ホンダの原点とも言える「日々の生活を支える」ライフクリエーション事業は実に多岐にわたる。この連載では、これまで汎用エンジンを使ったパワープロダクツ事業、船外機を使ったマリン事業を紹介してきたが、今回は次世代に向けた取り組みについて、新事業推進部長 柳川 淳氏に話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長/Motor Magazine 2022年3月号より)

新事業推進部とは

「新事業は将来に向けた夢物語ではなく、すぐそこに来ている未来を技術で実用化すること」だという。その分野は大きく分けて3つある。ひとつは次世代の動力源となりうる「モバイルパワーパック」の普及を目指すというもの。もうひとつはアシモで培った「ロボティクス技術」の発展と展開。3つめはいわゆるIoT(Internet of Things/モノのインターネット)と言われる「デジタル技術」による新しいソリューションを提供すること。いずれも実用化に向けて実証実験を含めた研究開発を行なっているという。

画像: 柳川 淳(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部 新事業推進部部長):1994年に本田技研工業株式会社へ入社。汎用事業本部(現在のライフクリーエーション事業本部)でキャリアをスタート。中国で発電機事業に携わった後、汎用機の輸出業務、アメリカでマリン事業の営業、中国市場向け4輪営業、マリン事業の商品企画などを経て、2021年10月から現職に就いている。

柳川 淳(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部
新事業推進部部長):1994年に本田技研工業株式会社へ入社。汎用事業本部(現在のライフクリーエーション事業本部)でキャリアをスタート。中国で発電機事業に携わった後、汎用機の輸出業務、アメリカでマリン事業の営業、中国市場向け4輪営業、マリン事業の商品企画などを経て、2021年10月から現職に就いている。

カーボンニュートラルの実現に向けモバイルパワーパックの活用や拡大を推進

──新しい事業を担当されていますが、具体的にはどんなことを手がけているのでしょうか。

柳川氏 「大きく分けて3つの分野があります。ひとつは次世代の電動化のキーアイテムになるであろうモバイルパワーパックを普及させること。もうひとつはアシモで培ったロボティクス技術を使った事業を展開していくこと。3つめはデジタル技術を用いて事業者様に新しいソリューションを提供していくことです」

──モバイルパワーパックを使った作業機械の開発などは新しい事業ではないのでしょうか。

柳川氏 「ホンダではカーボンニュートラル実現を目指して、さまざまな製品へのモバイルパワーパックの活用や拡大を進めています。すでに発売済の電動二輪車のみならず、工事現場の各種作業機等への適用も、お取引先様と共に推進しています。ただこれらはパワープロダクツの延長線上にあるものと捉えています」

──モバイルパワーパックを使った新事業はどういうものですか。

柳川氏 「再生可能循環型エネルギー社会の実現に向けて、モビリティメーカーであるホンダがどう貢献できるかということへの回答として、最終的にはモバイルパワーパックと、町中に設置する交換ステーションを、蓄電インフラとしても使っていくといった姿を目指しています」

画像: 着脱式可搬バッテリー「モバイルパワーパック(」右)と充電器。空になったら充電されたものと交換して連続使用する。

着脱式可搬バッテリー「モバイルパワーパック(」右)と充電器。空になったら充電されたものと交換して連続使用する。

──モバイルパワーパックは、再生可能エネルギーを選んで持ち運べることを想定して開発されたのですか。

柳川氏 「モバイルパワーパックの充電自体はどのように発電された電気でも可能ですが、開発の動機は環境貢献だったということです」

──交換インフラの構築は進んでいるのですか。

柳川氏 「インドの3輪タクシー証実験を行ったことを発表していますが、2022年夏より実際にバッテリーシェアリングサービスを開始する予定です。バッテリーのマネージメントがポイントとなりますが、街中のどこにステーションをどれだけ作ればいいか、効率よく使われるためにはどうすればいいかなど、これまでにさまざまなノウハウを積んできました」

アシモで培ったロボット技術が次世代モビリティで開花する

──利用料金はどのくらいなのですか。

柳川氏 「利用料金はエンジン車の燃料代と同じ程度に設定できる予定です。インドでは燃料補給も長蛇の列という国情があるため、バッテリー交換スタンドのほうが使い勝手がいいというメリットもあります。
また、インドでは急速な経済発展に伴い大気汚染が深刻化しており、国を挙げて再生可能エネルギーの活用拡大、輸送部門の電動化を推進しています。もちろん、地域によって状況は違いますので、どこでもすぐにこれが実用化できるわけではありませんが、すでに複数の地域で事業を展開する計画を進めています。ホンダにとってもビジネスとしてやっていく価値のあるものです」

──ロボティクス技術を使った新しい事業としては、ラスベガスで発表されましたオートノマスワークビークル=AWVでしょうか。

柳川氏 「AWVは、建設現場など公道ではない特定の場所や人間が働くには過酷な場所での活用を想定した、無人プラットフォーム型自律電動移動モビリティです。アメリカ・ニューメキシコ州の大規模太陽光発電施設の建設現場で行った実証実験で、機材の牽引や建設資材などの物資を作業現場内のあらかじめ設定した目的地まで運ぶなど、さまざまな作業の検証を実施しました。現時点ではプラットフォーム(土台)のコンセプトの段階で、今後、用途にあわせてさまざまなアレンジが加えられることになります」

──AWVを販売するということですか。

柳川氏 「単にモノとしてAWVを売るのではなく、建設業者様に効率良い資材輸送を提供するといった形でのサービスビジネスを考えています」

画像: プラットフォーム型自律移動モビリティ「オートノマス ワーク ビークル」。

プラットフォーム型自律移動モビリティ「オートノマス ワーク ビークル」。

──3つめの分野のソリューションはどういうものでしょうか。

柳川氏 「実際に商品があるわけではありませんが、いわゆるIoTですね。たとえば建設会社などで使っていただいている機材に通信デバイスをつけて稼働状況を可視化し、作業の効率化をお手伝いするといったサービスです」

──これまでのライフクリエーション事業とは考え方も違うものですね。

柳川氏 「大量生産して大量に販売するというものではなく、そもそも物を売るのが本質でもありません。バッテリー展開のノウハウやロボティクスなど新しい技術を使って、現在の課題やいずれ訪れる難題を解決し、将来にいかに繋げていくかということです」

──ありがとうございました。ライフクリエーションの新しい事業に期待しています。(まとめ:松本雅弘/写真:村西一海、Honda)

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