え方が現れる。当然、価格設定なども違ってくるわけだ。いたずらに価格競争することは、ハイブリッドカー全体の将来的な発展性のことを考えると、決してよいことではないように思う。ユーザーはいろいろなタイプの中から自分の考え方に合ったものを選べばいいのだ。そもそもハイブリッドカーを買おうと思う人たちは、クルマに対する見識を持っている。メーカーはそうした人たちに自らの考え方を積極的にアピールした方がいい。
1.8Lへの排気量拡大と空力性能向上が主な改良点
では、新型プリウスの内容を順番に見ていこう。まずハイブリッドシステムだが、エンジンが従来型の1.5L(77ps)から1.8L(99ps)へ拡大された。この狙いは高速走行時のエンジン回転数低下による燃費の向上にあるという。
またバッテリーはニッケル水素であることに変わりはないが、25kWから27kWへ出力向上させた上で小型化した。さらに駆動用モーターは50kWから60kWへパワーアップし、新たにモーターのトルクを増幅することで大きな駆動力を得られるリダクションギアが装着された。システム全体の90%以上が新開発で7%ほどの燃費性能向上と、2.4L車並みの動力性能を得たという。
ハイブリッドシステムの進化とともに、プラットフォームも一新された。これによりフラットな乗り心地と高速での優れた直進安定性向上を目指した。エンジンの排気量アップで高速走行時の燃費向上を狙ったことと合わせて考えると、進化の方向性が見えてくる。それは高速道路を使った移動が多い欧州で、より競争力を高めるということだ。
さらに先進装備として挙げられるのは、ソーラーパネルで発電した電力で車内の換気を行う「ソーラーベンチレーションシステム」、車外からエアコンを作動できる「リモートエアコンシステム」、車速に応じて適切な車間を保ちながら追従走行する「レーダークルーズコントロール」、駐車時に自動運転をする「インテリジェントパーキングアシスト」などだ。
スタイリングはキープコンセプトで、ホンダのインサイトともよく似ている。どうやら空力性能をとことん追求していくと、同じようなフォルムになってしまうらしい。それでも従来モデルと違うところはまずAピラー。前方に25mm出してフロントウインドウの傾斜を緩やかにした。さらに車高の頂点を後方へ移動し、フロントウインドウからルーフへ滑らかな面が続くようにした。これでCd値は従来の0.26から0.25へ向上させることができた。
細部ではヘッドライトの形状が典型的だが、シャープな造形が目を引く。リアまわりもブラックアウトされたリアスポイラーなどで引き締まった印象が強い。一見、変わり映えしないようだが、見れば見るほど「いいなあ」と思えてくるスタイリングだ。
さて、空力性能アップとともに軽量化も燃費向上には欠かせないことだが、ボンネットとバックドアは従来モデルと同様にアルミを採用した。さらにブレーキにはアルミシリンダー、サスペンションの一部にもアルミを使っている。
ボディサイズは全幅が20mm、全長が15mm拡大し、衝突安全性能はクラストップレベルを確保、エンジンは拡大しハイブリッドシステム全体は高度化しているが、車重の増加は100kg以内に留められている。
総合力が大幅にアップ、年内にプラグインも追加
クルマに乗り込んで、まず感じるのはインパネまわりのデザインが大人っぽく洗練されているということ。先進性や未来感覚を強調すると、デザインはとかく子供っぽくなりがちだが、新型プリウスはそうではない。新しさを感じさせながらも落ち着いた雰囲気があってよい。ただインパネまわりの素材がプラスチック然としているので高級感はあまりない。それでも不満がないのはデザインの良さとともに、パネル組み付けの精度が高く、その点でクオリティの良さを感じさせるからだ。
ドライバーズシートは従来モデルより前後スライド量が20mm増えて260mmになった。ハンドルはチルト&テレスコ機能を持つので、様々な体格の人がベストポジションを取れる。また、リアシート膝元の空間が若干拡大している。居住スペースは従来モデルと同程度の必要にして十分なレベルだが、明らかに広くなったのはラゲッジスペースだ。バッテリーの小型化などにより幅を拡大してゴルフバッグ3個を積載することが可能になった。
さて、今回の試乗はクローズドされた場所での限られたものだったが、あらゆるところが少しずつよくなったという印象だ。これがプリウスというクルマの「正しい進化」のあり方なのだろう。アクセルペダルを踏み込んだときの加速が若干力強くなり、ブレーキを踏んだときのフィーリングがより自然になった。またミニサーキットで走らせるとコーナーではサスペンションがしっかり粘り、その立ち上がりも今までより力強くなったという感じだ。
気持ち良さということでは、ミニサーキットよりもEVモードでスルスルと周回コースを走ったときのほうが上だ。トルクの太いモーターという動力源による走行は、低速でも気持ちいいものなのだ。また、40〜50km/hレベルでエネルギーモニターを見ながら走行するのも楽しい。ワインディングロードなどでスポーティに走らせることとは別種だが、それでもクルマとの一体感が得られるという点では似た楽しさなのかも知れない。
10・15モード燃費は正式にはまだ発表されていないが、予測値は38.0km/Lになるという。全般的に動力性能が向上しているにもかかわらず、従来型の35.5km/Lから7%も燃費がよくなったというのは実に凄いことだ。プリウスは乗って楽しく、降りても嬉しいことがあるクルマとして、着実に進化を遂げたということだろう。
ところでトヨタは、今年中に新型プリウスのプラグインハイブリッドモデルを投入する。バッテリーはリチウムイオンとして、家庭のコンセントから充電が可能になる。そして、EV走行の航続距離が格段に伸び、燃費はさらによくなる。ハイブリッドカーの進歩とは凄いものだと感心させられる。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
3代目トヨタ プリウス プロトタイプ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4460×1745×1490mm
●ホイールベース:2700mm
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1797cc
●最高出力:73kW(99ps)/5200rpm
●最大トルク:142Nm/4000rpm
●モーター最高出力:60kW(82ps)/2770-4000rpm
●モーター最大トルク:207Nm/0-2770rpm
●トランスミッション:無段変速
●駆動方式:FWD
●10・15モード燃費:38.0km/L※予測値
●タイヤサイズ:195/65R15