トヨタ WiLL Vi(2000年〜2001年)
振り返ってみれば「あれはいったい、何だったんだろう」と思わざるを得ないのがトヨタのWiLLシリーズだ。
その第一弾が2000年1月、まさに21世紀の幕開けに登場した「WiLL Vi」である。WiLLは異業種とのコラボレーションによって商品を開発しようと企画されたプロジェクトで、1999年8月に発足した。まずは花王、アサヒビール、松下電器産業(後のパナソニック)、近畿日本ツーリスト、そしてトヨタ自動車の5社でスタート。その後2000年3月にコクヨ、同年6月に江崎グリコが加わる。各社がWiLLブランドを展開し、幅広く認知してもらおうというわけだ。
そこでトヨタからリリースされたのが「WiLL Vi」だ。何より驚きだったのがコンパクトなノッチバック4ドアセダンの、奇抜なスタイリングだった。
シンデレラの話に出て来る「カボチャの馬車」をイメージしたというだけに、ターゲットはお姫様願望の女性だったのだろうか。ボンネット、サイドパネル、トランクには太めの3本のスリットを入れ、前後のフェンダーはオーバーフェンダーっぽく張り出している。
特徴的だったのはクリフ(絶壁)カットと呼ばれる垂直的なリアウインドウのデザイン。1950年代のフォード・アングリア、それを真似た60年代のマツダ・キャロルのようなCピラーの角度には、思わず「オッ!」と息を飲むこと間違いなしだ。
仔細にチェックして行けば、ドアミラーがダイハツ・オプティ用だったり、サイドマーカーランプがユーノス・ロードスター用だったりする。このあたりはWiLLならではの演出だった。WiLL Viはノーマルルーフの他、当時としてはもはや希少となっていたオープン仕様のキャンバストップも用意していた。
ヴィッツをベースに、リビング感覚のキャビンを実現
ドアを開けるとそこにはクルマらしからぬ世界が広がる。小さ目のセンターメーターが収まるダッシュボードはフランスパンのバケットをモチーフにしたというだけあって、丸みを持たせたブラウンでアレンジされていた。サイドにポケットを設けた前席はベンチ式としてホワイトを基本にお洒落にデザイン。そのベンチシートに合わせてATシフトは邪魔しないコラム式としていた。そこはまるで居間にいるかのような寛ぎの空間だったのである。
ベースはヴィッツ。ゆえにエンジンは88psの1.3L版直4DOHCで、組み合わせるATは4速。ボディサイズは全長×全幅×全高が3760×1660×1575〜1600mmと、今で見ればAセグメント級だ。これで5人乗車可能で独立したトランクを持っていたのだから立派。
車重はヴィッツより100kg近く重かったため、走りは穏やかだった。タイヤをプリウス用の165/65R15サイズの細身を履いていたあたりは、かつてのシトロエン2CVのようで微笑ましかった。車格をしっかり捉えていたからこそのセッティングだったのかもしれない。
WiLLシリーズの第二弾として2001年4月に登場した「WiLL VS」では、スポーティな5ドアハッチバックに高性能エンジンを搭載してクールなスポーツ性をアピールした。さらに、2002年10月には第三弾、サイバーカプセルを謳うサイファ(これが3.2万台と一番売れた!)を加える。
しかし、シリーズとしての統一感はなく、2004年7月にはWiLLシリーズのプロジェクト自体が消滅する。「WiLL Vi」はと言えば、2001年12月までの約2年間での販売台数は1.6万台弱。かくして2005年までと短期間で終わってしまったWiLLシリーズは、合計でも販売台数6.3万台ほどに留まったのだった。(文:河原良雄)