20インチの大径タイヤが生む、抜群の安定感
今年(2009年)4月にSクラスのマイナーチェンジが行われた。そしてこれを機に、SクラスのハイエンドスポーツモデルS63 AMGとS65 AMGにも、フェイスリフトモデルが追加されることになった。
今回、主にテストしたのはS65 AMGだが、搭載されるエンジンはマイバッハにも採用されている6L V12ツインターボだ。トランスミッションは5速AT、0→100km/h加速は4.4秒、最高速度は250km/hでリミッターが作動する。この制限速度に異議を唱える人は、さらに50km/hの上乗せ分を入手することも可能だ。ただしそれには4000ユーロ(約52万円)の反則金と、ハイスピード・ドライバートレーニングへの参加が義務付けられる。
ベースになったSクラスのフェイスリフトが控えめだった影響もあり、このS65 AMGの外観は旧モデルとの大きな違いは見られない。ただし20インチの大径タイヤを履くことによって、5mを超える巨艦の身体つきはやや締まって見え、パワフルな安定感が生まれている。
こうしたハイパースポーツセダンをテストするには、アウトバーンへ持ち込むのが手っ取り早い。AMGもそれを熟知しており、試乗コースには制限速度の設定がないルート、A81が設定された。
凄まじい高性能を発揮しながらも、その走りはジェントル
巨大なトルクにもかかわらずシフトはスムーズで、豪快な加速感とともにあっという間に250km/hに達した。そしてそのままスロットルを踏みつけると、試乗車は特別にリミッターが外されているらしく、スピードメーターの針は300km/hの表示に向かって、スケールを振り切りそうな猛烈な勢いで上昇してゆく。
現在の高性能モデルはこんなハイスピードをいとも簡単に経験させてくれるが、メルセデスAMGの特徴は、荒々しさがなくあくまでジェントルであることだ。それゆえにドライバーは、たとえ500kmほども離れた目的地であっても、疲労を感じることなく到達できる。
それを可能にするハイテクのひとつが、アクティブボディコントロール(ABC)である。ロールとピッチングを抑え、さらにこの種の大型車では影響を受けやすい横風に対する安定性も約束している。
アウトバーンを下りてからのワインディングロードでも、新たに採用されたトルクベクトリングブレーキシステムによって、コーナーを速やかに安定した姿勢でスムーズに抜けることが可能となっている。このシステムは、コーナリング中にイン側の車輪にブレーキを介入させるもので、トルクを増加させるわけではない。だが、その効果は非常にわかりやすい。
このAMGのフラッグシップは、まるでエグゼクティブのためのプライベートジェットのような存在だ。しかも価格は22万1221ユーロ(約2900万円)と、プライベートジェット機よりはずっとお安くなっている。飛行場の少ない日本では出番もきっと多くなるに違いないが、日本市場への導入時期や価格は残念ながら現時点ではまだアナウンスされてはいない。(文:木村好宏/写真:Kimura Office)
メルセデス・ベンツ S65AMG 主要諸元
●全長×全幅×全高:5206×1871×1473mm
●ホイールベース:3165mm
●車両重量:2270kg
●エンジン:V12 SOHC ツインターボ
●排気量:5980cc
●最高出力:450kW(612ps)/4800-5100rpm
●最大トルク:1000Nm/2000-4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:前255/35R20、後275/35R20
●0→100km/h加速:4.4秒
●最高速:250km/h(リミッター)
※EU準拠