ピラーが残る構造ならではの高いボディ剛性
オープンカーで走っているととても気持ちがいい。しかし、それはまわりからの視線が集まることに耐えられる場合だ。反対側の立場になってみれば、オープンカーを見かけると、どんな人が乗っているのかつい見たくなるし、実際に見てしまう。爽快感と視線の集中はオープンカーには切っても切り離せないセットなのだろう。
その覚悟で、フィアット500のオープンモデル「500C」に試乗した。しかし、500Cの場合は、オープンカーとはいっても、AピラーもBピラーもCピラーもあり、キャンバストップが開くタイプなので、爽快感こそ感じるものの、そこにつきまとう視線の集中はあまり感じられなかった。いや、正確に言うと視線は感じた。しかし、それは通常のオープンカーのようにドライバーに対するものではなく、単にキュートなスタイルで走る500Cというクルマに対してなのだ。
500Cは、ベースとなったフィアット500とディメンジョンを比べると、全長、全幅が同じ、全高がマイナス10mmとほぼ同サイズ。大きな違いは、ファブリック製のキャンバストップがあること。そう、500Cは、1957年に登場した2代目フィアット500をリスペクトしたオープンモデルなのだ。思えば、500の独特のスタイルをスポイルしないでオープンモデルに仕上げるには、この方法がベストではなかろうか。そういえば、ルパン三世が乗っていた500もキャンバストップだった。
キャンバストップは3段階に開く。フルオープン、ハーフオープン、全閉手前約25cmオープンだ。一番爽快度が高いのはフルオープン状態だが、この位置まで開けてしまうと後方視界が妨げられてしまい、後続の車両はわかりにくいし、障害物も見にくいのでバックもしにくい。ただ、そんな状態でもハイマウントストップランプはキャンバストップに組み込まれているため、後続はブレーキランプの点灯が確認できる。
オススメはハーフオープンだ。この状態ではガラス製リアウインドウから後方の確認ができ、爽快度もオープンカーのものが味わえ、運転していてとても楽しい気分になる。
フルオープンでも走りに違いは感じられない
試乗車は50台限定の1.4 16V ラウンジSS。専用デザインのレザーシートとクロームで仕上げられたヒーテッド電動ドアミラーが標準装着される。赤色のレザーシートは色鮮やかで、見ているだけで気持ちが昂揚するし、座り心地もいい。しかし、残念なことにヘッドレストの色はベージュ。これは意図的なものなのだろうか、少し疑問が残る部分ではある。
パワーなどのスペックは、1.4 16Vラウンジと同じだが、通常のオープンモデルと違い、500Cのメリットはボディ剛性に優れている点だろう。クローズドでもフルオープンでも、走りに違いはあまり感じられないしっかりとしたものだった。それは高速道路やワインディングになっても印象が変わることはなかった。オープンモデルの場合、重量増は避けて通れないはずだが、500Cはハッチバックより10kg増に抑えられ、そうした部分がネガになっていない。
500Cには、ハッチバックと同様にSPORTモードが用意される。このスイッチを押すと電動パワーステアリング、エンジン制御、デュアロジック制御がスポーツ設定になり、ギアポジション表示の上に「S」マークが点灯する。
しかし、この点灯するSマークはとても控えめだ。このあたりがフィアットらしいと言えばらしいのだが、SPORTモードに関してはもっと演出があってもいいのではないだろうか。ただ、そうした演出はなくとも、アクセルペダルの踏み込みに対するレスポンスやシフトタイミングが変わることで、SPORTモードに入っていることはわかるのだが……。
オープンモデルではあるが、フルオープン時にトランクが使えるのもいい。容量もハッチバック比でマイナス3Lの182Lとほぼ同等を確保している。こうした普段使いのことも考えられているのが500Cなのだ。
しかし、この500C。フルオープンにするときはくれぐれも、日焼けには注意して欲しい。ついつい楽しくて開けすぎてしまうからだ。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:永元秀和)
フィアット500C 1.4 16VラウンジSS 主要諸元
●全長×全幅×全高:3545×1625×1505mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1060kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1368cc
●最高出力:74kW(100ps)/6000rpm
●最大トルク:131Nm/4250rpm
●トランスミッション:5速AMT
●駆動方式:FF
●車両価格:299万円(2009年当時)