小柄な人には手ごわい視界。加減速フィールはまさに常識外れ
発売以来すでに5年が経過しているSLRだが、F1ノーズを模したオリジナリティの高いデザインはいまなお健在で、道行く人たちの視線が痛いほど注目を集める。
搭載エンジンは基本的にはスタンダードなSLと同じ排気量、5439ccのスーパーチャージャー付きV8エンジンだが、マネージメントの改良で最高出力650ps(プラス24ps)、最大トルク820Nm(プラス40Nm)を発生する。ちなみにカタログに記載されている性能は、スタートから100km/hまでの加速所要時間が3.7秒、最高速は335km/hとなっている。
全長4.6m、SLよりもひと回り大きなボディのコクピットは後方に位置しており、シート高をかなり上げた状態でも小柄なテスターではスラントした先端はほとんど見えない。狭い道や駐車場へ入ったりしないと心に決め、メインスイッチをオンにし、シフトセレクター頭部のスタータースイッチを押す。するとドライバーの直前にあるサイドパイプから「ヴァラ、ヴァラ、ヴァラ」っとちょっと不規則なサウンドを発してV8エンジンが目覚める。
強大なトルクに対応するために選択された5速ATの1速を選択し、スロットルを開くとまさに後ろからド突かれたような予期しない加速が始まる。1825kgの空車重量に対して650ps、つまりパワーウエイトレシオは2.80kg/ps、これを超えるのはヴェイロンかイタリアンエキゾチックカーくらいしかない。
まるで有名タレントと一緒にいる感覚。不正路面ではジャジャ馬気味だ
一方、カーボンコンポジットのブレーキパフォーマンスも並みではないから、しばらく身体をこの加速と減速感に慣らしておかないと、他のクルマに迷惑がかかりそうだ。もっとも周囲はこの51万7650ユーロ(約6500万円)という価格を知っているらしく、先行車はすぐ車線を譲るし、後ろにも近寄ってこないので安心だ。しかしときおりケータイのカメラを窓から突き出して近づいてくるクルマもある。まるで有名タレントと一緒にいるようなものだ。
ようやく交通量の少ないアウトバーンへ出る。操縦特性ははっきり言って10年前のスーパーカーのようだ。スムーズな直線では矢のように300km/h近くまで飛ばせる直進安定性を持っているが、ひとたび不整路面へ飛び込むとノーズは忙しく右往左往する。同時にスローダウンせざるを得ない。またコーナーでは、あまり曲がりたがらない。
しかしこれだけ目立って、条件によっては圧倒的に速く、サービスやメンテナンスが整っており、様々な意味でタフ、そしてまともなトランクを持ったスーパーカーは、このSLRロードスターをおいて他にはない。そして何より(もしお金が余っていたら)未来への投資にもなる。なんたってこのSLRロードスター722Sは、世界にたった150台しか存在しないのだから……。(文:木村好宏/写真:Kimura Office)
メルセデス・ベンツ SLR マクラーレン ロードスター 722S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4656×1908×1271mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1768kg
●エンジン:V8SOHCスーパーチャージャー
●排気量:5439cc
●最高出力:478kW(650ps)/6500rpm
●最大トルク:820Nm/4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:前235/35ZR19、後295/30ZR19
●最高速度:335km/h
●0→100km/h加速:3.7秒
※EU準拠