従来のフランス車の概念を覆す「隙のなさ」に驚いた
「どこをとっても弱点が見当たらない」新型プジョー308に初めて触れて以来、私はそう言い続けてきた。そしてその思いは、いまも基本的に変わらない。
もちろん、好みの問題はあるだろう。デザインにしても、シャシやパワートレーンの味付けにしても、好き嫌いは誰にもあるはず。だから、308のテイストを好まない人がいたとしても不思議ではない。それでも、ライバルに比べてまったく性能が劣っているとか、実用性が著しく欠けているという部分はひとつもないはず。少なくとも私は、そうした決定的な弱点をまだ見つけられずにいる。
これはフランス車の歴史を考えれば例外的なことだ。私自身はもともとフランス車好きで、プライベート用としても仕事用としても日常的に長く接した経験があるが、たとえば乗り心地やハンドリングは優れていても、パワートレーンの仕上がりは平凡で、インテリアの質感もあまり高くないというのがフランス車の伝統的なキャラクター。
それが新型308はすべてのパワートレーンが最新のスペックを備え、インテリアの質感や装備にしても最新のドイツ車を凌駕するほど充実しているのだから、隔世の感は否めない。
それでは、新型308の概要を説明することにしよう。1969年にデビューした304から数えると8世代目にあたる新型308は、ヨーロッパや日本のボリュームゾーンであるCセグメントに属するプジョーの主力車種だ。ご存じのとおり、308を名乗るモデルはこれで3代目にあたるが、今回は内外装を見直して大幅なイメージチェンジを図るなど、大規模なモデルチェンジが実施された。
デザインを一新力強くダイナミックに
たとえばエクステリアデザインは、どちらかといえば豪華さに振った従来の方向性から、力強さ、ダイナミック、筋肉質といったキーワードが思い浮かぶ路線へと一新され、一気に時代の最先端に躍り出たような印象を受ける。
なかでも目を引くのがライオンのかぎ爪を模したデイタイムランニングライトで、チンスポイラー近くまで伸びた牙先は、反対側でヘッドライトの脇をかすめてフェンダーフレアの上端を構成する凝ったデザインとされている。このフロントフェンダーまわりはオウ部分とトツ部分が幾重にも積み重ねられた複雑な形状となって、新型308の高い質感や力強いイメージを表現するのに重要な役割を果たしている。
牙をモチーフにしたデイタイムランニングライトが、いまやプジョーのアイデンティティを示す重要なデザイン要素となっていることはご承知のとおりだが、新型308で初めて装着された新しいエンブレムも、今後はプジョーのブランドイメージを形作るうえで重要な役割を果たしそうだ。ちなみに、この裏側にはADAS用のレーダーが取り付けられているため、新しいエンブレムはレーダー波を透過するインジウムという金属で製作されているという。
ボディサイドを眺めると、Aピラーの根元をやや後退させてロングノーズのプロポーションを生み出していることに気づく。俊敏な走りを予感させるスタイリングだ。また、フロントフェンダー周辺の複雑な面処理はキャビン部分で一気にシンプルな形状へと改められ、リアフェンダー周辺で再びダイナミックかつ重層的なプレス処理が施されている。
これによって前後輪が力強く大地を捉えている様子を表現するとともに、前方から流れてきた気流が後方に勢いよく排出されるイメージを際立たせており、クルマが停まっている状態でも疾走感を演出することに成功している。
インテリアデザインも実に印象的で、とくにダッシュボードはエッジを利かせた「ひさし」を何段にも積み上げるようにして立体感や先進性を表現。操作系にも大型のタッチディスプレイや短いレバー式のシフトセレクターを採用して近未来性を打ち出している。また、このクラスとしてはクオリティ感が極めて高く、かつてのフランス車の面影は微塵も残っていない点も注目すべきだろう。
そんなインテリアデザインの決定打ともいえるのがプジョー自慢のiコックピットで、小径ステアリングの上からメーターパネルをのぞき込むレイアウトはいかにも斬新。しかもデジタル式メーターパネルのグラフィックはデザイン性が高く、視認性も良好。そして小径ステアリングは「クルマを手中に収めている」感覚を満喫させてくれる。プジョーらしい独創的なアイデアだ。