「ホンダ・ヴェゼルで北を目指そう」
そう言い出したのは私(筆者)だった。というのも、以前ヴェゼルで高速道路を100kmほど走った経験があって、そのときの乗り心地があまりに快適だったので、FFモデルとAWDモデルを乗り比べる今回の取材ではもっと遠くまで、できれば裏磐梯まで足を伸ばしたいと思ったから。都内から裏磐梯までは東北道経由で300kmほど。ヴェゼルのロングクルージング性能を見極めるにはちょうどいい距離だ。
試乗車は2台ともハイブリッド仕様のヴェゼル e:HEV Z。ご存じのとおり、ホンダのハイブリッドシステムは、「スポーツ・ハイブリッド」と呼ばれた従来のi-DCDからe:HEVへと世代交代を果たしている。

片道300km以上を走って目的地の裏磐梯に到着。手前はAWD、奥がFFだが、外観にそれを示すもの(エンブレムなど)は付いていない。唯一の識別点はリアの下回りに見えるデフキャリアの有無くらい。
ざっくりと説明すれば、エンジンと車輪の間に置かれたギアボックスにモーターを連結させ、エンジンの働きをモーターでサポートするのがi-DCDだったとすれば、e:HEVは基本的にモーターで車輪を駆動し、エンジンはモーターに電力を供給する発電機の役割を果たすという違いがある。おかげでe:HEVは電気自動車並みに走りが滑らか。しかも、通常時はエンジンと車輪が機械的につながっていないため、車速とは関係なく効率的なエンジンの使い方ができる点もe:HEVのメリット。
このような形式を一般的にシリーズハイブリッドと呼ぶが、シリーズハイブリッドが苦手とする高速域ではエンジンと車輪を機械的に連結して効率をさらに向上させるのが、ライバルにないe:HEVだけの特徴。おかげで市街地から高速道路まで、滑らかで燃費のいい走りが楽しめるというわけだ。
今回、改めて試乗したハイブリッド仕様のヴェゼルでも、e:HEVならではの滑らかな走りを満喫できた。極低速域で大トルクを発生するのが得意で、しかもコンピューター制御と相性のいいモーターは、「コトリ」ともショックを発生させることなく、ソフトに、けれども力強くヴェゼルを前へと押し出してくれる。
一旦動き出してからの走りも実に滑らか。その秘密は、e:HEVは一般的なエンジン車と違って変速機構を持たないため、シフトショックを一切発生させない点にある。しかも、ノイズや振動をほとんど生み出さないこともモーターの美点。もちろん、ヴェゼルe:HEVは必要に応じてエンジンが始動するけれど、ノイズや振動を効果的に抑え込む工夫が施されているため、高速巡航時にエンジンがかかったことも停止したことも、ほとんど気づかないほど。
こうして2台のヴェゼル e:HEVは、北に向けて黙々と、そして力強く進んでいったのである。

ヴェゼル e:HEVZのFFモデル。ボディカラーはメテオロイドグレー・メタリック。

全高はFF、AWDともに1590mm。クーペスタイルのリアまわりのデザイン処理がスタイリッシュだ。

ホイールベースは2610mm。最小回転半径は5.5mで市街地でも取り回しがラクだ。

全幅は1790mm。1800mmを超えるライバルが増えている中で、1.8m以下に抑えたところが良心的だ。

FFのリアサスペンション形式はFFモデルが車軸式、AWDモデルはド・デオン式となる。