2009年、4代目メルセデス・ベンツ Eクラスのクーぺモデル「Eクラスクーぺ」が登場した。EクラスのクーペモデルとしてW124以来、約14年ぶりの復活だった。メルセデス流のクーペの作法に則り、サイドウィンドウを最後まで開くことができるピラーレスハードトップのキャビンを採用。そこには新型Eクラスに共通するデザインモチーフが随所に散りばめられていた。ここでは日本のメディア向けにドイツ・シュツットガルトで行われた試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年7月号より)

トラディショナルクーペの新しい価値を提案

欧州車の国際試乗会は風光明媚な地で長期間にわたって行われ、各国のジャーナリストが入れ替わりで参加するのが通例。セダンのフルチェンジからあまり時を置かずに発表されたEクラスクーペも、すでにスペインでの試乗会を終えたという。

今回僕が参加したのは、メルセデス・ベンツ本社のあるシュツットガルトにおける日本グループだけのためのスペシャル試乗会。スペインだとあまりの景色の良さに舞い上がってしまいそうだが、なじみのあるドイツ、それも幾度か行っているシュツットガルトなら冷静になれそうで、僕としてはむしろ嬉しい。それに5〜6月のドイツは菜の花が咲き乱れグリーンとイエローの鮮やかなコントラストがそこかしこで楽しめる最高の季節なのだ。

試乗のベースとなったカスタマーセンターで、まずは簡単なプレゼンテーションを受ける。プレゼンターのDr.マイケル・クレマー氏は、Eクラスクーペをトラディショナルクーペの新しい価値を提案するクルマだと切り出した。

開発陣は、このクーペを開発するにあたり市場の声をかなり集めたという。そして、どこに走る歓びを感じるか?という設問に対し「速さ」「速く走れること」と答えたのが全体の1割に留まり、「路面との密着感=コンタクト感/接地感が重要」との声が7割にも達したことに注目したそうだ。

また併せて、8割が「快適性」を求めていることもわかったという。快適性とはやや曖昧だが、ゆったりとした環境でオーディオやインテリア、あるいは会話を楽しめるという意味と解釈している。もちろんこれは乗り心地など動的な部分も含めてである。

つまり顧客がクーペに求めるのは、もはやストイックさや汗臭さではないのだ。これはアウトバーンの交通量増加や、CO2問題のクローズアップと共に、ユーザーの心理がかなり変わってきている表れだと言う。

そんな説明を受けた後に、駐車場へと移動。そこには日本に入る仕様に最も近いE350CGIブルーエフィシェンシークーペと、旗艦モデルとなるE500クーペが並んでいた。

まずは、そのエレガントなフォルムを堪能しなければもったいない。

2ドアクーぺであるCLKに対して40mm以上拡大された全幅のおかげでサイドパネルは豊かな抑揚を表現し、アンダーボディに対してガラスエリアがキュッと絞り込まれたあたりもクーペらしい軽快感を強く醸している。

三日月のような緩い弧を描くサイドウインドウは、無粋なBピラーで分断されることなく、前後をガラス・トゥ・ガラスで繋いでキレイな面を見せている。後端に極々小さな固定ガラスがあるため6ライトとなっているが、前後の窓ともフルオープンとなり、開け放ったときのスタイル、キャビンからの眺めは何とも優雅だ。

フロントマスクは、セダンに対しやや小型化された2本ルーバーのグリル内にスリーポインテッドスターを埋め込んだ専用デザイン。Cクラスではセダンでもアバンギャルドが同じ様式を採るので、もはやクーペならではの顔とは言い難いが、菱形を2つ並べたような精悍なEクラスには、このクーペ顔が良く似合うと感じた。

リアビューは、セダンでも見られた豊かなフェンダーの膨らみを踏襲しつつ、上下方向にスリムになり、傾斜を強めたルーフデッキからの美しいラインをしっかり受け止める。ちなみにCd値は0.24と、元々良好だったセダンよりさらに0.01低められている。

ボディサイズは全長4698×全幅1786×全高1397mm。ホイールベース2760mmで、セダン(4868×1854×1465mm、ホイールベース2874mm)と較べると全体にかなり小型化されている。

画像: 2ドアクーぺのスタイリングは1950年代のS220ポントン メルセデスをモチーフに現代的な解釈でアレンジされている。Cd値は0.24と優秀な空力を達成。

2ドアクーぺのスタイリングは1950年代のS220ポントン メルセデスをモチーフに現代的な解釈でアレンジされている。Cd値は0.24と優秀な空力を達成。

まずE500クーペから。大きいが開閉感は至って軽いドアを開けて乗り込む。低めの着座姿勢と、盛り上がったベルトラインのおかげで肩は完全に隠れる。今回試乗したのはアバンギャルドで、これはブラック系をインテリア基調色としている(座面だけが赤だった)が、それでも閉塞感は意外に少ない。狙い通り上半身を包む空間に余裕が増したからだろう。

ドアを閉めるとフロントシート横のボディ側から音もなくアームが伸びシートベルトが差し出される。シートはクーペらしくハイバックタイプで、4ウェイランバーサポートや、クッションとシートバックをエアで調節するマルチコントロール機能が備わる。座り心地は意外やソフトで、ホールド性は良いが過剰に身体を包み込むような感じはしない。この辺も快適性を追求した結果と見て間違いない。

こうして対峙したインストルメントパネルは、最上段にナビやオーディオ表示を行うインフォテイメントディスプレイを置き、エアコン吹き出し口を挟んでインフォテイメントのコントローラー、サンシェードやシートヒータースイッチを置くミドルパネル、最下段に運転席/助手席/後席の3ゾーン調節が可能なクライメートコントロール(エアコン)と並ぶ。基本形状はセダン系と同じで特段オシャレな演出はないが、いかにも機能的な雰囲気がメルセデスらしい。

フロアコンソールは、ダイレクトセレクトの採用でステアリングコラムにセレクターを置いたセダンと異なり、クーペはフロアシフトとなっている。7速ATはステアリングパドルでの操作も可能だが、やはりクーペというからにはシフトレバーはここにあるのが似つかわしい。ちなみにこれに伴い後方のボックス系のレイアウトも異なり、Cクラスに似た左右非対称のアームレストを採用している。

画像: Eクラスセダンは7Gトロニックがコラムに、5速ATはフロアにセレクターレバーが用意されるが、Eクラスクーペはドライバーズカーであることを強調するかのように、7Gトロニックも5速ATもフロアにセレクターレバーが用意される。

Eクラスセダンは7Gトロニックがコラムに、5速ATはフロアにセレクターレバーが用意されるが、Eクラスクーペはドライバーズカーであることを強調するかのように、7Gトロニックも5速ATもフロアにセレクターレバーが用意される。

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