電動化されても継承するマセラティの本質
マセラティとランドローバーといえば、ともにラグジュアリーブランドの一画を担っていることを別にすれば、同じ土俵に上ることは滅多にないくらい距離が離れた伊・英のビッグネームである。
だが、元はといえばグランツーリスモ作りの名手であるマセラティがランドローバーの牙城というべきSUV市場に乗り込んできたことで両ブランドは急速に接近。そこに拍車をかけたのが電動化の波で、マセラティは全モデルの電動化を早々と宣言するいっぽう、ランドローバーもPHEVやマイルドハイブリッドを次々と投入、来るべき電動化時代に備えている。
こうした背景から誕生したレヴァンテGTとレンジローバースポーツD300は、もともとの出自は大きく異なっているのに、少なくともスペック的には驚くほどよく似たライバル関係にある。今回、「ハイブランドSUVの電動化アプローチ」というテーマで2台を取り上げたのは、おおよそ以上のような理由によるものだ。では2台を順にご紹介しよう。
日本上陸を果たしたばかりのレヴァンテGTは、ギブリ ハイブリッドに続くマセラティ電動化モデルの第2弾で、ともに排気量2Lの直4ガソリンターボエンジンに48VのMHEV(マイルドハイブリッド)システムを組み合わせている。この結果、レヴァンテGTは330psの最高出力を振り絞るとともに、最大トルクは450Nmに達する。
レヴァンテGTに試乗すると、マイルドハイブリッドらしい低速域での力強さやレスポンスのよさもいくぶん感じられるものの、それ以上に伸びやかな加速感が強く印象に残る。また、高回転域まで引っ張ったときに、マセラティらしい快音を響かせることも特徴のひとつ。その意味でいえば、電動化されてもブランドの本質は失われていないといえる。
背筋がゾクゾクするような官能性が味わえる
レヴァンテのプラットフォームは軽合金素材を多用したギブリ用がベースとなる。レヴァンテの発表が2016年、ギブリはそこからさらに3年遡る2013年だから、シャシの洗練度という点では最新モデルにやや見劣りする部分があるのはやむを得ない。とはいえ、基本的なボディ剛性や走行安定性に不満があるわけではなく、快適性と操縦性のバランス取りといった面で最新モデルに一歩及ばない、といった程度のものである。
具体的にいうと、レヴァンテGTの足まわりはどちらかといえばソフトな設定で、ピッチングやローリングが小さくないわりに、路面からのゴツゴツ感を正直に拾う傾向がある。だから「これだけ足まわりが柔らかいのなら、ハーシュネスをもう少しうまく吸収して欲しいなあ」というツッコミのひとつも入れたくなるのだが、これがワインディングロードに足を踏み入れると、そうした印象が一変するのだから実に面白い。
コーナーの入り口でブレーキングすると、レヴァンテのノーズは確実に下降し、ハンドルを切れば外側のサスペンションがグッと沈み込む。ある意味で当然ともいえるこの動きにより、4輪のどのタイヤにどれくらいの荷重がかかっているかが克明に感じ取れるし、裏を返せば、荷重移動を積極的に活用して走行ラインを微調整することも簡単にできるのだ。
ベテランのスポーツドライバーからは「そんなものはコーナリングのイロハのイ!」と怒られるかもしれないが、最近はこうしたドライビングの実感を味わえないモデルが増えていることも事実。その意味でいえば、レヴァンテGTは基本に忠実ともいえるし、伝統的な意味での「操る楽しさ」に溢れているともいえるだろう。
そうした喜びを倍加させるのが前述したエキゾーストサウンドで、積極的なコーナリングを試していると、背筋がゾクゾクするような官能性を味わえる。つまり、たとえSUVでもマセラティの本質的な魅力を失っていないのがレヴァンテGTなのだ。