アッカーマンジオメトリー(アッカーマン・ジャントー方式)という仕組みがクルマに採用されている。駆動輪のデフと同じく、クルマがスムーズにコーナリングするために必要な機構だ。今回はこれを解説していこう。

左右前輪の角度に差をつけるアッカーマンジオメトリー

走っているときにハンドルを切れば曲がるというのは、簡単なようでいろいろ複雑な要素を持っている。例えば前輪に舵角が付いているときに、左右輪は平行だと具合がよくない場合がある。一定条件でスムーズに曲がるために、外輪と内輪が描く円の半径を変える必要があるのだ。

画像1: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

もし前輪の切れ角が並行だとすると、左右の前輪が同じ大きさの円を描き、なおかつ後輪の軸線に旋回中心を2つ作ってしまう。こうなると、理屈的に同じ半径の軌跡を描く円が2つできるために、外周がどこかで交差してしまい上手く曲がれないことになる。

画像2: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

スムーズに旋回することを考えると、遠心力などのかからない低速(一般)走行時に、左右の操舵輪の軸線の延長が後輪の軸線の延長線と1点で交わるようにすればいい。これで前輪が1点の旋回中心を持つことになるので、タイヤの横滑りを発生させずにスムーズに曲がれる。

そのために外輪は大きな回転半径を描き、逆に内輪は小さな回転半径を描く必要があるので、内輪の方が切れ角を大きくしなくてはならない。ハンドルを切った状態のクルマをよく見ると、左右輪の切れ角に違いがあることを目視でも確認できるはずだ。

アッカーマンジオメトリーは、タイヤを切るときの支点となるナックルアームの角度を変えることで成り立たせている。ナックルアームを「前開き」にしてタイヤを(トー角などがあるとしても)並行にすれば、ハンドルを切ると内輪の切れ角も大きくなるというわけだ。

画像: 写真はマツダロードスターのフロントサスペンション。スポーツ走行時とは別に、低速走行時にもアッカーマンジオメトリーで曲がりやすくしている。

写真はマツダロードスターのフロントサスペンション。スポーツ走行時とは別に、低速走行時にもアッカーマンジオメトリーで曲がりやすくしている。

アッカーマンジオメトリーは、横滑りを伴わない(スリップアングルの付かない)旋回を低速走行(一般走行)で行うとき有効に働く。逆にある程度以上の速度で旋回するときは、タイヤにスリップアングルを付け、コーナリングフォースを働かせる必要が出てくる。

また、現代ではタイヤにある程度のスリップアングルを持たせて、滑りながらコーナリングする方が良いとされており、かつてのクルマに比べると左右の角度の差が小さくなっている傾向となっている。(文:FAN BOOK編集部 飯嶋洋治)

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